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聖剣の担い手  作者: アキ
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第四話


 レジスタンスの男は笑った。

 剣を渡せた相手が、利発そうな少年だったからだ。あのぐらいの年で生き残る選択を素早く判断して実行することは並大抵のことではない。彼があの判断を下せたことは、ある種の才能であった。

 

「簡単に死ねると思うなよ!」

 

 グロウズ軍。

 異形の敵。

 それが、剣を構えて吠えていた。

 

「逆賊め! 我らの聖剣を奪うなど、万死に値する!」

 

 聖剣。

 人類の希望。

 正確に言えば、あれは聖剣ではない。戦時、聖剣の担い手にあまりにも手こずった魔王軍が、奪った聖剣を分析し、新たに作り上げた模造品である。いいや、模造品とも言い切れない節が、実は存在している。魔王軍の技術も込められた一品と推測されているのだ。

 というのも、あの新型の聖剣を使おうと人間が鞘から抜くと、その人間はすぐさま発狂し、「頭が熱い!」と絶叫。悲鳴を上げつつ剣を振り回すという最悪な武器であったからだ。わけがわからないために何人か試してみたが、すべての引き抜いた人間が同じように発狂し、死んでしまった。

 結果、レジスタンス側は人間には装備できないものなのかもしれない、との見解を示した。

 装備できずとも、巨大な戦力を奪うだけでも人類にとって価値があると判断したのだ。

 しかしレジスタンスの誰もが心ひそかに思っていた。

 適応者がいないだけではないだろうか、と。

 元々、聖剣は聖剣の担い手にしか扱えない武器だ。それ以外の者が使用しようとしても、まず引き抜けない。抜いた状態で渡されても重すぎて持ち上げられないため、適応者以外は扱えないのだ。

 聖剣自体が重いわけではない。鞘に収まった状態ならば誰でも持ち運ぶことはできるし、聖剣の担い手には女性だって存在していた。だがしかし、まるで聖剣自体に意思があるかのごとく、人を選別し、装備できる者とそうでない者を決めているようだったのだ。

 あの新たな聖剣もそうなのかもしれないとレジスタンスの誰もが期待するのは当然のことであった。

 しかし聖剣は発狂しない。

 そう。言うなれば、あれは魔剣であった。

 聖なる魔剣。

 呪われた聖剣。

 人類に扱えないかもしれないとの見解は、こうした認識によるものも大きかった。

 けれども男は淡く期待している。

 適応者がいないだけなのだと。

 そして、聖剣と同じように、担い手が現れるということを。

 おそらくあの少年はグロウズ軍に追い込まれたら剣を抜こうとするだろう。そして振るうことになる。だが十中八九、発狂して死ぬだろう。頭が燃えたかのように周囲に訴えかけながら、発狂して死ぬのだ。

 それでよかった。

 その際、とにかく剣を振るうことにはなるのだから。

 最終的に彼は死ぬ。

 が、グロウズ軍と打ち合いになり、緑色の軍服の死体の山を築くことになるはずだ。予定では、そろそろ回収班がここにたどり着くことになる。回収班は少年の死体から聖剣を入手する。つまりレジスタンスの勝利となる。

 願わくば、その後に適応者が現れてくれればと男は願う。人類は新たな希望を見出すことになるだろうからだ。しかしそれは聖剣とは違う、あまりにも危険な、あまりにも危険な賭けなのではあるが。敵味方もろとも殺しつくす、残忍な、新たなる希望である。

 まさに魔剣といえる代物だな、と男はひとりごちた。

 できるならば少年には引き抜かないで欲しい。

 利発そうなあの少年。彼が新たな聖剣を引き抜くことなく、上手く逃げおおせて回収班と合流するのが最も理想的な展開だ。少年は唯一の生き残りとして保護され、こことは別のレジスタンスの街に移住することになるだろう。

 回収班が来るにはまだ早い。

 男が、自身が聖剣を引き抜くことを躊躇わせた大きな要因。

 だが少年がその要因を取り去ってくれた。

 神に感謝するべき事柄だろう。

 時間という人類にとって貴重な財産を与えてくれた少年には生き延びてほしいものだ。

が、それもここでの時間稼ぎ次第だ。

 男は気合を入れた。


「聖剣は聖なる希望! 魔の者たちよ! 聖なる輝きに恐れおののくがいい!」

「何をふざけたことを!」

「平和を乱しているのは貴様らの方ではないか!」

「人間側が我らへの恭順の意を示したのだぞ!」

 

 そうだ。

 人間は負けを認めた。

 現に、グロウズ軍に所属している者だっている。

 人によっては彼らのことを裏切者だと罵る対象になる。

 生き延びるために尻尾を振った負け犬の集まりだと叫ぶのだ。

 けれどもそれも仕方のないことだと男は考えている。聖なる剣の担い手が敗れ、人類の希望は潰えた。そうして魔王に支配された現在。剣を奪われた人類は、自身で生き延びる術を探さなくてはならない時代になったのだ。

 しかし。

 男は愛刀を握りしめる。

 こうして武器をどうにかして入手することはできる。

 こうして強固たる意志を相手に示すことはできる。

 人類は、まだ膝を屈してはいないのだ。

 

「人は、負けない!」

「往生際の悪いヤツめ!」

「死ねぇい!」

 

 雄叫び。

 振り下ろされた剣戟を弾く。

 神よ!

 我らに希望の光を!

 男は戦う。

 人類の未来を信じて。



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