これ、知らない所持品だ。
10月9日 午前10時55分
大都市『ペトリーナ』・ウェスペル地区
交番『ファタエ』・診察室にて。
「これが、君が持っていた所持品だ」
シェルさんから手渡される、茶色の手帳型のカード入れ。
「え?これだけですか?」
私の言葉に、シェルさんは「そうだ」と頷く。
「散歩している時に誘拐されたんだろう。君は、この学生証をしか持っていなかった。学生証と言ったモノは、学生が肌身離さす持っているモノだ。身分を問われた時に見せることが出来るし、何かあれば役に立てる」
シェルさんは、私に優しく教える。だが、私は落胆していた。
「マジですか…まぁ、何か良い情報が分かれば……」
勝手に期待して、勝手に落ち込んだ気持ちのまま、手帳型の学生証の中を見る。見た瞬間、再度私の気持ちが地に落ちた。
(誰じゃ……こやつ……)
学生証に映る少女は…、私と容姿や髪の色が同じの瓜二つなのに対し、『アトレ・サンサーネ』っていう名前……。
私は『神埼結』なんだが?丸っきり名前違うだろ。ドッペルゲンガー疑うぞ、マジで。
(私と同じ栗毛で、見た目も…目の形や唇に鼻の高さ。そして私と同じショートボブなのにさ……『アトレ・サンサーネ』って……、本当に誰だよコイツ。ドッペルゲンガーかよ)
はぁ、少しは元の世界に帰れる方法が見つかるかもなぁって、期待してた私がバカだったわ!!全く分からん!!
進展ゼロ!!進めや!!コノヤロー!!
怒りで手が震えてしまう。そんな中トントンと、肩が優しく叩かれた。我に帰り、叩かれた方向を見ると、金色の妖精がこちらを見ていた。
まるで、「大丈夫?」と言いたげな顔をして。
「あ、大丈夫です。ただ…ちょっと、誘拐された記憶が少しだけ戻ったのかな……、誘拐した悪人たちに怒りを覚えました」
私は咄嗟に嘘をつく。私の嘘を聞いたシェルさんは、「少し記憶が戻ってきたのか。見せて良かった」と優しく微笑んでいた。
うわぁ…こんな善意の塊みたいな、優しい美形の青年の微笑み見ると……、嘘ついた私を呪いたくなる……。
いいや、今は嘘をつかないと。自力で、なんとかして、元の世界に帰る方法を見つけないと!
また決心した私は、シェルさんに質問を投げ掛けた。
「あの、シェルさん。近くに図書館って、ありますか?」
「え?図書館?」
キョトンとするシェルさんに、「はい」と頷く私。
「あそこだと、色んな情報が乗った本とか…、多種多様な本が沢山あるので、私の身元に繋がるモノを調べることが出来るかも知れないなぁと、思いまして……」
「フム、そうかもな。図書館は知識の宝庫。身元に繋がるモノもあるかもしれない。だが、君一人で行かせるのは……」
頭を悩ましていたシェルさんだったが、突然「あっ」と声をあげる。
「妖精と一緒なら大丈夫だろう。君、何かあればユウの事を守ってね」
シェルさんにそう託された金色の妖精は、コクりと頷いたのであった。




