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「何をおっしゃいますか。私の中で至上はねこ。そしてねこ科の生物。そのふかふかと愛らしさとつれなさが、私の心の糧、心の拠り所。羊族がよいのではなく、彼らのもつふっかふかに触れ合ってみたい、そう申し上げているのですよ。そこにふっかふかが存在するというのに、触れないなど、ふかふか命ふかふか信者の名がすたります! というわけで、数日おやすみくださいっ! おねがいしますっ!」
「っ、まて、そなたひとりで行くつもりか?」
「え、まぁ、そのつりですけれど。もしくは、最近仲良くしてくれてるツンデレっ子な自助仲間のロシアンブルーなブルネイちゃんについてきてくれるように頼むつもりです。しってます? ブルネイちゃんってば、凄くツンデレでかわいいんですよ! あのつれなさがもう、もう、たまんないっ。そのくせきっと頼んだら『べ、別に、貴方ひとりでいかせてあちらに迷惑をかけたら、私達の体面が悪くなりますから! だからついてってさしあげるだけですのよっ』ってうんですよ。くぅぅぅぅ、たまんない、あの気位、あのデレ具合。もう、最近私、ブルネイちゃんなら嫁に――」
「わかった、わかったからおちつけ。ブルネイだけでは問題だろう」
ちょっと、私のブルネイちゃんへの愛をさえぎるなんて。むっと眉をよせると、手を伸ばしたマスターが宥めるように頭をなでてきます。
なんですか、子供扱いですか。宥めたかったらなでるんじゃなくて獣型になるか耳尻尾だせってもんですよこんちくしょう。
じとりと睨んでいると、ふう、とマスターは、深いため息を漏らして。
「我が共に行こう」
「あ、だめです」
「……何故だ」
「え、だって相手は羊族ですよ。虎族が訪問したら、あちらの主様はよいでしょうけれど――他の子が怯えちゃうじゃないですか。え、ちょっとまてよ、ふるふる怯える羊毛。潤んだ目でぴるぴる震える羊毛、あ、ちょっといいような気がしてきた。それいい。ああ、かわいいだろうなぁ、ふるふる震えてるのをぎゅっと抱きしめて、もふもふしたら――ああ、最高っ、最高最高最高っ。わかりました、マスター、是非いっしょ」
「解った、解ったから落ち着け。考えて置くから、とにかく落ち着け」
「本当ですね?本当に本当ですね? 考えておくだけ、とか、実際はいかせない、とかいやですからね!」
ふぅ、と再び深いため息を漏らしたマスターは、ふとなにかを思い着いたような表情になり。
そして、ニヤリとほほえみました。
「解ったから、どうだ、今から我の毛づくろいを手伝って行かぬか?」
「っ! よろこんでっ」
きらん、と、私の目が光りますのことよっ。
「では、マスター、早く、早く獣型にっ! 早く早くっ」
ばんばんと机を叩きながらおねだりですっ。ああっ、もう我慢できないっ。
おおう、また期待のあまり目が潤んでしまいます。ああ、マスターが目を逸らした。酷い。そんな露骨に、酷い顔だからって目を逸らすなんて。
むっすりと拗ねる私に、マスターは少し困ったような呆れたような笑いを浮かべ、ゆっくりと獣型へと変化してくださったのでした。
ああん、でかもふねこっ、らぶ!(注:虎です)
それから。
私が羊の国のことを持ちだすたびに、マスターが毛づくろいを持ちかけ、私が流される、という流れが定番化してしまうこと、なんて。
獣型になってごろごろとご機嫌に喉を鳴らすマスターを毛づくろいするのに夢中になった私には、わかるわけないってお話ですよっ。
おしまいっ