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「――まったく。話になりませんわね」
ふう、と、呆れたようなお姉さまのお言葉が、部屋に響きます。あ、いまリオルさま、ビクッってなりませんでしたか? なりませんでしたかっ? いや、他の皆さんもそれなりに硬直はなさってますが、いま瞬時にびくって反応なさったの、リオル様が一番でしたよっ! と、視線をそちらにむけるけれど、表面上はなにごともなかったかのようなご様子です。目の錯覚かしら、と、思いましたが、よく見ると後ろにしっぽが出てらっしゃいます。ライオンさんのしっぽは、ふかふかではないのですねぇ、と、注視してると、はっ、と気づいてリオル様、急いでしっぽをしまわれました。……ちっ、もっと見せろ。じゃなかった。
「俺まで一緒にするなよな。こいつらが悪いんだろっ」
どこかムッすりとした様子で、そっぽを向くミルティちゃん。ああ、ミルティちゃんなのですね。あの愛らしくてラブリィで、プリティで愛しのミルティちゃん。あの肉球が愛しいミルティちゃんが、こんなにも変わり果てた姿になるなんて……っ。肉球がないミルティちゃんなんて、ミルティちゃんじゃありません! うう、と恨みがましい目を向けていれば、それに気づいてどこかたじろいだように、な、なんだよ、と呟く少年。……ツンデレショタっ子なんて、そんな属性ありませんっ、私にはありません。ないったらないんですっ、かわいいとか、思ってないんだから!
ぷいっと視線をそらせば、あ……と小さな声が聞こえます。けれど無視です、無視です。ミルティちゃんであってミルティちゃんでない存在なんて、私は知りませんっ。私の愛しのミルティちゃんは、あの、白くて愛らしい、にゃんこだけですっ。人間なんて、ツンデレショタっ子なんて、知らないったら知らないんデスっ。ちょっとかわいいとか、絶対絶対、思ってないんですからっ。
そんな私に、がっくりと肩を落とすミルティちゃんと、その肩にポンと手をおくマスターなんて、みてないったらみてないんですっ!
「あらあら、やはりまだお子様なのかしら? 自分は悪くない、っていいはるなんて」
くすくす、と、お姉さまが手を口元にあてて笑えば、周囲のお姉さまズも同じように笑いさざめきます。ちょ、これ、ちょっと怖くないですか。綺麗で上品なお姉さま方に、くすくす笑われるなんて。案の定、ミルティちゃんはカッと羞恥に顔を染めて、何かいおうと口を開きますが、お姉さまズの迫力(?)に押されてそのまま閉じてしまいます。おおふ。お姉さま、やっぱり最強。
「――そうだな。唐突すぎたかもしれぬ」
ふ、と、息をついたマスターが、そう言葉を紡ぎます。そうです。唐突ですよっ、意味不明ですよっ。このロリコン! っというには何か違うような気もするし自分にもダメージが果てしないので、黙っておきましょう。うう。そこまで子どもに見えないと思いたい。しくしく、などと思っていれば、こちらをじっと見つめるマスターの視線を感じます。
なんだろう、と、顔をあげたならば。
「それでも。いい加減な気持ちで言ったわけでも、利益のみで言葉にしたわけでも、ないことだけは理解してくれぬか。――ただ、番いたいと願っただけなのだ、と」
まっすぐに視線を向けたまま、私に静かに語りかけるマスター。シリアスでかっこいいようですが、なんだかセリフが残念な気がするのは、私の気のせいでしょうか。微妙な気持ちで眉を寄せると、マスターの後ろで、同僚のみなさまがあちゃー、って顔をして居られます。あ、やっぱり、なんか残念だったんだ。私の感覚がおかしいわけじゃないのね、と、ホッとしてると、隣でお姉さま方の呆れたようなため息が聞こえます。
「――なんともうしあげればよいやら」
ふう、と、悩ましげにそう告げたお姉さまの目は、どこか遠くを眺めておられます。あ、そんなお姉さま、あきらめないでください。あう、と、リオル様を見やれば、ひとりで笑っておられます。ふと思ったんですが、この方、笑い上戸です? いまの現状が楽しくて仕方がないようですが、それは結構ヒドイと思います。
お姉さまや周囲の様子に、訝しげに眉を寄せたマスターに、ふん、と、両腕を組んだミルティちゃんが、言葉を投げつけます。
「つーか、番いたい、って、言葉がまずいよな。デリカシー無さすぎって感じで」
そう! そうなのですよ、ミルティちゃん! 使い慣れてないというか、聞き慣れてない言葉なせいで、なんというか、直接的に聞こえるんですよ! そう、とどのつまり「ヤリタイ」的な? いや、すみません、乙女的にその表現はどうかと思いましたが、しっくり来る言葉が思い浮かばなかったもので!
うんうん、と、強くうなづいている私を見て、得意げな顔のミルティちゃん。ちょ、なんですか、小生意気なショタですかそうですか。小悪魔ですかっ。今度是非、猫バージョンでお願いしますっ。
それってあれですかっ、ドヤ顔ってやつですかっ。それを受けてガーン、とショックを受けるマスター。マスター、マスター、なんていうか、そこまでヘコまなくても良いと思うのですが、段々私の中でマスター=ヘタレさんというイメージが固定化して離れなくなってるんですかどうしたらいいんですかっ。とかひとりで内心あれこれ考えておりました。おそらくまだ混乱状態なのでしょう。思考があっちこっちに飛びまくってます。ちょ、誰ですか、元からでしょうっていったのは。否定しませんがっ。否定しませんがっ。
――ああ、私、この状況にぴったりな言葉を知ってる気がする。
「これが混沌ってやつなんですね……」
ぼそり、と呟いた言葉は、割りと静かだった部屋に、予想以上に響いたのでした。
きゃー。