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殉職率の高い魔法少女が壊れる理由  作者: 虹猫
2章 エリート妖精玉袋
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9話 エリート妖精が見た地獄

それなりにショッキングな展開になってきました。

ご注意下さい

(日葵様、人類の敵です)

「分かってる」


「え? え? どうしたの?」


「ごめんなさい三途川さん。人類の敵が近くにいるから私行かないと。あっちの方にいるからあなたは近づかないでね」

「う、うん、分かった」


日葵様は北東方面に走る。800メートルならすぐに辿り着く。

「紬はどこ? 間に合いそう?」

「対象検索……時藤紬。検索……出ました。距離200。どうやら紬様の方が近くにいるようです」


「急ぐわよ、玉袋。魔法少女契約……開始」



タブレットから水色の光が発光し、日葵様を包み込む。



“魔法少女契約開始”

“対象者、時藤日葵”


“魔法少女契約開始”

“対象者、時藤日葵”

日葵様の私服が消失。青い制服ドレスに身を包まれる。


魔法の力は変身しなくても使える。なので魔法少女に変身する意味は身体能力の向上に他ならない。変身すれば通常時の約5倍。走力も跳躍力も体力も耐久力も向上するのさ。


「今回で出撃3回目ですね。紬様も近くにいるようだし楽勝ですよ」

「だといいけどね」


事実これまでの2回は楽勝だった。日葵様が対象を停止し、紬様がとどめを刺す。梅毒は毒こそ脅威だけど動きは遅いから倒しやすい敵と言える。


日葵様と紬様がいれば無敵。この調子で行けば無限と言われる戦いもいつかは終わる。そう思うのさ。


だけど

「日葵、こっちに来ないで!!!」


日葵様が到着すると同時に紬様が叫び声を上げた。


そこには


「うぐっ、ぐっ」


毛に覆われた長い触手。それに腹部を貫かれている紬様がいた。大量の血が流れている。


「紬! 待って、今停止させるから! クロックダウン」

青白い魔法陣が対象の前に現れる。


「よし、止まったさ。紬様、今のうちに逃げて下さい」


「くっ、ぐぐっ」

紬様は持っていた銃で触手を狙う。

バンッ、バンッ


銃声が2発。触手は撃ち抜かれ紬様に肉体が開放される。

「ぐはっ」

口からの吐血。地面が鮮血に染まる。


「大丈夫? 紬」

「えっ、えぇ。不死だしね。これくらいじゃあ死なない。で、でも……」

敵を睨みつける紬様。オイラもその敵を視認する。聞いてはいた、資料では見た。威圧感というのは情報では手に入らない。実際に相対したときにそれぞれが感じる物。今までに感じたことのない威圧感。


2階建ての家と同じくらいの大きな。黒い物体。そこから伸びる触手が100本以上。触手1つ1つからは小さな毛が生えている。


「初めて見ました。これが“毛ジラミ”」


毛ジラミ

人類の敵の1つ。吸血性昆虫を体内に飼っていて対象に植え付ける能力がある。感染した人間や妖精は全身の毛が痒みに襲われる。触手1つ1つの攻撃性も強いが2次攻撃としての能力も非常にやっかいだ。大量の吸血性昆虫を植え付けられると出血死を起こす。


「触手の数が多すぎて対応できないの。日葵、あなたは地域住人の避難誘導を。ここは何とか引き留めるから」

「そんなっ、私が停止して紬が避難するべきじゃ」

「あの大量の触手を停止するとなると空間停止魔法になる。魔力が尽きる」

「それなら今ここであいつを倒すのは?」

「無理よっ、時間が掛かりすぎる。何人もの人が巻き込まれる。私達が攻撃不足なのは理解してるでしょ?

「そっ、そんな、危なすぎる」


「日葵……私が血を流したくらいで動揺しないの。あなたの悪い癖よ。いつもは冷静なのにいざという時に判断が鈍る。大丈夫、私を信じて。だって私の魔法は“不死”だから“」


日葵様と紬様が言い争っている。こんなの初めて見た。それくらい今回の敵は強大なのだ。

「“不死魔法”には限度がある。無茶よ」


そう


“不死魔法”は絶対ではない。もし完全な不死が成立するなら全魔法少女がそうするだろう。魔法少女が枯渇することもない。魔法少女には弱点がいくつかある。その1つが魔力量。


通常時、変身する前の日常生活なら魔力量が枯渇することはない。だけど戦闘時は別だ。変身している間は通常時の5倍魔力を使う。それにオプション契約を使えばさらに魔力を使う。


魔法は最強の力にもなりえるし得れば人生をも変える能力。だけど最強にはなれても絶対にはなれない。


“不死魔法”の弱点。いや、魔法そのものの弱点。それは魔力が尽き果てること。


魔力量とは人間のみが所有する力。誰もが所有しているし所有量も消費量もバラバラ。命の根源とも言われている。


紬様は不死の力を持っている。しかしそれは魔力が続いている時の話。魔力が尽きれば……不死の力はなくなってしまう。


「日葵、避難誘導して」

「くっ……分かった」


苦渋の表情を浮かべる日葵様。納得していないのだろう。普段顔色を変えない日葵様なのに……


オイラは2人のやり取りを黙って見ていることしか出来ない。戦闘に関しては魔法少女に任せるというのがうちの会社のやり方だからだ。


避難誘導にしてもそう。妖精がやればいいのだろうがそれは現実的でない。なぜなら妖精という存在を嫌う人間も多いからだ。また下手に避難誘導をして失敗すれば会社の責任にもなる。過去の事例故の会社の方針というやつさ。


「玉袋。逃げ遅れている人の検索をやって」

「はい、分かりました。検索、検索……。あっちです」

毛ジラミが現れて多くの人間が避難している。だけど全員ではない。足腰の悪い人、倒壊した家具に挟まれるなど何人かいるのだ。

「紬、無茶しないで」


日葵様は避難者のもとに走る。


「ここに2人います。だけど生きているは分かりませんよ?」

「分かってる。それでも助けないと」


オイラは崩壊した一軒家を指さす。そう、文字通り崩壊している。毛ジラミの触手は1本100キロ超の重さがあると言われている。そんな触手が暴れまわるのだ。家など木っ端微塵になってしまう。


飛び散った瓦礫。天井が崩れ落ちて家具も粉々。これではもう……


「いたっ、あそこに1人」

30代くらいの人が座り込んでいる。動けないのだろう。体が小刻みに震えている。


「良かったですね日葵様、生きてて」


日葵様が駆け寄る。


「大丈夫ですか?」

「……わよ」


「え?」

「大丈夫じゃないわよ! 子供が、子供が潰されてるの。見て、ここよ、ここ」


大きな声で叫ぶ。声が枯れ、苦渋に歪む表情。彼女が指さす瓦礫の下には……


頭が潰れ、息絶えた子供がいた。


「あ、あなた魔法少女なんでしょ? 魔法の力があるのよね? 生き返らせてよ、子供、生き返らせてよ。出来るんでしょ? 魔法の力、魔法の力で」


日葵様の肩を掴む。


「早く、早く魔法の力で。生き返らせないと、私の子供、こども……早く、早くしてよ!!!」

「っ」

日葵様が目を背ける。死んだ子供、残された母親。直視することが出来ないでいる。


「ごめんなさい。魔法の力は万能じゃないの。私の力は時間停止。回復や死者を蘇らせることは出来ないの」

「じゃあ、じゃあどうするの? 子供は? ねぇ、子供はどうなるの? ねぇ、ねぇねぇねぇねぇ。ねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「と、取り合えず避難を、避難をお願いします。こ、ここはす、すごく危険で。早く非難しないと」

「バカ言わないで。子供置いて逃げれるわけないでしょ? 親の気持ちが分からないの? あんた何しに来たのよ。役立たず。戦うしか出来ないなら何であの敵を倒してくれないの? 今も暴れてるよね? ねぇ!!!!」


ダメだ。正気を失っている。人間は死を目の前にすると冷静な判断が出来ないと言う。妖精のオイラには今一つ分からない思考さ。


「日葵様。どうします? 無理やり連れていきますか? 他の避難誘導だってありますし」

「わ、私は……わたしは」



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