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――そんな夢を、みた。
なんちゃって、そんな風にシリアスを気取ってみながらも、ところがどっこい、今朝もすっきりなおめざめ、おはようございますっ。ああ、昨日はなんだったのでしょうね、よくわかりませんが、わからないままでオッケーってことにしておきます。それが、平穏無事な生活を送る、コツってやつですよねっ。すべては、なかったことに、なかった、ことにーっ。私、子どもだからわかんなーいっ。っ、いえいっ。
で。
ちょっとみなさま、ちょっと聞いていただけますでしょうか。ますでしょうか。
私、いま、てんごくにいるようです。ヘブンです。ヘブンですよ? 極楽ともいいますね。いや、それはどうでもよいのですが、ええ、ええ、これを天国と言わずに、なんといえばよいのですかっ!!
「~~~~!!」
声にならない悲鳴が喉の奥から溢れます。悲鳴? いいえ、歓喜の雄叫びです。あ、喉からでなくて良かったかもしれない。年頃の娘さん的に、雄叫びというのはよろしくないような気がします。気がします。気が、します……っって、気をそらすのも限界です!!
「うわぁぁぁぁぁ!! おっきなにくきゅういっぱいぃぃぃぃぃ!!」
叫びとともに、ダイビング。飛び込みます。超飛び込みます。一昔前の古い漫画のように、飛び込んじゃいますよっ?
そこには。
優雅でしなやかな肢体を、まるで私を誘うかのようにあでやかに、存分に晒した、ライオン(メス)さんたちが、1、2、3、いっぱい! たくさん! ですねっ、今まで眠っていた私の周囲を囲うように、ゆったりと寝そべって居られたのです。
でっかい肉球っ、でっかい猫っ!(違います) 素晴らしきもふもふっ。ちょっとショートっ!! ああ、これぞ、至福のハーレムではありませんかっ。
そのままの勢いでもふもふっとすりすりっと、なすりついてゆきます。ああ、なんといえばいいのでしょう、この肌触り、手触り。思わずナデナデしまくりですよ? 堪能しまくりですよっ。そこらのおっさんに負けないレベルで、セクハラ上等! ですっ、とばかりに、なでくりまくっていました、ら。小さな笑い声とともに獅子さんたちもすりすりしてくださいます。ああ、あああああ、みなさま、この、この至福を、私はどうお伝えしたら良いのでしょう。目もくらむような幸せとは、このことなのでしょうか。ああ、よだれでそう。顔面崩壊? しったことじゃありませんよっ!
うっとりととろけんばかりに、スリスリもふもふハスハスくんかくんかしていると、くすくす笑っていたみなさまの中で、リーダー格の方でしょうか、少しばかり他とは雰囲気の違う獅子さんが、ゆっくりと口を開きました。あ、牙見えた。
「震えてるから怯えてるのかと思ったわ。――そうじゃなかったみたいだけど」
くすくすと、楽しげに笑いながら、べろり、と、頬を舐めてくださいました。ああっ、ざらっとして、おっきくて、幸せ……っ。そのざらざら加減はネコ科の特権です。ですともっ。そしてあったかくって、イヤン最高……っ、と、うっとりと見つめれば、その方――昨日も率先してほとんどひとりだけしゃべっておられた、ナイスバディーんなお姉さまのひとりでしょうか――は、それはそれは楽しそうに微笑みながら、ころり、と、私をころがしてしまわれました。
あれ?
のっしりと、肉球が私の体を抑えます。のっしりとのしかかってこられてますが、重いはずなのにそんなに重くありません。それよりも、にくきゅうが、にくきうがですね。ああ、にくきうがっ、と、そちらの感触に意識を取られて、ぼんやりとお顔を見上げますと、お姉さまはにやりと(たぶん)笑われました。
へにょ、と、つられるままに笑っていれば、お姉さまったら、にくきゅうで、もふん、ぽふんとアチラコチラをタシタシしてくださいます。もふん、ぽふん、と触れる肉球の感触に、そして、そのくすぐったさに、思わず笑い出しそうになりながら身をよじれば、あちらこちらから、他のお姉さま方も参戦です。
うきゃぁぁぁ! でっかいねこさんっ、でっかいねこさんが、のしって、のしってして、タシタシもふもふしてるっっ、私のっ、いや、そこはお姉さまっ、贅肉ですからっ、むきゃっ、やばい、やばいですっ、ああ、ダメ、このままだと、このままだと、私、私っ……っ!
むぎゅぅぅぅぅっ、と、目の前のもふに抱きつきます。もう、もうダメです。離れません。こんな、こんな幸せなことがあって良いのでしょうかいやない! お姉さまたち、短めの獣毛でいらっしゃるのですが、それがまた、たまらん肌触りなのですよ! しかもお手入れ抜群! 香るのは草原の香り、お日様の香り。幸せの香りですっ。はぅぅ、こんなの、こんなの、もう耐えられませんっ、耐えられるわけなんか、ありませんっ。
「もふもふ、へぶん……っ!」
「――なんだ、それは」
「天国です極楽です幸せです本当にありがとうございますっ、生きててよかったー!! って」
私の、心からのヘブンな雄叫びに、返ってきた声は、明らかに男性のもの。あれ? と、そのお姉さま方に囲まれた状態のまま、そーっと視線を向けたならば、のしかかっていたお姉さま方が、ひとり?ずつ、のいてくださって。最後に、リーダー格のお姉さまだけ残った状態になりました。
「いったい、何をやっている」
呆れたように眉を寄せてこちらをみるのは、麗しき我らがマスター。
「いや、お前ら、俺も混ぜろ」
楽しそうにくくっと笑いながらそう告げるのは、獅子族が長のリオル様。
えーと、いったい、どういうことなのでしょう?