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気軽に・手軽に読める短編です。ご笑納ください。猫ラブ。
拝啓 お母さまへ
おもえば、遠くにきてしまいました。
貴方とは、もう遠く、住む世界すらたがえてしまいました。
口うるさくはあったけれど、愛してくれていたこと、心から感謝します。
ひとり、遠くはなれた身知らぬ場所で、心細くもありましたが、今は仕事もいただいて幸せに暮しています。
どうか、嘆かないでください。
いなくなってしまった貴方の娘は、今、この上なく幸せに暮しているのですから。
遠く異世界の空の下で
貴方の娘より
「――ああああああっ、なんて、なんて愛しいの!」
目の前の光景に、思わず歓喜の叫び声をあげながら、身もだえしてしまいます。
目の前にいる彼らは、そんな私の様子にちらりとみて、けれどすぐに関心を失ったように視線はそらされてしまいます。
「ああっ、なんてつれないっ。でも、そのつれないところも愛してるっ!」
堪らない。こんな幸せがあって、いいのでしょうか。
目の前の部屋には、見渡す限りのねこ・ねこ・ねこ――毛玉祭りっ! と叫びたくなるような、ねこ好きには堪らない光景が広がってます。
ああ、許されるのならばあの中に、勢いよくだいぶして毛玉にまみれたい。
引っかかれてもかみつかれてもいいっ、ねこまみれになれるのならばっ。
うっとりと美しい毛並みのねこたちを眺めながら、頬が緩んでしまいます。おっと、よだれ出てないでしょうね。よし、だいじょうぶ。
「……少しは落ち着いたらどうだ。ちいさきものたちが怯える」
ふふふふふ、と、怪しい笑いを浮かべる私に、背後から声がかけられます。
あら美声。でも、私の一番のお気にいり、白い毛並みのミルティちゃんの鳴き声に比べれば雑音も同然だけれどっ。ああ、でも、もしかして。もしかしてそうならば、ミルティちゃんよりは劣るけれど、悪くない声といえるかもしれませんっ。
少しばかりの期待を胸に、私はふわりとお仕着せの侍女服のスカートを翻しながら、くるりと身を翻します。
とたん、目に入るのは銀色の髪に綺麗な青い目を持つ、背の高い美形の男。
きらきらと髪が光に透けて輝き、瞳は透き通って吸い込まれそう――らしいですよ?
無駄に今日も美形だな、と、すっと表情がさめるのが自分でも解りました。
……今日は、完全版なのですね。
内心、ちっ、と舌打ちを漏れちゃいます。
とはいえ、この声の持ち主を無視するわけにはいかないのです。
私は、表情を取り繕うと、きっちりとお辞儀をしてみせました。
「ごきげんよう、マスター。本日もよろしくお願いいたします」
なにせ、雇い主さまでいらっしゃいますから!
ご挨拶は基本なのですよ!
「……ああ、おはよう、リン。しかし、そなたはわかりやすいな」
どこか引きつった表情でこちらをみているその美形――この屋敷の主である人物は、どこか呆れたようなようすです。
そんなことしったことじゃありません。
ねこ以外はどうでもいいんですから! ええ、ねこ以外は!
早川りん、16歳。
高校の帰り道に穴に落っこちて気が付いたら異世界という、え、それってどこの小説? な展開に陥った、元女子高生。
そして現在は、この、何故かねこまみれの世界で、「ちいさきもの」と呼ばれる猫達の世話を、毎日楽しくして過ごす、ねこ屋敷の侍女、やってます。