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「あら、みなさま、ごきげんよう。いえ、なんだか男性陣が情けないようなので、ちょっと味見でもさせていただこうかと」
つややかな声で、お姉さまはそうおっしゃいます。しかし、獣態のままなのにセクシーなのはなぜでしょう。あのぽよーんぼいんなナイスバディーんはないにもかかわらず、雰囲気が、雰囲気がね、とってもつややかでセクシーなんです。ああ、肉食系女子(文字通りですね!)なお姉さまらしく、アクティブなセクシーさです。
「余計なことを。リンは我のもとで庇護している存在。そちらには関係ないはずだ」
珍しくどこか苛立ったような口調で、マスターがいえば、僅かに周囲の温度が下がります。そう、お姉さま方の雰囲気が少し剣呑になりました。え、え、と、救いを求めるようにリオル様へ視線をむけると、壁にもたれかかってとても楽しそうにこちらを見ていらっしゃるではありませんか。ちょ、リオル様? 貴方のハーレムのお姉さまではないのですかっ、放置ですか、放置プレイなのですかっ!
そうか、そうですね、それが、獅子ですものね……っ!
などと、私が意味不明な脳内混乱を起こして、ワタワタしている間に、そのリーダー格のお姉さまは、すっと身を起こし、くっ、と顔を上げ、目を眇めるようにして、一度マスターをご覧になりました。
「関係ない、と? 貴重な落人のメスを、ただ庇護するだけで何もなさって居られない方の言葉とは思えませんわね。――ねえ、リオル様」
そして、すっと横にずらした視線は、リオル様の元へ。最後のリオル様の名前、ちょっと甘えを含んで何かをねだるような感じで、けれど、過度の媚は感じられず、聞いてるだけでどきっとします。ちょ、獅子さんなのに、獣態なのに、なんでそんなに流し目色っぽいんですかっ。どきどきしちゃうじゃないですかっ、私に向けてじゃないけどっ、と、思ってれば、くっっと、リオル様が笑います。
「ん? どうした」
「私達、とてもこの娘が気に入りましたの。――是非、我らの一員に、加えてくださいませ」
「……なっ!」
ええっ、と、驚いて声を上げかけた私よりも、先に驚いたような声をあげたのは、マスターでした。どこか強い焦燥を浮かべた顔で、乗り出すようにこちらに体を傾けておられます。それにびっくりして、私の声は引っ込んでしまいましたですよっ。ああ、もう、えーと、ところで、なんの話でしたっけ、と、首を傾げてみたりして。
――え。 え? どゆことでしょうかっ? っていうか、我ら、というと、お姉さま方のことで、お姉さま方は、リオル様のハーレムの一員で、でも、お姉さま方の仲間入りってことで、お姉さま方に囲まれ放題ってことで、え、それって、それって、つまり、つまり、つまり……!!
「私も、もふっとハーレムの一員になるんですかっ!?」
つまり、ずっとずっともふっとしたお姉さま方と一緒っ、もふっとセクシーお姉さまに囲まれた天国ですごせるってわけなのでしょうかっ。
思わず、ぐぐっ、と、拳を握ってしまいます、が。
「……」
――いや、その、わかってます。ちょっとずれてるって、わかってます。でも、口から勝手に、勝手に言葉が飛び出したんです。つい、本能が先走ったんです。わかってます、わかってますからっ、だからっ。
その、なんとも言えない、力の抜けた、唖然とした顔で私をみるのをやめてくださいませんか、みなさま……っっ!!
ちんもくが、いたたまれないって、こういうじょうきょうなのですね。
……リオル様のハーレム、であって、お姉さまの一員になったからといって、私とお姉さま方のハーレムなわけじゃないですよね、うん、そうですよね、うんうん。
「ご、ごめんなさいぃぃ」
あうー、布団に突っぷせば、クスクスという柔らかなお姉さま方の笑い声と、低く笑うリオル様の笑い声と、マスターの深い深い溜息が、部屋の中を満たしたのでした。あうち。
……で、みなさま。わたくし、今気づいたのですが。
ここはどこですか。
私の寝室です。
どんな格好ですか。
この世界の寝間着です。
3、2、1
「むぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
慌てて、布団をひっつかんでひっかぶります。
あのですね、あのですね、この世界の寝間着って、薄いんですよ! いや、違う、ストンとしてるんです、で、薄いんです。いや、すけすけじゃないですよ、ただ、ちょっと、薄いんです。元の世界ではがっつりパジャマ愛好家だった私には、シンプルだとはいえ、ねぐりじぇ、は、ハードルが高かったんです。超高かったんですよ。でも、ほら、郷に入っては郷に従え? ですか? 習うより慣れろ、は、違うですね、住めば都? なんか違うぅ、というわけで、なんとかなれてたわけです。なれてたわけですよ。はい。
うん、何度か、朝マスターがいたことがなかったわけじゃないですが、ないですが、もふっとさんなケースがあったせいで、なんとなく考えていませんでしたが、今日は、お姉さま方、は、かろうじてセーフとしても、いやそれにしても人数多いからセーフじゃないかも? で、さらに、リオル様が、平然と、私の寝室に、っていうか、私の部屋にどうどうとおわれるわけでわけでわけで。
……うわぁぁぁぁ!
布団の中であわあわです。もう何言ってるんだか自分でもわかりません。どなたか翻訳プリーズ! いや、私の脳内だから無理じゃん! と、わたわたしてしまいましたのでしたっって、せんせいっ、日本語すらおかしくなって来ましたっ、いえいっ!