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「だから、鶏は、人型になれぬ。つまり、獣人族には居らぬ」
「へ? なんで?」
「さてな。しかし、彼のものが人化するのであれば、我らがそれらを食すのはさすがにためらいがある」
「ほへ、そういわれればそうですね」
獣人世界とは言え、獣の世界だから、ある意味弱肉強食、食物連鎖もそのままでは、なんて思っていましたが――そういや、兎族の方やら鳥族の方々で、商売などをされてる方は、こちらや他の肉食系の獣人族の所においでになるわけで。食物連鎖そのままだったら、それはそれはすぷらったですね。うむ。
「基本、人化する族を食べる嗜好は我らにはない。――まぁ、いない、とは限らないがな」
なるほどー、基本は基本ってわけですね。うんうん、と、頷きます。
「そういえば、過去の落人たちの語った、彼らの世界の内容などと照らし合わせると、どうやら主に向こうで食用として主だったものの一部は、こちらでは獣人族として存在しないようだ。主に、牛の一部、豚、鶏などだな。向こうで食用とされていても、こちらに存在する種もあるので、一概にはいえぬのだが」
「え。じゃあこちらでは、ヤギさんたべませんか?」
「あまり食べぬな。もしくは、人化せぬヤギの類種なら食用として存在はするが、普及はしていない」
まあ、あまりおおっぴらに食べたりすると、ヤギの獣人さんたちが混乱するからかしら? 複雑。
「やぎさんのミルクは?」
「それは、乳種のヤギが存在するな」
「え、そうなんですか」
ほへー、思わずシミジミと感嘆してしまいましたよ。なにがって、マスターがちょっとかっこよく見えましたからっ。こう、知的クールって感じでしょうか? メガネでもかけてくいってして貰ったら似合うでしょうか? ――まぁ、かっこいいとか、気のせいでしょうけど。うんうん。
なんて、私の内心など、マスターはこれっぽっちも気づかぬようで。
「まぁ、誰がそうしたのかもわからぬ、詳細はまだ詳しくはわかって居らぬ、誰も知らぬ世の理なのであろうよ」
そういって、マスターはさりげなくこちらに手を伸ばして、そっと私の髪を撫でました。
――どさくさにまぎれて、なにしてますかっ。
ぺいっと触れる手を払って、溜息を漏らしてしまいますのことよっ。
だって、さぁ。黄色いぴよぴよに囲まれて、ぴよぴようるさいよーっなんていいながらきゃっきゃうふふと、小さい黄色い毛玉に囲まれるのが夢だったのにー。ふっわふわのヒヨ毛に憧れてたのにー。しょんぼり項垂れれば、再び頭を撫でられました。しつこいですよ、マスター。じとめで見上げれば、僅かに目を細めてマスターが見返してきます。けっ、無駄美形め。滅びればいいのに。
「……口に出てるぞ」
「あら、失礼しました」
ほほほ、と笑ってごまかしつつ再びぺいっと手を払えば。
「ひよこなら、牧場に行けば居るだろうよ。――見たいか?」