表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の世界にとりっぷ!  作者: 喜多彌耶子
猫と虎と獅子さんと
29/55


無駄な抵抗はしない主義です。

暴れて逃れられるならまだしも、そうではないのはすでに学習済みです。

私にだって、多少は学習能力があるんですのよっ? ですのよっ?


……いやまぁ、少しは暴れましたけれどもさ。実際、ここに来るまでも、これでもかってほど、暴れまくってましたけどもっ。まぁ、それはそれとして。私、過去は振り返らない主義なんですっ。


んで、まぁ、そんでもって、連れてこられたのはご主人様の執務室でございました。

来るたびに思うのですが、まあ、なんと申しますか、豪華です。重厚です。そのくせ、実務的です。お父さんの、ちょっと気張って全集なんか飾っちゃった感じの、革張り椅子なんか置いちゃった感じの書斎なんか、目じゃありません!

比べる対象が間違ってる気もしますが、気にしないっ。気にしたら負けっ。


そんでもって、座るようにいわれましたので、丁寧に一礼してから、来客用らしいソファへとお邪魔しまーす。

っていうか、そもそも、侍女にソファをすすめるっていっつもなんか変な気もするんですけどね? 侍女にソファをすすめるって、それってこの世界ではありなのかしら? どうなのかしら。……まあ、そのあたりも、色々と気にしたら、なんだかいやんな感じがするので、気にしないようにしてます! 人間、おおらかに生きるべきですよねっ。


この世界に来てから、私ってばスルースキルがアップした気がする!


って、あら、ご主人様、お茶をご所望ですか?

慌てて立ち上がろうとすると、止められます。そのまま座ってろ? え、侍女の仕事ですよ? それ。

いいの? じゃあ、まぁ、そうおっしゃるのならば遠慮なく、と、再び腰を下ろして。窓の外なんか眺めつつ寛いでいる間に、備え付けてあるらしきお茶セットを器用に使って、ご主人様はお茶をいれてくださいました。


なんか間違ってる気がするけど、うん、いつものことだから、きにしないっ。


すすめられるままに頂いて。ご主人様、お茶いれるのお上手ですよね。すごく美味しいです。私がいれるより。え? うわお、御菓子。え、レヴィアンさまの所のななさんから貰ったレシピ? ななさんてばすごいなー。美味しいこれ、アップルパイ?さくさくあまーっ。しあわせー。


堪能する私をシミジミ眺めるご主人様。


召し上がらないんですか?

え? 堪能してる? え、なんですか、お菓子を見てるだけで堪能できるなんてどんな特殊能力ですか! うらやましいです! ダイエットになるじゃないですか! って、何をため息ついておられるんですか。やですねぇ。ため息ばっかりの男はもてませんよっ。せっかく美形でいらっしゃるのに。


さて。冗談はこれくらいにして。


「で。なんのご用だったんですか?」


疲れたような顔のご主人様。あら、お仕事無理されてるんでしょうか。大変ですね。

って、またため息ですか。やれやれ、変な方ですね。


ため息をついたご主人様は、やがて気を取り直したように、こちらをみると――少しばかり真剣な表情で。


「明日は仕事を休んで部屋にいろ。――獅子族の方が来られる。会わないように気を付けろ」


――どういうこと、でしょう?


首をかしげていると、なぜか頭を撫でられました。っていうか、ご主人様、なんか手が長いですよね。足も長いんですか、そうですか邪魔ですね、どうせ短足扁平な日本人ですよ。むしろ邪魔な長い足なんぞ切ってしまえばいいのに、けっ、てな感じでにらみつければ、ふい、と視線をそらすご主人様。

なんですか、何か文句ありますか。っていうか、仕事を休めって――やすめ、ですって?!


がたん、と、立ち上がった勢いで椅子が音を立ててそのまま後ろに倒れました。っていうか、この椅子かなり高い椅子で重いのに、どんだけの勢いでしょう私ったら。でもそれどころじゃないのです。それどころじゃ、な、い、の、で、す!


「断固! だ、ん、こ、お断りしますっ! 仕事を休めなど、この私の生きる望みを断つおつもりですかっ?! そんな、1日もあの子たちに得なかったら、私、私っ……干からびます!」


ぎゅっと胸の前で手を握り、切々と訴えますが、少しのけぞりひいた様子のご主人様は、私と視線をあわせて下さいません。

それでもじぃぃぃっと目を見つめていると、ちらり、ちらりと数度こちらをうかがったあと、ふかぁぁぁいため息を漏らしました。


「……仕方ない。ならば、けして仕事部屋から出るのではないぞ。ブルネイたちには伝えておく。ゆめゆめ外をであるこうなどと、思うでないぞ。よいな?」


こくこくと、何度も頷きますとも。


「ありがとうございますっ、ご主人様っ。大好きですっ」


うれしさに満面の笑みで告げれば、かちん、と、固まるご主人様。


「もちろん、小さい子たちとブルネイちゃんたちとかの次の次くらいにですけどっ」


ぐっっと親指を差し出せば、どこか哀愁を漂わせながらがっくりと項垂れるご主人様なのでした。


……一番じゃなきゃ、いやだーって、子供みたいなことおっしゃるつもりかしら?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ