――3
この世界に、他の世界から落ちてくる人間のことを、落人、というらしいです。
そしてこの世界は、獣が人に変化することができる世界――そして、ここは犬族のひとりである、レヴィアンさんという方の、ご領地なのだとか。
私が落人である、と、判断したらしいライさんは、心地よさに負けてしまったことに凹んでか、ひとり、うぅうぅと唸るルゥを叱咤し、ゆっくりと人型になってくださいました。
人型であるライさんは、どこか強面で、しかし整った顔の、黒髪に僅かに茶の混じる髪をもち、瞳の色はそのままの美丈夫――否、どちらかというと見るからに武人、といった風情で。その横で慌てて人型となったルゥは……あら、失敗したのか、耳と尻尾が残ってますよ? 黒灰の髪に青銀の目の、同じく整った顔の美丈夫、ですか――どこか愛嬌のある表情をしていました。
「あら、まぁ。お二方とも、美人さんでいらっしゃるのね」
にっこりと微笑んでいえば、二人は少し驚いたようにお互いに顔を見合わせ――ライさんは、僅かに苦笑し、ルゥは照れたようにそっぽを向きました。
「驚かれないのですね――まぁ、それより、とにかく、まずは館へと来ていただけますか? 主とあっていただく」
否やはありません。
理解できない現状です。勝手に、不可抗力とはいえご領地にお邪魔してしまったのですから、ご挨拶はするべきでしょう。
頷いた私は、彼らに誘われて、彼らの主の元へと、向かったのでした。
道すがら、聞いた話によると、この世界にはここ最近、複数の落人がきているのだそうです。
虎族の方の元など、あちこちに点在しているものの、数えられる人数で。しかしながら、ここしばらく、急に増えてるのだとか。
いつかお会いすることもあるやもしれません、と告げてくるライさんの横で、ルゥがふるふると何かに怯えたように震えています。
不思議に思って首を傾げれば、ライさんが苦笑しながら、落人のひとりである狼族の所の方へ、豹族の所に居られる方がこられることがあったようで、そのとき、ルゥはその方にお会いになったことがあるようで――「コワイ、コワイ、ムチコワイ」と小さな声で呟いていました――ときどき、こうなるのだそうです。
あらまぁ。よほどやんちゃしてしまったのでしょうか。
ムチを使う、というのは驚きでしたけれど、どうやら今まで交わした雑談の雰囲気からすると、普通の、元の世界の犬たちなどよりも体力的にも能力的にも上のようですし――不必要、というわけでもないのでしょうね。特に豹族、という私達の知識でいう猛獣であれば、確かに使うことも否やはないかもしれません。
いつか、お会いできるといいですね。
他にもおられるのかもしれませんが、どうやら割りと短期間で私と他の人は、この世界に来たようですから。
そんな話をするうちに、私達は、主様が居られるという、おやしきにたどり着いたのです。