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私はあなたのお姫様!  作者:
4章
27/29

11 失恋

 ガタン、と扉の閉まる音がして、アミーリアは我に返った。

 ぽかんとした心地のまま、それでもようやく状況を理解して呟く。

「とりあえず――これで一件落着なのかしら……?」

「みたいだな。お姫様のアクロバットのおかげで」

「きゃっ!」

 そこで、クラムはアミーリアを抱えたまま立ち上がった。

 ぐん、と高くなった視界に瞬くアミーリアを、クラムは空色の目を細めて見つめる。

 すっかり暗くなった風景の中でも、クラムの目はよく光を反射した。よく光る目だ、と、初めて会った時も感じたことを、アミーリアはふと思い出した。

「――ねえ、クラム。ごめんなさい」

「は? なにが。アクロバットか?」

「違うわよ! ……手、振り払っちゃったから。信じてあげられなくて、ごめんなさい」

 じっと、近い距離にあるクラムの顔を見つめて告げる。

 クラムはきょとんと目を瞬かせた後で、困ったように眉を寄せた。

「お前、なんかしおらしくて気持ち悪いぞ。大丈夫か? 頭打ったか?」

「なっ……何なのよ、人がせっかく神妙な気持ちになってるっていうのに!」

「だからそれが気持ち悪いって……いや、まあ、そうだな。茶化すとこじゃねぇよな」

 とん、とアミーリアを地面に降ろし、クラムは浅い息をつく。

「俺がずっとお前を騙してたのは本当だから、お前が謝る必要はない。――俺の正体を、エルバートは知ってる。知ってて俺を匿って、お前には黙ってるって条件で、俺をお前の護衛にした。……っつうか、してくれた、だな」

 ぱちりと瞬くアミーリアに、クラムは静かに笑った。

 顔も服も泥がついているし、ただでさえ無造作に跳ねている黒髪もすっかり乱れていたが、それでもクラムのその表情に、アミーリアはみとれた。

「お前はべつに何も考えちゃいなかったんだろうが、生きる目標が無かった俺にとっては、お前を守るって約束が支えになってた。お前はバカだしアホだしうるせぇし、大体余計なことしかしないめんどくさいお嬢さんだったけど、お前にずっと救われてたのは本当だ。だから、嘘をついた。俺は、俺の『お姫様』を無くしたくなかったから。だから、おあいこだろ」

 俺のほうが情けねえけど、と呟いて、それでもクラムはやはり笑った。

 その笑顔に勇気づけられ、アミーリアは言葉を重ねる。

「――ねえ、クラム。これからも、一緒に居てくれるでしょう? さっきも言ったけど、私、あなたのことが――……」

「俺はお前の護衛だ。しかも、元は盗賊の。アディルセンのお嬢様にふさわしい男じゃねえよ。エルバートが許すわけないだろ」

 アミーリアの言葉を止めるようにぽん、と頭を叩き、クラムは淡々と言った。

「そ、そんなの関係ないわ!」

「関係ないこと無いだろ。筋通さねえとあのおっさん、地獄の底まで追ってくるぞ。俺じゃ、お前の相手は無理だ。――今のままの俺じゃあな」

「……っ……」

 言葉の最後で目を逸らし、呟くように言ったクラムに、アミーリアは大きく目を見開いた。ぼろぼろになったドレスが更に破れるほどに力を込めて、縋るようにぎゅっと握る。

 その時、馬の嘶きが聞こえた。はっと目を上げると、堤防の上で数機の馬が止まったのが見えた。先頭の馬には、エルバートが乗っている。

「噂をすれば、だな。……つーか、めんどくせえから屋敷に居ろっつったのに、なんで来てるんだよ。親子そろって本当に言うこと聞かねえな……」

 ぶつぶつと呟いて、クラムはとん、とエルバートの方へ向け、アミーリアの背中を押した。そして自分は踵を返し、レイルの消えた扉へ歩く。リオを迎えに行くつもりなのだろう。

「――アミーリア! 無事か!?」

「父様……私……私っ……!」

 駆け寄ってきたエルバートに強く抱きしめられながら、アミーリアはぼろぼろと、ついにこらえきれなくなった涙をこぼした。

「もう大丈夫だ。怖かったな」

 安心させるように言って背中を撫でるエルバートに縋りつきながら、アミーリアはしゃくりあげ、初めての失恋に声を上げて泣き続けた。

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