第一話
申し訳ないのですが、
感想は返せません。
単純に、仕事に追われて時間がないので。。。
「くっ! どうしてこんなことに……!」
戦。
昼下がりの街中にはあちこちで悲鳴が散乱している。
レイチェルと呼ばれる少年もその一人で、彼は危険から逃げていた。
息も絶え絶えに、死に物狂いで。
後ろ。
振り返ると、そこにはシルエットだけ見れば背の大きな人間のような、赤い皮膚に潰れた鼻、頭部には二本の角を生やした異形の化け物が、片手剣を持って笑いながらレイチェルを追いかけていた。
「おい、いつまで逃げるんだぁ!?」
息が、苦しい。
しかしレイチェルは走る。
あてもなく、だが助かるために。
街の出入り口はすでに化け物たちに閉鎖されている。
一体俺が何をしたっていうんだ!
レイチェルは叫びたかった。
俺は何もしていない!
どうして!
どうしてこんなことに!
いつも大人しくしているじゃないか!
他の人と同じように、いつも大人しくっ!!
「鬼ごっこかぁ!?」
下卑た笑い声。
逃げる。
足が、重い。
それでも。
必死に。
「ちょぉっと話を聞くだけじゃねぇかよ。んなに必死になるなってぇ」
敵。
軍服。
緑色の。
グロウズ軍。
魔王の、手先。
レイチェルは青ざめた。
息が。
もう。
どうする?
どうすればいい?
俺は、どうすれば!?
「手荒なことをするなとは、命令書には書いてないけどなぁ!」
死。
濃厚な。
街中に漂う、気配。
死にたくない。
死にたくない!
死にたくないっ!!
レイチェルは必死に足を動かす。
すでに世界は魔王に支配されていた。
人間とは違う生物である異形のモンスターたち。それらを束ねる魔王。戦争当初、なんとかモンスターの軍勢を人類は食い止めていた。希望の光とされた聖剣の担い手、彼らの大きな活躍によって。だがしかし。彼らは倒され、聖剣は魔王の手に落ちてしまった。
それからの戦線崩壊は一瞬だった。
まるで糸の切れたマリオネットのように。
あっけなく。
本当に、あっけなく。
「ッ!?」
目前の横たわった死体。
レイチェルは嗚咽をこらえて飛び越えた。
知り合いだった。
両腕。
切り取られて。
泣きたくなるのをどうにかして耐える。
何かを叫び、訴えかけてくる死体の表情が、頭から離れない。
凄惨。
涙目。
逃げなければ。
どうにかして。
この場所から。
レイチェルは戦争によって両親を亡くしている。
が、叔父と叔母が引き取ってくれたために、現在は叔父と叔母、そしてレイチェルと同い年の、彼らの娘クリスと共にひっそりと暮らしていた。魔王に世界が支配されたといっても、ある種、穏やかな日常ではあった。大人しく暮らしていれば、命までは取られないのだ。そう、大人しく、暮らしていれば。
「クリス……ッ!」
悲痛で、小さな呟き。
街中に響く悲鳴。
命からがら逃げているこのときでさえも、レイチェルは、自身が剣を持って自ら戦場へ足を踏み入れるなどとは、夢にも思わなかった。