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猫の世界にとりっぷ!  作者: 喜多彌耶子
猫と虎と獅子さんと
36/55


さて。


場所を移して、こちら、客間と申しますか、お客様ご招待用の居間、ともうしますか、なんていうの? わからないけれど、そのつまり、ベランダに面しておりますお茶会の部屋でございます! 今日は室内でございますが、場合によってはベランダに用意されたテーブルにて、この上なく美しく丹精された庭を眺めながらお茶を楽しめるという、ワンダフルなお部屋にございます。今日も美しい飾り窓が開かれ、ベランダに続くガラスの扉も開かれて、穏やかな風が室内へ吹き込んでおります。設えられた美しいテーブルには、料理人の方が丹誠込めたこれまた美しいお菓子の数々がズラリと並んでおります! その中に、見覚えのあるお菓子があるのですが、たぶんあれは、落人仲間の持ち込んだレシピですねッ。是非、後で味見をさせていただかねば、と、マスターとリオルさまたちを接待なさる、館の主力の執事さんや侍女さんたちの邪魔にならないように、ちょっと離れた位置で、観察にございますっ。


ポイントは、「ちょっと離れた場所」、これですよっ?


――まあ、隣になちゅらるに席を用意されたりとか、ここにこい、とか、いわれたりとかしましたけどね? さりげにまわりも当然のように用意されてましたけどね? してましたけれど、ね? 他の侍女さんたちも執事さんも、それを、それはまあ、ニコニコ見守って居られました、けど、ね?


ちょーっと、いってもいいですか、ってな話ですよ。


私、侍女なんです。一応、仮にも、侍女なんですよ。っていうか、そんな言葉を付けなきゃいけないのがなんだか違うような気もするけれどもっ、それでもですっ、侍女であることには、間違いないはずなのですよっ。ですから、いまはお仕事中、ここにいるのは、おーしーごーとー! なんです! というのを、にこにこにっこり、婉曲に、穏やかに、でもかなり必死にお伝えしました。しましたともっ。その後、残念そうなマスターと、ニヤニヤしてるリオル様と、おやおやまぁまぁなお姉さま方と、生ぬるく優しい目のしごと仲間という図になりましたが。なってしまいました、がっ。


もうもうもう、なんなんですかーっ!!





――あの、あと。


隠れてうつむいてしまった私と、平然としてるようでうろたえていたマスターとそれをニヤニヤ見守るレイル様方という、どうしたらいいのさ、という硬直状態を助けたのは、やってきた執事の方の、お茶の席の支度ができたという連絡でございました。


この館、主小さなものたちの保護を主な仕事とはしていますが、マスターことラヴィッシュ様は、仮にも虎の一族の長。この世界でもそれなりの地位であらせられ、それなりにお金持ちで、やはりそれなりに、いや、それなり以上には、しっかりと、周囲には使用人さんたちがいるわけでございます。

私は、主に執事長と侍女長の方としか、あまり面識はないのですがっ。他には、ちいさきもの世話係の方たちとか。他の方ともご挨拶などはするのですが……どうやら、私は彼らから、避けられてる模様です。原因に、心当たりがありまくるから、何もいえません、がっ。その、私が、彼らの獣態を見ると理性を失うということで、おもに私のために避けてくださってるとかなんとかかんとか……うう、すみません、でも、後悔も自重もしない! もふもふラブっ! もふもふのためならば、私っ、命をかけますっ! ってなもんですよこんちくしょー! セクハラ上等でスッ。いや、ちょっといってみただけで、セクハラはダメ・絶対。ですよ。


んでもって、案内されるままにここにきて、前述の如く私は侍女のはずなのに席を勧められたり生暖かく見守られたりしながら、それでもみなさま席におつきになり、で、私もなにかお仕事を、と、思ったけれども、実は侍女とは言え私はラヴィッシュさま付きで主な仕事は小さきものたちの世話ですので、いまは邪魔にしかならないぜべいべー☆ な状況だったため、大人しくひっそりと、壁と仲良くなっておりました。


け、けして、味噌っかすなわけではないと、思いたいです、はいっ。


で。


そんな私の方に、ちらちらとマスターの視線が向けられつつも、お茶会は和やかに始まったようで。

最近のお互いの領地の様子から、ちいさきものたちのこと。生まれることもたちのこと。――その生育のこと、など、その他にも領地運営のこととか、難しいお話をなさってお出ででしたが、私の耳に残るのは、ちいさきものたちのことだけ。生まれる数。その生育。漏れ聞こえることだけでは、なんの話なのか、これっぽっちもわかりません。わかりません、が。――ちいさきものたちにとって、悪い話じゃなければいいな、と、きゅ、と、手を握りしめた、時でした。



「だから、落人が現れるのだろう? そして、ここに、彼女は存在する。――何故、手をこまねいているのだ」



はっきりと。今までの漏れ聞こえていた声よりも、大きな声で。間違いなく、私に聴かせることを意図したであろう、声の大きさで。


釣られるままに、リオル様に視線をむければ、こちらをじっと見て居られます。まっすぐに。まっすぐに。何かを、確かめるように。思わず後ずさるけれど、後ろは壁。それ以上はさがることなどできませんでした。


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