『言葉のコロシアム』
市民ホールの舞台には、異様な熱気と、冷や汗混じりの沈黙が渦巻いていた。
年に一度の「全日本駄洒落選手権」。スポットライトを浴びる赤絨毯の中央、マイクを握る審判長の声がピンと張り詰める。
「決勝戦! 残るは二名! 先行、浪速の言葉職人・シドウ!」
舞台袖から歩み出たシドウは、ラケットを構える素振りをし、客席を指差して吠えた。
「テニスプレーヤーの手ぇに、スプレーやーっ!」
ドッと笑いが弾け、採点板の数字が跳ね上がる。
間髪を入れず、後攻のベテラン・池ロンが鳥籠を抱えるジェスチャーで凄む。
「かなりヤバい客が、カナリヤ売却!」
「おおーっ!」
どよめく客席。点差はわずか。
焦ったシドウが早口で畳み掛ける。
「対人恐怖症のタイ人、今日負傷!」
「いいヅラ買ったこと、言いづらかった……!」
頭を抱え、切なげにカツラを押さえるシドウの迫真の演技に、審査員席の老人が膝を打って吹き出す。
だが、池ロンも退かない。メガネを押し上げ、冷徹な低音を響かせた。
「計五回、会った相手に、敬語かい?」
「うまいっ!」
客席から掛け声が飛ぶ。五・七・五のリズム感に、会場の空気が池ロンへ傾きかける。
舞台袖で見守る司会者が生唾を飲み込んだ。
「す、凄まじい応酬です! 一歩も譲らない! さあシドウ、次はどう出る!?」
シドウの額から大粒の汗がポロリと落ち、舞台の板敷きを濡らした。喉がカラカラに渇いている。残る手持ちの札は……これしかない。覚悟を決め、マイクを引き寄せた。
「ジャイ子が言った。……じゃ、いこっか!」
愛らしい裏声と満面の笑み。その瞬間、会場の緊張の糸がプツンと切れ、客席全体が大きな笑い声に包まれた。張り詰めていた空気が一気に弛緩し、温かな拍手が降り注ぐ。
審判長が両手を挙げた。
「勝負あり! 優勝は、シドウ選手――!」
万雷の拍手の中、シドウは深々と頭を下げた。横に立った池ロンが、苦笑いを浮かべながら手を差し伸べてくる。
「完敗だよ、シドウさん。『じゃ、いこっか』の間の取り方、痺れたね」
「いやぁ、あんたのカナリヤも鳥肌モノやったで」
がっちりと握り合う二人の手。
言葉を愛し、言葉に魂を削り合った男たちの頭上に、きらきらと紙吹雪が舞い散っていた。
◇◇◇
歴代の傑作駄洒落の響きとリズムを生かし、熱狂的なバトル小説に仕立ててみました。




