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わかってるんです、わかってるんですよ? なんていうか、うん、お子様みたいだなーっていうか、なにやってんのわたしーっ! っていうか。でも、でもですね、こう、こんな風に、おねーさまの豊かなお胸に抱きかかえられて、まるで小さな子どもになったかのように、背中を何度もトントンと優しくされていると、混乱していたらしい私の心が、すぅっと軽くなっていくのがわかります。
まるで、おかあさんみたい、なんて。
あまり女性にそんなこといっちゃまずいよねっ?! 禁句だよねっ?! っていうようなことを思いながらも、もうもう、いまはこのお胸を堪能するのですっ! と、涙でスンスン鼻をすすりながら、甘えてみました。ええ、超、甘えましたともっ。え、甘えてるだけですからねッ、スンスンしてるからっていいにおーいっ、とか、匂いを堪能してる訳じゃありませんからっ。ちょ、ちょっとはいい匂いだなーって、思わないわけでもないですが、それは、ほら、不可抗力っていうやつですっ。いいですかっ、ふかこーりょくっ、ふかこーりょくですからねっ、と、誰かにひたすら言い訳をしながら、内心もんもん? としてしまいますのことよっ。いや、もんもんとしたらだめじゃん、私。 っていうか、でも、うん、そのおかげでしょうか、無意識に力がこもってこわばっていた体から力がほどけて、どこか苦しかった呼吸がやっと楽になってきました。……緊張してたのでしょうか、やっぱり。
思わず、唇から、ふう、と、深く息がこぼれた、その時でした。
「まあ、姉さまったら。ずるいわ」
隣にいた、別のお姉さまが、そんなふうに拗ねたように呟いて、私の頬をつつきました。
つんつん、って、ちょ、お姉さま、私をそんなに萌えさせてどうする気ですかっ。その拗ねたようなお顔も、超ぷりてぃーっっ!!
って、いうか。
え、いまなんとおっしゃいました?
お ね え さ ま ?
驚いている私に、つついたお姉さまは、くすくすと小さな笑い声を漏らします。
「あら、驚いて目がどんぐりみたいよ。ええ、私と彼女は姉妹。あとあちらとあちらもうちの姉妹で、あの子とあの子がうちの母の妹の子ども、つまりは従姉妹で、でそれから……」
えっ? えええっ? あちらとあちらでこちらとこちらと、え、えーっと。どちらですかっ?!
激しくこんがらがってしまって、目を白黒させてれば、周囲のお姉さまもクスクスと笑い出します。
「まあ、この子混乱してるわ。あのね、獅子は、同じような属の中でも、群れを作る珍しい種族なのよ。虎も、猫も、群れは作らないでしょう?」
いわれてみれば、と、頷きます。猫が群れを作ってたとしたら、外猫さんや野良猫さんがのさばって1大ギャングです。まぁ、我が家の近くには、ボス猫がおられまして、時々私は、オヤツの唐揚げを恐喝されてましたがっ。いや、うん、あれは、おねだりかもしれないけどさ、彼、凶悪でしたのよ。そこもまたかわいかったけどっ。よく、オヤツ取られて泣いてる子がいたな、っていうか、あの猫、もしかして飼い猫だったのかしら。そういえば首輪してたかも。
それはさておき。
確かに、虎さんも、共同生活っぽい状態ではありますが、「群れ」という感じではありません。ちらほら見聞きする範囲でも、あまり群れというイメージの付き合いは、みかけません。むしろ男女が張り合ってる場面をちらっとみたことがあるような……。
しかしながら、です。
「お姉さま方は、血縁関係なのですか?」
そういうと、彼女は、にこやかにそれは晴れやかに、笑いました。
「ええ、我らは血のつながりで結ばれた姉妹。何よりも尊く強いつながりで結ばれた娘たちなのよ」
そういって、私の頭を、優しく撫でてくださいます。
知らなかった、ライオンさんが群れで暮らすのは知っていました、が、その群れの女性たちの血がつながってるとは……この場合、男性は、と問わぬが花ですね。普通の、元の世界のライオンさんとは違うでしょうが、一緒に暮らすことはないのでしょう。完全な元の世界の野生とは違うようですが、どことなく似通っているそれらが、不思議です。
なるほど、と、ふむふむしていました、らば。
すっと、目を細めたお姉さまが、艶やかに微笑んで。そして、そそのかすように、甘やかすように、柔らかに言葉を紡ぎます。
「そして、群れの女たちが、その群れの主たる男を選ぶものなの。――私たちは、私たちの意思で、リオル様を選んだわ。選ぶ権利は、女にあるの。だから、そう、何も心配はいらないわ」
そういって、そっと、祝福するかのように、頬にキスをくれたのでした。
え?
ちょ、ちょ、おねえさまぁぁぁ?!
ほっぺです、ほっぺですけれども、ねっ。 ほっぺにちゅー、ですけどもっ。あうー、なんですかその、色気はっ。
あわあわ、わたわたするわたしに、そっと微笑んで。
そして、ちらり、と、扉に目を向けたお姉さまは、目を細めて。
「そう、何があろうとも――選ぶのは、あなた、よ」
その言葉は、とても穏やかでありながら、厳かに、私の胸に響いたのでした。