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虎さんのおうちは、そこからあまりはなれていない所にありました。
そして――結構な広さのお屋敷でした。
先導する虎さんだった美形さんの後ろをついて歩きながら、うでのなかにはまっしろミルティちゃん。
もふもふでふわふわで、お日様の匂いのするその姿態を堪能しながら、笑み崩れつつミルティちゃんに語りかけます。
そのたびに、にゃぁ、だとか、にゃん、なんて応えてくれる姿に身もだえしながら、なでればごろごろと喉まで鳴らしてくれて!
この短い時間に、私は完全にミルティちゃんのとりこでした。
そして――そして、屋敷についた私は、更なる絶叫をあげることになるのです。
「っ、ぎゃぁぁぁぁぁあ!! な、なんですか! なんなんですか、ここはっ、天国ですかっ!」
扉をあけたら、そこにはねこ。じゅうたんの上にねこ、階段にねこ、ろうかにねこ。
右向いたらねこ、左向いてもねこ、上むいても棚の上にねこ。
ねこねこねこねこ、見渡す限りどこにでも、ねこがいるのです。
感激のあまりふるふると震えながら涙目になった私を、ミルティちゃんは慰めるようにそのざらざらな舌で舐めてくれます。
ああっ、ミルティちゃん、貴方はなんてやさしいのっ。
「おい、そなた――だいじょうぶか?」
震える私に、心配になったのか虎さんが声をかけてくれます。
「……っ、だいじょうぶ、です、っ」
涙目のまま見詰めれば、はっ、と虎さんの息を呑む気配がしました。
すみません、見苦しい顔をおみせして。ええ、今、萌えのあまり顔がものすごいことになってる自覚、ありますから。
「っ、そ、それならよいが――くるがよい、部屋に案内しよう」
ごまかすように咳払いした虎さんが、先に立って歩くのを、右のねこ、左のねこ、上のねこ、足元のねこ、うわっ、ひとなつっこくって足に擦り寄ってくれる子もいるよ! 腕の中にはミルティちゃんいるし、あああああ、萌えのきわみってこういうこと?! ねえこういうこと!? と、意味不明な悶えの中で震えが止まらないまま、ついていきます。
案内されたのは、広いけれどどこかこざっぱりとした部屋。客間だ、と、虎さんは教えてくれました。
――残念ながら、この部屋の中には、ねこさんはいません。
がっかりと肩を落とす私を、どこか不思議そうにみながら、虎さんは部屋の中央のソファをすすめます。
促されるままにミルティちゃんをだっこしたまま、腰を下ろすと――虎さんは、向かいに座りながらいいました。
「ミルティ、これから少し話をせねばらぬ。席をはずせ」
にゃあ、と、短くなくと、ミルティちゃんは、あああっ、私の膝から飛び降りて、部屋の外へむかってゆきます。
あああっ、もふもふがっ、ぬくもりがっ。
思わず追いすがりそうになりながら、涙目でそれを見送ります。
うう、いっちゃった……私のミルティちゃん。
しょんぼりと項垂れる私に、何をおもったか、虎さんがおろおろと視線を彷徨わせて。
「そんなにしょげるでない。なに、明日でもまたあえるであろう。同じ屋敷におるのだし」
「……ほんとぉですかぁ?」
涙の浮かんだままの顔でそう問いかければ、なにかが詰まったような表情をしたあと、虎さんは頷いてくれました。
……仕方がありません。明日までの辛抱です。
「それでは、説明だけさせてもらうぞ」
しょんぼりとしたまま、私は頷いたのでした。