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猫の世界にとりっぷ!  作者: 喜多彌耶子
猫と虎と獅子さんと
32/55


「いや、失礼した。なんでもない故、どうぞ戻れられよ」


はっ、と我に返ったらしきマスターは、まるで私を隠すかのような位置に体をずらします。先ほどまでのうろたえぶりが嘘のようです。っていうか、ですね。


ちょ、マスター邪魔です! 超素敵なダイナマイツでセクシィなボディがみえないではないですか! え、あ、もしかして、私お邪魔ですかそうですか? あのお姉様がたと、もしや、くんずほくれつ桃色な爛れた時間をお過ごしだったのでしょうか。それゆえに今日は外に出るなとおっしゃったとか! だとすれば、私ったら私ったら、超お邪魔虫ですねッ。いやんっ。


思わず赤くなってしまいそうな頬を、片手でそっと抑えつつ、すすすーっとマスターから離れようとしていると、ちらりとこちらを見るマスター。にっこり笑って、お気になさらずと手を振れば、なんとも言えない風に眉を寄せました。


「……何か勘違いをしておらぬか?」


潜めに潜めた声で、聞いてくるマスター。勘違いなんてっ。赤くなった頬を抑えたまま、そっと視線を逸らして、えー、私子供だからわかんなーいっ、と、空惚けて笑っていれば、ふ、と、影がさしました。


「あらぁ、こんな所にかわいい子猫ちゃんが」


えっ、子猫! どこどこどこ!?


キョロキョロと周囲を見回す私とマスターを囲むように、お姉さまたちの壁が。


いち、に、さん、し、ご……いっぱい! 各々2つずつのうるわしき双丘が、たくさん!


おおふ。圧巻です。お胸がお胸です。びっくりなお胸です。たゆんでぽよんでつんっってなかんじですっ。おお、胸、お胸ですよ!


たゆんたゆんと揺れるその素晴らしきお胸の胸。つい、思わず、自分の胸を見下ろしてします。……ほんのりです。いえ、ちゃんとあるのですよ。ほんのりですけど。胸元をそっと押さえて、ふっ、と、遠い目をしてしまえば、横でマスターがあまり表情をかえずにわたわたされているのが目の端にうつります。なんですか、ほんのりお胸が何か問題ですか。ないわけじゃないんですよ、ただ、ちょっとほんのりなだけで。別に切なくなんてないです。羨ましくなんてないです。本当です。本当ですったら!


視線を合わせずに、無言の無言の攻防を、ひっそりと繰り返しておりましたらば。ええ、その間お姉さま型はどこか楽しそうにクスクスと笑って居られましたが、輝にしたら負けな気がします! 気がします!


「よお、ヘタレ! なにやってんだ!」


軽い声。今まで聞いたことのない、知らない男性の声です。


不思議に思って振り返れば、そこには、キラキラしい風情の見るからに肉食の男性と、その両脇に侍るナイスバディな女性の姿があったのでした。


えーっと、どなたですか?



「……騒がせてしまって申し訳ない。何もない故、戻られよ」


一瞬、言葉に詰まったように息を飲んだマスターは、やがてすっと自然な素振りで私を背の後ろに隠すと、何事もなかったかのようにそういいました。


ああっ、見えない、見えないじゃないですかっ。キラキラしい肉食のおにーさんと、ぼいーんばいーんなお姉さまっ。目の保養ですよ、目の保養っ。鑑賞物はみなで楽しまなくてはっ。


もぞもぞっと背後から出ようとするのですが、何やらマスターはそれに気づいて私を妨害するかのように視界を塞ぎます。

むう、なんということでしょう! 美しいものを見せてくださらないなんて、なんていけず! けち! おにっ! と背後でむーむー唸っていたら、近くにいたナイスバディなお姉さまたちから、クスクスと笑い声が聞こえます。みれば、なんだか生暖かいような微笑ましいものをみるかのような視線がこちらに向けられているではありませんか。

ちょ、なんですかその目はっ、まるでこう、小さな子猫を愛でるような、むしろ赤子を見つめるような視線はっ。


無性に恥ずかしくなって、あうあうとそのままマスターの後ろにきっちり隠れ直そうと思いました、らば。


「……お? なんだ、毛並みの違うチビがいるじゃないか」


ぱっちりと、キラキラしい(略)と目があってしまったのでした。


これはいけません。マスターのもとで働く身、きちんとご挨拶出来なければ、マスターの恥です! 目の前で何か言おうとしているマスターを制して、一歩前へ。お仕着せのメイド服の裾を僅かにつまんで、習ったお辞儀を丁寧にします。


「ごきげんようお客様。本日はようこそおいでくださいました。お騒がせして申し訳ございません」


すっと、腰をおとしてー、それからもどしてー。よし、完璧、と、内心悦に入りながらも、表面ではきっちりメイドスマイルですっ。どうです、マスター! 完璧でしょう! メイド長さまの激しく厳しい指導に耐えて身につけたこの技をとくと見よ! ってなんもんですよ! ちなみにメイド長さまは、どこかロッテンマイヤーさんみたいな方です。きっと個人的にはシャム猫系統だと思ってます。多分! わかんないけど!


 と、思いつつ、マスターをみれば、額に手を当てて項垂れて居られました。


え、なんかダメでした?


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