48話 新卒営業と時藤司と河童型妖精
「嫌っ、いやいやいやいやっ、澪、なんでこんなこと。ま、待ってて、今止血を。血を止めないと」
溢れだす血液。人間は血の流し過ぎると死んでしまう生き物だ。この出血量は、どう考えても危ない。
“魔法少女契約終了”
“魔法少女契約終了”
時藤日葵は魔法少女契約を解き
ビリビリビリビリ
スカートを破き即席の包帯を作る。魔法少女の制服は魔法で生成されている。包帯を作るには通常状態に戻るしかない。
だけどこれは、あまりに危険だ。
「くっ、ぐっ、な、なんで魔法少女契約解くの? わ、私のことは大丈夫だから」
「バカ言わないで。澪だって魔法少女にもなってないのに無茶して」
「だ、大丈夫だって、私は」
「全然大丈夫じゃない」
手際よく止血する時藤日葵。訓練を受けていたのだろうか。涙し焦燥しながらも動きに無駄がない。
だけど
「うけけけけけけ。まさか魔法少女契約を解くなんて。正気ですか? まだ梅毒1体いますけど。それとも魔力切れなんかなー?」
「黙りなさい! あんただけは、あんただけは絶対に許さない。今すぐ捕まえて梅毒の餌にしてやる」
「おー怖い怖い。本家のお嬢様とは思えない汚いお言葉で。焦りすぎでは? 悪い癖が出てますよ」
「黙りなさい!」
俺達を庇って右手を失った時藤澪。応急処置で手いっぱいの時藤日葵。
俺達はこのまま梅毒に喰われるか潰される。
こんな、こんな最期ってあるかよ。
「でもまぁ少ない魔力でここまでよく戦えたもんや。努力賞やな」
「河童型妖精、お前ってやつは」
「なんや? 無能妖精。悪いのはうちなんか? 違うやろ? お門違いや。恨むんなら自分の無能さを恨まんと。なぁ!」
こいつ、こいつこいつこいつこいつ
「ほな、さいなら」
こいつ!!!!!!!!!!!!!
「エンチャント雷」
バンッ
ビリビリビリビリ
「なっ?」
一瞬で梅毒が消し飛んだ。
「ちっ……せっかくええとこやったのに。思った以上に早いな」
突如として落とされた雷魔法。知っている。これはこの魔法を見たことがある。
これは、この魔法は……
「うけけけけ。時藤司様、お早いご到着で」
時藤、母
「やってくれたわね、あなた」
「うけけけけっ、未来予知も万能ではないんやな。値千金の情報を得ましたわ」
「医療班、澪の治療を」
「はっ」
白衣を纏った人間達が時藤澪に駆け寄る。
「あわわわわ。あわわわわわわ。だ、大丈夫ですか? 大丈夫なんですか?」
時藤母に隠れてるあの女の人は
「わ、私、わたし血とか痛いのとかダメなんです。怖くて、自分がああなったらと思うと失神しそうで」
「落ち着きなさい、創」
薄青色の髪にハチマキ姿。時藤創だ。
「で、ですが私こういった現場は慣れなくて」
「非戦闘員のあなたを戦わせるつもりはないの。次のタクト貸して」
「は、はい」
そう言って時藤創は別のタクトを時藤母に渡す。
バキッ
さっきまで時藤母が使っていたタクトが折れた。どういうことだ?
「わ、私の道具は1つしか作れないので。2つの存在は認められないと言うか」
「創、それ以上の情報漏洩は許さないわ。ただでさえあなたの存在は表に出したくないのに」
「も、申し訳ありません」
新しいタクトを受け取った時藤母。河童型妖精を睨みつける。
「うけけけけっ、怖い怖い。あきまへんで? 妖精に攻撃魔法何てもってのほ」
「エンチャント炎」
バンッ
「はっ? バリア!!!!!!!!!!!!!」
ボワボワボワボワ
問答無用。攻撃魔法を仕掛けた。
「おいおいおいおい、とんでもないな」
河童型妖精のやったことを思えば当然とも言える。だけど思った以上に容赦がない。くらえば一瞬で消し飛んでいただろう。
だけど河童型妖精も甘くはない。当然のようにバリアを展開し攻撃を凌いでいる。
「くっ、危なっ。恐ろしいでほんま」
「これで終わりだとでも? エンチャント・炎・円陣」
タクトを上空に古い円を描く。さっきの炎が無数の球体になり河童型妖精を包囲する。
上下左右、ふわふわと停滞する炎の玉。逃げ場をなくす気だ。
「お、恐ろしい魔法で。そんなんありか? これだから時藤は嫌いなんや」
「言いたいことはそれだけ? あなたには紬達の件もあるからね。情報を吐かないならこの場で始末する。そのバリア、無限には展開出来ないのでしょう?」
ボワボワボワボワ
バンッ、バンッ、バンッ
ボワボワボワボワ
河童型妖精に一斉に炎の球体が襲い掛かる。
「す、凄まじい攻撃だ」
恵茉のように溢れるような魔力とは違う。計算された緻密な魔法。波状攻撃。
時藤日葵の繊細な魔法の上位互換。そういう表現が正しいのかもしれない。
それを顔色1つ変えず機械のように行う。
これが時藤家当主、時藤司。
未来予知が能力なはずなのにこんな攻撃が可能だなんて。魔法の奥深さを見ているようだ。
バキッ
タクトが割れる音。
強すぎる魔法だと長持ちしないのだろうか。時藤母のタクトがまた割れる。
「創、光のタクトを」
「は、はい」
「エンチャント・光・収束」
「こ、今度は何や?」
タクトに太陽光みたいなのが集まっている。何種類攻撃が出来るんだ?
「発射」
ピュン
甲高い一瞬の音。光
「うがっ」
それがバリアごと河童型妖精を貫いた。こ、これはレーザーっていうやつか?
ドサッ
河童型妖精が地面に落ちて来る。
「くっ」
肩からは黒い液体、血液が流れている。即死は免れた。だけどここまでだ。
「ようやく地面に降りてきたわね。落ちた、というのが正しい表現だけれど。あなたには聞きたいことがあってね。生きていて良かったわ」
「よく言うわ。うちが死なん未来が視えてたんやろ? 女狐め」
「エンチャント・光・綱」
光の紐が河童型妖精に巻き付き
「うがっ」
締め付ける。
悶え苦しんでいる、が消滅はしていない。手加減しているからだ。
「余計なことは言わず質問にだけ答えて。河童社の本社どこ? 仲間はどのくらいいるの?」
「言うわけないやろ。言った所で信じるんか?」
ぴしゅん
「うぎゃぎゃぎゃぎゃ」
まるで尋問、いや拷問のような魔法。地面で足掻き苦しむ河童型妖精。
河童型妖精は気に入らないが
見ていて気持ちの良いものじゃない。
「つ、司様。妖精への殺傷は魔法少女法で禁じられています。これ以上は……」
「妖精からの殺傷も禁じられているわ。先に方を乱したのはこいつ」
「ひ、ひどいなー。うちは人類の敵を呼び出しただけ。殺したの人類の敵やないのに」
ぴしゅん
「うぎゃぎゃぎゃぎゃ」
「余計なことを言わないで。それとテレポートも許さないわ。あなたに魔力反応を感じたら……殺す」
「お、恐ろしいことで」
「医療班、澪を連れて時藤病院へ。絶対に死なせないこと」
「はっ」
「ついでに日葵も連れて行きなさい。ここにいられても邪魔だもの」
「ま、待って。私はまだ戦える。紬と繭の仇を」
「魔力もほとんど残っていないのになにを言っているの。何度も教えたわよね? 時藤の本質は生き残ることにある。仇? そんな私情を挟んでいるからあなたは弱いのよ」
辛辣な言葉。さっきまで全力で修行してたのに。命懸けの戦いをしていたのに。
「医療班、抱えてでも連れて行きなさい」
「はっ」
「ちょっと離してよ」
時藤日葵と時藤創は医療班とやらに抱えられる。訓練された人間なのだろうか。あっという間にいなくなった。
河童型妖精のことはともかく時藤澪のことは心配だ。止血してるとは言え血を流し過ぎている。早く病院に連れて行かないと命に係わる。
「創、次のタクトを出して」
「あ、あ、あの、あの……司様、あの」
「何をしているの、急いで」
「で、ですが、あれ」
その存在にいち早く気付いたのは時藤創だった。河童型妖精、傷を負っている時藤澪、暴れる時藤日葵。
いろんな状況がうごめくなか、時藤創だけが気付いた。臆病だからこそ、弱いと自負しているからこそ誰よりも緊張し警戒していたのだ。
時藤創が指さした先、そこには
「早くタクトをよこしなさい!!」
「は、はい」




