2-1
「マスター! マスター!!」
私は、溢れる情熱のまま、マスターの執務室に駆け込みました。
ばたーん!! と大きな音を立てて執務室の扉をあけた私に、マスターは、二度目だから、マスターはどこか諦めを含んだような目で見詰めながら溜息をついています。あらあら、マスター、溜息は幸せを逃しますよ! っていうか、ちっ、尻尾も耳も無しか。少しはサービスすればいいのに。って、そうじゃなくって!
「マスター! お願いです!」
「今度はなんだ」
「うさぎさんの国に、いってみたいですっ!」
返って来たのは、深い深い溜息でした。だから幸せ逃げますよ?
「しかし、何故いまうさぎの国なのだ?」
不思議そうに問いかけながら、テーブルに付いている私の横で、マスターが優雅にお茶をいれてくださいます。
――いっつもおもうんですけど、これって立場逆じゃないですかね? いいんですかね? と、思いはするものの、目の前の美味しいお菓子と、お茶のいい香りにすぐにその疑問は吹き飛んでしまいます。ああ、今日も素敵に美味しそうなお菓子たちです。
「ええと、このまえ、ななさんにあったんです」
「ナナ殿というと――犬の国に居られる?」
こくこくと頷いて、クッキーをぱくり。うわ、これうま。ちらりとブルネイちゃんに視線を送れば。え、ななさん提供レシピなの? これも? すごいよねーななさん。
「ええ、で、そのときに、うさぎの国の方にあったという話をちらっときいたんですけどっ」
きらり、と私の目が光ります。
「もふもふなんですって。うさぎさんですもの、すんごくかわいらしいですよね、かわいいですよね、もちろん、もーちーろん、私の愛は猫、猫科のふわもふと肉球にすべて捧げておりますけれども、ですけーれーどもっ! うさぎさんも、かわいいんですよ、かわいいに違いないんですよ! あのナに考えてるのか解らない雰囲気のくせに愛らしい目、長く伸びてふるふると震える耳、ぷっくり膨らむ尻尾――ああ、触れたい、撫でたい、抱き締めたいぃぃぃぃぃーっ!! ですのでマスター!」
両手を組み合わせ、じっとマスターを見詰めます。
僅かに身を引きたじろぐマスターにずずいっとせまりながら、強く輝く瞳でおねだりです。
「うさぎのくにに、いかせてくださいっ!」
「ダメだ」
「なんでですかっ!」
即効断られて私涙目。あ、だめだ、本気で涙出てきた。
ほろほろ涙こぼしてたら、マスターが目の前でおろおろしてます。おろおろするくらいなら許可してくれればいいのにっ。
「そ、そうだリン、また今日も、毛づくろいを手伝わぬか? ん? どうだ?」
どうやら、それを出せば、私を誤魔化せると思っておいでですねっ!? いつもいつもその手にのるとは――やっぱりのりますっ!
「っ、よろこんでっ。いまからですかっ? すぐですか? ほら、さぁさぁ、脱いでくださいずずいっと、早く早く早くーっ」
服を掴んでゆさゆさ揺さぶってみれば、少しばかり目許を染めたマスターが、視線をうろうろと彷徨わせていましたとさ。
――だけど、これで諦めるとおもったら、大間違いなのです(きらりん)