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結論から言います。
美形の兄ちゃんは、虎さんでした。
そんでもって、この世界は、虎さんやねこさんの多くが暮す、そんな世界らしいです。
美形のにいちゃんが、なんかそんなこといってました。
「ふーん」
美形に変わった虎さんには用はありません。私が用があるのは、虎さんやねこさんだけです。
さめた目で、私に揺さぶられたためどこかくたびれた様子の美形さんをみつつ、とりあえずため息をもらします。
あれですか、異世界トリップってやつですか?
小説の中だけのはなしですよね? それって。
まぁ、いいでしょう。いいですけれど――さて。
「これからどうしたものでしょう」
ねこやねこ科の生き物さえ目の前にいなければ、私は冷静です。
むしろクールです。それ以外には興味ありませんから。
どうしたものか、と、真顔の無表情で考え込んでいたらば、目の前の美形さんが疲れたように呆れたように、いいました。
「とりあえず我が屋敷にくるがよい。落人ならば上位種が保護する定め。我が拾ったのもなにかの縁であろう」
ちらり、と、視線をそちらに向けつつ、思案します。
虎さんの家に、か。
いく当てのない今の現状、招いて貰うことはありがたいことかもしれません。
ありがたいことかもしれませんが、簡単に信じてよいものでしょうか?
胡乱げに見詰めていれば、深くため息を目の前でつく美形。
「警戒するのもわからぬではないが、このままでは野宿になるぞ」
野宿ですか。
ここは思案のしどころです。
目の前の美形――この見も知らぬ男を信頼するか。
……信頼してもいい気がしてきました。だって彼は虎さんなのですから。
単純? ええ、単純で結構。もしかしたらまた、あの大きな毛玉をもふもふするチャンスが訪れるかもしれません。
そのためならば、彼の所にいくのも、あり、ではないでしょうか。
かなり、彼の家にいくことに心が傾いたそのとき。
「にゃ~」
「っ!!!」
彼の後ろから、小さな白いねこが、するりとでてきました。
しろくてちっさくって、ふんわりとした毛並みが、夜の闇の中で光るように美しい、愛らしい子猫です。
「ああ――ちいさきもののひとつが、ついてきてしまったようだな」
呟く彼の言葉など、耳に入りません。
目は、耳は、感覚は、全て目の前の小さな子猫に奪われてしまいました。
―― 一目ぼれって、こういうことをいうのでしょうか。
「……虎さん」
「――それは、我のことか? なんだ」
「この子は、虎さんのおうちの子ですか?」
「ん? ああ、ミルティか。いかにも、我が家にいるちいさきもののひと――」
「っきゃぁぁぁぁぁぁ! 貴方ミルティちゃんっていうのねっ。かわいい、かわいいわっ」
むぎゅうぅぅぅ、と、その小さい体を抱き上げて、嫌がられない程度の力で抱きしめます。
ああ、ふわふわ、もふもふ。幸せ。脳内麻薬がでまくりです。
「……人の話を聞いてはくれぬか」
黄昏たように呟く虎さんに、きっ、と、ミルティちゃんを抱きしめたまま、視線を向けます。
「虎さんっ!」
「なんだ」
「是非、お宅にお邪魔させてくださいっ!」
こうして、私は虎さんのおうちに、お邪魔することになったのでした。