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じゃない方じゃない…って本人てこと?

作者: 井上さん
掲載日:2026/06/03

名前を借りました



何の功績か思い付かなかったので、ただの「功績」としています

 メティス侯爵家の令嬢エララと名前が同じアマルテア伯爵家の令嬢エララは『じゃない方』と言われている。


 侯爵令嬢の私エララは、自分で言うのもなんだけど、美人だし、成績優秀だし、功績もあげている。



『じゃない方』と言われる伯爵令嬢エララは、良い気持ちはしないだろうなと思っていた。


いくら、顔は普通、成績も普通、特に秀でた所がない伯爵令嬢といえども、誰かと比べられるのは嫌だろう。


私も嫌だ。






 ある日、学園の廊下で、カリスト侯爵家の令息テーベが私に声を掛けてきた。


「私と婚約してほしい」


 いきなり何を言うのか。


「貴方と婚約するメリットは?」


「私は侯爵家の嫡男。いずれ侯爵家を継ぐ」


 そうでしょうね。


「他には?」


「他に?いらないだろう?」


 いらないかなぁ?


「父に言ってください。私では何とも」


 うんざりした私は、父に丸投げする事にした。


 侯爵令息は、父に私への婚約の申し入れをして、婚約が決まった。


良いのかなぁ?侯爵家の身分しかメリットが無い人と婚約して…




 私とテーベが婚約した事は、すくに広まった。


「テーベ様!エララ様と婚約したって本当ですか?」


 伯爵令嬢エララが、テーベに話し掛けた。


「本当だが?」


「テーベ様は騙されています!」


「騙されている?」


 テーベは、首を傾げた。


「実は、エララ様の功績は、本当は私の功績なんです」


「何だと?」


「エララ様に私の功績を横取りされているんです」


 エララが、悲しそうな顔をしながら言った。


「本当か!?」


「本当です。今まで誰にも言えなくて…でも、テーベ様が騙されていると思ったら、我慢できなくて…」


 目を潤ませながら見上げるエララ。


「ありがとう。悪女に騙されるところだった!」


「テーベ様」


 見つめ合う2人。






 テーベは、今まで知られていた侯爵令嬢エララの功績は、『じゃない方』のアマルテア伯爵令嬢エララの功績だと、他の生徒達に話した。


 周りの生徒達は、『じゃない方』を信じた。



 弱い者が、強い者に虐げられていたが、正義は勝つ、という夢物語に、みんな酔いしれた。

 真実がどこにあるのか、考えもせず。調べもせず。



 生徒達は、聞こえよがしに噂話をした。


「侯爵令嬢がすることか?」


「身分をかさにきて」


「最低だな」


「早く謝れよ」


「じゃない方が優秀なんてな」


「虚飾に塗れた侯爵令嬢」






「お前とは婚約破棄だ!」


 テーベが言った。


「かしこまりました」


 勝手に婚約を申し込み、勝手に婚約を破棄する。世話はない。


「エララ嬢から横取りした功績は、本人に返せ!」


 伯爵令嬢エララを腕に絡ませ、威嚇するテーベ。


「無理ですわ」


「何故だ!?」


「私の功績ですもの」


「嘘つきめ!」


「それで結構ですわ」


 信じるつもりはないんでしょ。


「強がっていられるのも今のうちだ!エララ嬢に謝れ!」


「謝るのはどちらかしらね?」


 嘘つきなのは、功績を奪ったのは、どちらかしらね?






 イオ公爵家の令息アドラステア様が我が邸を訪れた時、つい言ってしまった。


「伯爵令嬢とお間違えでは?」


「間違えてはいない」


 アドラステア様は、真顔で言った。


「じゃない方の令嬢がお目当てなのでしょう?」


 私も真顔で言った。


「じゃない方じゃない、君が目当てだ」


「じゃない方じゃない?」


 私は首を傾げた。



私は、アドラステア様と婚約した。






 公爵令息アドラステアに話し掛ける伯爵令嬢エララ。


「アドラステア様!エララ様は、私の功績を横取りしたんです!」


「君に私の名前を呼ぶ許可は与えていない。それで、功績を横取りされたと言うのなら、君の功績を見せてみろ」


 アドラステア様は冷たく言った。


「え?」


 エララは戸惑った。いつもなら、皆が信じるのに。


「自分の功績なんだろう?今すぐ見せてみろ」


「今日は…ちょっと…」


「何故?どうして見せられない?」


「えっと…」


 視線を彷徨わせるエララ。


「メティス侯爵令嬢に功績を横取りされたと言ったのだから、きちんと証拠を見せなさい。でないと名誉毀損になるぞ」


「え!?」


 驚くエララ。


「当たり前だろう?伯爵令嬢ごときが侯爵令嬢に歯向かったんだ。しかも、公爵家の私の婚約者だ。命乞いでもするが良い」


 アドラステア様に睨まれたエララは、一目散に逃げた。


 後には沈黙が残る。

逃げたということは、後ろ暗いところがあるからだ。


 エララは、わざと人目のある所で話していたから、大勢の生徒が見ていた。

ほとんどの生徒が、真実を察した。


「侯爵令嬢の功績を、自分のものと偽り、横取りされたと嘘をついた伯爵令嬢を、信じたお前達は、本当に見る目が無いな」


 アドラステア様の言葉に、周りの生徒達は顔が真っ青になった。


「何で本当かどうか調べなかったんだ?バカなのか?」


 噂に踊らされるくだらない生徒達とは離れる。それだけだ。

公爵家に近付ける価値は無い。

あの、侯爵令息テーベもだ。


「彼女は私の婚約者だ。覚悟しておけ」


 アドラステア様は、そう言うと、婚約者のもとへ向かった。






「本当に、私で良いんですか?」


 私は、まだ信じられなかったので、アドラステア様に聞いた。


「君に婚約を申し込もうと思っていたのに、公爵領で色々あって、対処しているうちに、侯爵令息に横取りされたのだ」


 確かに、テーベに婚約を申し込まれた時は、アドラステア様は学園を休んでいた。


「君は素晴らしいんだ。私がそれを君に教えよう」


 アドラステア様は、私の手を取り、指先に口付けた。






 伯爵令嬢エララは、学園を退学になった。


他人の功績を自分のものと虚偽申請し、嘘の噂を流し身分の高い令嬢を貶めたのだ。


 公爵家が、特にアドラステア様が許さなかった。

エララは、勘当されて領地に閉じ込められた。

2度とアマルテア伯爵領から出すなと公爵家から言われたら、どうにもならなかった。



 侯爵令息も、廃嫡になった。


カリスト侯爵家は、テーベを、自分から望んだ婚約を勝手に破棄し、真実を調べもせずに虚言を信じるなど、当主の資格は無いと、勘当し、エララと婚姻させ、監視をつけ、アマルテア伯爵領から2度と出すなと厳命した。




 これ見よがしに噂話をしていた生徒達は、1ヶ月の謹慎処分を受けた。


 アドラステア様は、誰が何を言っていたか、きちんとメモしていた。


…抜かりがない。


 きっと、それぞれの家で、イオ公爵家とメティス侯爵家に睨まれた不手際を、責めれているだろう。

中には、廃嫡になったり、勘当されたりした生徒もいて、退学していった。




「これで、安心して学園生活を送れるな」


 アドラステア様は、ニッコリ笑って言った。


権力は正しく使う。


「君の力を借りたい」


 アドラステア様が、手を差し伸べてきた。


「かしこまりました」


 私は、アドラステア様の手に、自分の手を重ねた。


「婚約者なんだから、もっと親しい口調にしてほしいな」


「努力しますわ」


「そういう所が良いんだ」


「変わってますね」


「そうかな」


「はい」




 私は、アドラステア様にエスコートされて、馬車に乗った。

読んでいただきありがとうございます

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