3
で。
結論からいえば、地面には叩きつけられませんでした。
意識を失ってしまったらしい私は、どこかの地面の上に横たわっているようでした。
身体に痛みはありません。
ぼんやりと浮上していく意識の中で感じるのは柔かな土の感触。
そして。
さーり、さーりと、頬を掠る感触。少し生臭い、ああ、この匂い、は……っ!
ねこの舌に違いないっ!
ああ、でも、がばりと起きたらきっとこの子を驚かしてしまう。
頬を舐めてくれるなんて、なんて人なれした子だろう。きっととても愛らしいに違いない。
ああんっ、もっと舐めて! ああでも、抱きしめてなでまくりたいっ。
どんな子なのかしら、白い子、黒い子、縞模様?
きっとふかふかでもふもふで、ふわふわであったかくって、もうもう愛しいにちがいないっ。
どきどきしながら、そぉっと驚かさないように目をうっすらとあけて――あけて。
驚きました。
いや、そういえばね、たしかにね。
ねこにしては、舐められる範囲、広かったよね。
うっすらとあけていた目を、思わず見開いてしまいましたですよ。
白い――否、むしろ日に透けて銀色にすら見える、美しい被毛。
そして、じっとこちらを伺う、青く透き通った瞳と――舐めるために開かれた口から覗く、鋭い牙。
被毛に走る、黒い縞模様――私の知識からいうならば、それはホワイトタイガー。
私の身体を覆いつくすほどの巨体が、毛皮が、目の前に、目の前に、目・の・ま・え・に!
「っ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
思わず大声をあげてしまいましたっ。
びくぅぅぅぅう、と、その巨体に似合わず身体を強張らせる大きな虎。
まるで悲鳴じみた声になったけれど、きっとついてた、語尾にでっかいハートマーク。
怯えるように後ずさろうとするその巨体に、問答無用で飛びつく。
「っ、でっかい毛玉! でっかいねこっ、きゃぁぁぁぁっ、もふもふっ、もふもふぅぅぅぅぅ!」
ぐりぐり、なでなで、もふもふ、もむもむ、もみもみ、こねこね。
ひたすらに、ひたすらに、撫でまくり抱きしめる。
ああ、抱きしめてもあまるほどのこの毛並み。
きっと、今、私の目はハートマークになって、人さまにお見せできないほど崩れていることでしょう。
でっかい虎?も、最初は驚きから動くことができない様子で、そのあとも、少しばかりの抵抗はあったものの、途中から諦めたかのようになでまわされて居りました。
ああん、その、うっとおしそうにへたりと垂れた耳がぷりてぃっ。
いやん、その不機嫌そうにぺしぺし揺れる尻尾で私をたしたししてぇぇぇぇぇ。
ひとしきりなでまわして、私が満足したころには、とっぷりと日がくれたあとでした。
結論。
でっかい毛玉は、この上なく最高のなでごこちでした。