車に轢かれ、異世界に来た
9月某日。
学校が終わり、帰路についていた女子高生・神埼結。歩きながら夕飯について考え事をしていた。
「今日の夕飯はなんだろう……。あ、ネットで気になっていた料理があるから、お母さんにお願いして、作ってもらおう。あっ。でも…お手伝いしながら、お母さんに作り方教えようかな」
母と仲良く料理する場面を思い浮かべ、一人で楽しそうにしているユウ。だが突然、彼女の元に制御が効かなくなった、一台の車が向かってくる。
(えっ…。ここ、歩道だよっ!?どうして…いや、逃げないと)
驚きつつも、避けようとする。一歩遅かったのか、彼女は車に轢かれてしまった。
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10月9日 午前10時45分
大都市『ペトリーナ』・ウェスペル地区
交番『ファタエ』・診察室にて。
何かが…頬をペチペチと、叩いている…。もう少しだけ寝てたい……。
うぅ…、まだペチペチしてる…。もう少しだけ……、もう少しだけ……。
ん?なんか…鼻辺りに、何かが当たってる…?
「んん…、くすぐったいな……」
私は目を開ける。まだ覚醒していない中で、あるモノが私を覗き込んでいる事が分かった。
長い、ウェーブの金髪で…綺麗な銀色のワンピースを来た……羽の生えた、妖精……。
「はっ!?妖精ッ!?」
驚きのあまり、勢い良く体を起こす。私の行動を見た妖精は驚いたのか、こちら側から離れてしまった。
「いや、待って?ここ、どこ!?さっきまで…下校してたのに…。それに車に轢かれて……」
ブツブツと独り言を呟く私を尻目に、ドアが開き、中に一人の男性が入ってきた。
「ん?あぁ、目が覚めのか」
男性の声を聞いた金髪の妖精は、彼の後ろに飛んで逃げてしまう。男性は私の方へと近づき、近くにあった椅子に座った。
白髪で、薄い…緋色の瞳をしたイケメンの部類に入る、顔の整った男性。服装は、白と銀糸で構成された警察の制服。この人…、警察なのかな?
マジマジと見てしまったのか、男性は苦笑しながら言葉を紡ぎ始めた。
「服に何か付いているのか?」
「え?あ、いえ。なんでもありません。ただ、警察の人なのかなって……」
私の反応を聞いた男性は、「あぁ、この服の事?」と呟いた。私は頷く。
「この服はね、この都市を守ってる人たちが来ている服なんだ。俺もそのうちの一人」
話を進めようとした男性だったが、あることを思い出しなのか、咳払いをした後、本題を切り出した。
「まずは自己紹介。俺の名前はシェル、シェル・ヴァルジオン。君の名前は?」
「あ、神埼 結です」
「ユウ…か。単刀直入に言う。君はどうして、《《あそこにいたんだ》》?」
シェルさんの鋭い目が私を見つめる。彼の後ろに隠れていた妖精は、背中からひょっこりと顔をだし、心配の表情を向けながらこちら側を見ていた。