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ひとしきりなで回して満足私は、やっとそこで周囲を見回す余裕ができました。
っていっても、すでに日は落ちて、うすぐらいどころか暗かったんだけどね!
薄暗いせいで、ほっとんど、周りの景色なんか、よくわかんなかったんだけどねっ!
それでも、おかしいってことはわかります。
だって――光が、ないから。ネオンの光や、街灯の光が、一切ないのです。
どれだけ暗くても、普通ならば何らかの人工の光が、目に入るはず。
なのに、それらが一切、これっぽっちも、周囲に見当たらないのです。
おや? と首をかしげながら、しばし考え込んで。
傍らで私になでまわされた毛並みをせっせと整えている大きな虎さんに声をかけます。
「ねぇねぇ、君。ここはどこ?」
それにちらり、とこちらを向いた虎さんは、まるで人間臭く、やれやれとでもいうようにため息をついて――。
「やっとその質問か? こたびの落人は、変わり者とみえる」
……は?
「えっと、今しゃべったのは……?」
「ここには我しか居るまい」
……でっかい虎さんがしゃべりました。しゃべりました、よ?
しゃ・べ・り・ま・し・たーーっっ!!
「っ、きゃぁぁぁぁ、かわいいぃぃぃぃ」
でっかい虎が人間の言葉を話すなんて! なんてかわいいのっ。
「っ、まて! 止まれ!」
思わず再び抱きつこうとした私に、慌てたように虎さんは下がりながら静止の声をかけてきます。
「ええええ、けちぃぃぃぃぃ」
ずりずりとさがっていく虎さんを追いかけるように、じりじりとにじり寄る私。
間抜けな状態ではありますが、これでも必死なのであります!
毛玉! 毛皮! もふもふ、ふかふかを! なでさせて! なでさせろ!
おもわず両手がわきわきしますっ。
あふれ出る情熱が、体から零れ落ちてとまりませんっ。
ぎらぎらした視線を、虎さんに送ってしまいますっ。
「っち、このままではらちがあかぬ!」
焦ったようにいった虎さんは、その瞬間、ふわりと淡い光に包まれました。
え、ええええええ? 虎さん、光るの!?
驚いて見詰める先、光の中で虎さんはふわりと形をかえ、一瞬、目をくらますまばゆい光が輝きました。
――そして。
光が消えた後には、ひとりの青年の姿。
銀色に、青い瞳。目を瞠るほどの美形。これほどの美形は、元の世界ではお目にかかったことがありません。
ありません、けれど。
「やれやれ、これでまともに話が――」
「っ、虎さんはっ!? 虎さんはどこにやったの?! ねぇ、虎さんをかえしてぇぇええぇ」
艶やかなどこか色気すら感じさせられる風情でため息を漏らし、話しかけようとした男の胸倉をむんずと掴み、ぐらぐらと揺さぶりながら、問い詰めます。
美形より、虎さん。美形よりねこさん! どこ!? 私の虎さんはどこっ?!
だせぇっ!! 私の虎さんを、だせぇぇぇぇ!!
「ま、まて、話をきけぇぇぇ」
「虎さんっ、虎さぁぁぁぁぁあん!!!」
落ち着くまで、しばらく時間がかかったのは、私のせいじゃない、と、思いたい。