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4 ウナギ籠

 土用の丑にウナギを食べるという風習は平賀源内が広めたそうだが、本当にウナギが美味しいのは十月を過ぎて水温が下がり始めてかららしい。しかし、私の記憶の中でも、ウナギを釣ったり獲ったりするのは夏場以外にない。一つは、夜行性であるため釣るとすれば夜釣りで狙うからだが、川でのウナギ釣りは蚊と戦いながらなのでなかなか辛い。


 雨が降って水嵩が増えると竿をもって川に行く。特効餌はドバミミズと呼ばれる大きなミミズだ。鮎の頭などでも釣れると聞いて、頭を持って出かけたがアタリさえ無かったので、やはりミミズが一番なようである。


 竿で狙うときは、投げ竿をもっていく。投げ竿というのは、腰も竿先も堅い竿で、スピニングリールといい、スプールという糸巻きの軸が竿と並行になっていて、竿と同じ方向に回転するようになっているリールを使って兎に角遠投することを目的に作られた竿だ。リールのハンドルは横に出ており、こういう構造から内部に傘歯車が組み込まれているのが絶対になる。


 ジェット天秤という針金の中で錘が自在に動く錘をつけ、その先に流線形のウナギ鍼を一本だけつけ、ミミズを付けて対岸を目掛け、振りかぶってキャストする。

 ペールと言われるスピニングリールの糸巻き用の針金を曲げたような部分を立てると、リールはフリーの状態になり糸がスルスルと出ていくようになる。その糸を人差し指に引っ掛けて糸の出を止め、竿先から糸を垂らして竿を振るときのモーメントを大きくして飛距離を稼ぐ。

 竿を振って糸を出す瞬間に人差し指を糸から離し、仕掛けを遠方に飛ばす。


 ルアーでも、何でもスピニングリールを使うときは、これが基本だが、初めてやると結構難しい。同じキャストをこのスピニングではない、ベイトリールという同軸の糸巻きの軸が竿と軸直角のリールで行うと、もっと難しい。


 キャストして仕掛けが沈んだら、糸を張って竿先に鈴をつけ、ひたすらウナギが食ってくるのを待つ。アタリがあると竿先が揺れるので、鈴がリンリンとなる。

 まぁ、待ってる間は暇なので、夜空を見上げ流れ星を探しながらじっと待つことになる。

 大抵は友人と出かけて、バカ話でもしながら待つことになるが、一人で行くと、自分と対話することになり結構な修行になる。


 ウナギを釣る方法は、タコ糸に付けた仕掛けを一晩中漬けておき、翌朝回収する夜漬けと呼ばれる方法や、竿先に鍼がついていてそれをウナギのいそうな石垣の穴に突っ込んで探っていく方法、近年ではペットボトルを竿にして釣る方法などいろいろあるが、私の思い出深いのは、ウナギ籠だ。

 竹で編んだ、試験管を大きくしたような筒の先端に、竹で編んだ漏斗のような蓋をつけ、下流に向かって石を載せて沈めておくと、翌朝ウナギが入っているという道具だ。


 兎に角、籠に餌となるミミズを入れる。それも大量に入れる。そして、匂いを出すためにミミズの内臓を絞り出し、入り口の漏斗の部分に塗り付ける。

 ミミズを見ただけで、キャーとか言う人には絶対に無理な作業だ。

 笹の葉を漏斗と籠の間に刺してウナギを誘導しやすいようにして、それを夕方にウナギの通り道と思われる場所に沈める。

 翌朝は夜が明けると、速攻で引き上げに行く。どこにでも悪い輩がいて他人のウナギ、悪ければウナギ籠ごと盗む奴がいるからだ。


 ドキドキしながら、籠を上げた時にミミズ以外のどっしりとした重みがあった時の心のトキメキ。

 今では、あんなにときめく事は無くなってしまった。子供のころは、次々と、ときめくことがあったような気がするのだが、思い出を美化しすぎているのだろうか?


 このウナギ籠を漬けて、翌日に大雨が降り川の水嵩が増え回収に行けなくなってしまったことがあった。

 数日待てば良いのだが、子供というのは、それが待てない。

 弟と二人で鉄橋を渡って行こうということになった。

 恐る恐る、鉄橋の点検用の歩廊を渡っていたら、運の悪いことに前から電車が来た。電車の大きな汽笛、弟と二人で歩廊横の鉄柱に半べそでしがみ付いて凌いだ。

 激しい振動と、風圧、凄まじい騒音。一メートルも離れない場所を電車が通過する恐怖は、そのウナギ籠の結果がどうであったか忘れてしまった今でも、覚えている。


 あんなスタンドバイミーな経験は、二度とごめんだ。

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