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7 Mの道理

 釣りという遊びは、本来かなりストイックな遊びだと思う。


 人里離れた山奥で、熊や毒蛇、毒虫に神経を尖らせながら、一心に水面を見つめ微かな変化に気を配る。

 海の真ん中にポツンとある畳一畳ほどの無人の磯に一人降りて、迎えが来るまで延々と釣り続ける。

 真っ暗な防波堤に立ち、闇に向かって延々とルアーをキャストし巻き続ける。

 山中で、磯でポイントを求めて藪漕ぎをしながら、一歩踏み外せば良くて大怪我の磯や崖に最新の注意を払い歩む。

 突然の雷鳴に、磯の窪みや崖の窪みに身を隠し、滴る水に濡れながら大粒の雨が通り過ぎるのを待つ。

 

 月や星空を眺めながら、川辺や防波堤に腰を下ろし蚊と戦いながらじっとアタリを待つ。

 冷たい水に腰まで浸かり、流れに流されないよう気を配りながら、杭のようになってキャストを繰り返す。

 断崖絶壁の上にあるミサゴの巣を眺めながら、用意した昼飯を頬張る。

 時折り来る大きな波に呑まれないよう気を付けながら、磯にできるサラシを狙う。


 夏のまだ夜が明けぬ磯にヘッドライトの明かりを頼りに飛び移り、朝霧なのか自分の汗なのか絶えず額を流れる流体に、ひょっとして血だということはないだろうな?とそれを拭いながらも仕度を始める。

 野池の葦の中で立ちこみ、音に気付いて目をやるとヤマカガシがカエルを咥えて忍び泳ぐ。

 夕闇迫る野池に背後から戻った水鳥が突然飛来し、腰を抜かしそうになる。

 山奥に堂々と立つコブだらけのブナの幹に神聖なものを感じ思わず頭を垂れる。

 どうしても次の一歩が踏み出せない不穏な気配のある場所で、仕方なく引き返す。


 こうして書き上げてみるとキリがない。


 私は何が楽しくてこんなことをしているのだろうか?と稀に自問自答することがある。それは決まって思うように釣れていないときだ。釣れているときは、そんなことを考えもしない、不穏な気配なども感じもしない。

 そうなると、これは欲のなせる業なのだろうか?

 欲に我を忘れた私が突き進んでいるだけなのだろうか?


 帰路について運転を始めると、そういうことを思うのだが数日も経てば、天気が良いと分かっていたりすると、もういてもたっても居られなくなり、釣り道具の準備を始めるのである。

 これは、もう既になんとか依存症というちゃんとした名前のある病気なのかもしれない。


 ただ、ストイックであればあるほど、自分を見つめ直し考える時間だけは、滔々たるものだ。しかし、微かな変化とアワセは一瞬。

 普段の生活では、あまり経験出来ない真剣さと忍耐がそこにはあるもので、私はそう言う釣りが好きだ。


 釣りにも様々な楽しみ方があり、気の置けない友人と和気藹々と楽しむことも出来れば、勝負をすることも出来る。大好きな恋人と二人の時間として楽しむことも、家族みんなで楽しむことも出来る。

 特にこんな修行僧の様な苦行を行うことはないのであって、私とてそれが出来ないほど人間関係に苦労しているわけではない。


 どちらかと言えば、敢えて苦行を楽しんでいる。ひょっとすると私にはそう言う性癖が、何処かにあるのかも知れないと、一人で苦笑いしながら竿を振る。


 孔子の言葉にこんなのがある。

 「これを知るものは、これを好むものに如かず

  これを好むものは、これを楽しむものに如かず」

 まぁ、いろんな楽しみ方で先ずは釣ってみることだ。 

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