1 終幕
アミーリアが屋敷に戻ってから、三日が経った。
すでに屋敷の中に候補者たちの姿はない。あんな事件があったのだから、と娘を思いやったエルバートが本邸へ移動させたのだ。
事件以来すっかりふさぎ込んだアミーリアは、戻って二日をベッドの中で過ごした。エルバートや、ユージンやジェラルドは、それを事件のせいだと思っている。盗賊と同じ屋敷に寝泊まりしていたあげく攫われたのだから、彼らがそう思うのは当然だった。
そして、戻ってから三日目、『婿選び』の開始から十日を数えた今日は、アミーリアの十六歳の誕生日。そして、『婿選び』の期日だった。
「はいはい、お嬢様―、いつまでもベッドにいるとかびちゃいますよー。今日は大事な日なんですから、ちゃっちゃと起きてちゃんとおめかししてくださいねー」
「……いや。いかない。行きたくないわ」
ばさっと上掛けをはぎとったエフィの手から、アミーリアはもう一度ばさっという音を立て、上掛けを取り戻した。
「……お嬢様―? 攫われたのは確かに大変なことでしたから、この二日間は大目に見てましたけど、そろそろエフィも怒りますよー?」
にっこりと、静かな迫力を込めて笑うあどけない顔をずいっと近づけられる。身を引きそうになりつつも、アミーリアは言い張った。
「嫌ったら、嫌なの! 候補の中に、私の好きな人はいないもの。それなのに、選べるわけがないじゃない!」
「好きな人……ですか」
驚いたように目を瞬かせ、エフィはアミーリアの言葉を反芻する。
それに気付かないまま、頭に血が上ったアミーリアは更に言い募った。
「だって、六年よ、六年も一緒に居て、ようやくわかった恋だったのよ!? なのに、無理だって、あんな一瞬でっ……一瞬でふられて、その三日後にお婿さんを選べだなんて、そんなの無理に決まってるじゃない!」
「……あらまあ。ちょっと目を離した隙に、クラムちゃんといろいろよろしくやってたんですねー、お嬢様。隅におけないわー」
「驚かない、の……?」
ぽかんとしたアミーリアは、涙目で、頬に手を当てるエフィを見上げる。
エフィは、いつも通りに、中身を知らなければかわいらしく見える童顔で、ふふふと小さく笑った。
「エフィは、こう見えてもお姉さんですからねー。お嬢様の気持ちも、クラムちゃんの気持ちも、ちゃーんとわかっているつもりです。私だって、ずっと二人の傍に居たんですから」
「エフィ……」
ぽんぽんと髪を撫でてくれるエフィの小さな体に、思わずぎゅっと抱きついた。
同じように抱き返してくれながら、エフィはおっとりと続ける。
「そんなお嬢様に、エフィからいい提案があります。エフィがこれから言う通りにすれば、きっとお嬢様にいいことがありますよ。聞きたいですかー?」
「……なに?」
体を離し、近い距離にある小さな顔を見上げて問う。
するとエフィは、にっこりと、今日一番の笑顔で言った。
「ちゃっちゃと起きてちゃんとおめかしして、本邸へ向かってください。お嬢様が今日着るためにデザインして作ったドレスの用意も、ちゃんと出来てるんですよ」




