46話 新卒営業と決着
「あーあ、仮想人類の敵も大変だな。あんだけあった森の木が……ほとんど倒れちゃった。ひまりーん。そろそろ決着を付けようか。負けを認めれば許してあげるよー。ひまりーん」
150メートル先に黒い魔力が見える。時藤澪だ。こっちは折れた木の陰に隠れてる。まだ見つかってない。
「時藤日葵、いけるか?」
「大丈夫よ。立つくらいは出来る。にしてもとんでもない作戦ね。まるでギャンブル。あなた、本当に妖精?」
「妖精以外に見えるのか? ほら、相手がお前を見つけた」
「ようやく姿を見せた。諦めた? 降参する?」
時藤澪はこちらを視認。足を踏み込み一気に来る構えだ。
「いいか、もう1度言う。全てはタイミングだ。俺が合図したら魔法陣を展開させるんだ。出来るか?」
「バカにしないで、余裕よ」
時藤母が言っていたな。負けん気だけは一人前だと。
その負けん気が今は心強い。
「いくよ、日葵!! まいったって言えば攻撃を止めてあげる」
「冗談! 勝負よ澪」
「はあああああああああああああ。リリースギア!!!」
ドン!
踏み込みと同時に一気加速。その反動で土煙が一気にあがる。
「さっきの2倍速い。隠してた?」
「落ち着け、見切れる速さだ。お前なら出来る」
「わ、分かってる」
「リリースインパクト!!!」
右手拳の魔力が増大している。こちらとの距離は80メートル。いや、30メートルになった。
「今だ!!!!!!!!!」
「クロックダウン!!!!!!!!!!!!!!」
「意味ないよ。また衝撃波で飛ばしてあげる!」
ドゴン!!!!!!!!!!!!!!!!
周囲の土煙が舞い上がる。
「うっ、あいたたた」
時藤澪は何が起こったのか理解できていない。ただうつ伏せに倒れている。
時藤日葵はこの隙を見逃さない。散らばっている木の枝を1つ拾い首筋にあてた。
「私の勝ちね、澪」
時藤日葵の勝利だ。
首筋に木の枝をあてる時藤日葵。
「冗談。私はまだ負けてない。そんな枝で私の防御を突破出来るの? 出来ないよね?」」
「出来るわ。だってあなた……もう魔法少女じゃないもの。だってほら、木の枝が肌にささってる」
「なっ」
そう、勝負は決した。時藤澪の魔法少女形態が解けたのだ。あれほど強力に見えた魔力が完全に消えた。
魔力切れである。
「嘘っ、何で?」
信じられないといった様子だ。おそらく彼女にとってこんなことは初めてなのだろう。
魔法少女にとって魔力切れは死を意味する。これが人類の敵との戦闘なら命はないのだから。
「戦いの中で魔力量を計算するなんて簡単には出来ないってことよ」
「そ、それはひまりんだって同じじゃん。どうして私の方が先に切れるの? ひまりんの方が限界に近かったはず」
「時藤澪、お前が最後に受けた攻撃。どんなだったか分かるか? どうしてそこで倒れてるのか理解出来てるのか?」
「そ、それは……」
「直線的過ぎるんだよ。今までの攻撃のほとんどが真っすぐ。フェイントもないんだからな。だからさ、タイミングを計って転ばせたんだ」
「転ばせた? そ、そんなのどうやって?」
「右足だけに停止魔法を仕掛けたんだ。止められる時間は1秒もない。だけど直線的に進んでる相手からはその停止は命取りになる。足を引っかける要領さ」
攻撃は急には止められない。体制を崩した時藤澪は前のめりに倒れるしかない。魔力の籠った右手は地面にそのまま叩きつけられる。その反動と衝撃で自爆。そんなところだ。
「そ、そんな無茶なこと。止められなかったら私の攻撃をもろに受けてたんじゃないの?」
「ギャンブルだったけどね。でも逆にそれが良かったのかも。覚悟が出来たから」
「はぁーーーーー、すごいな。私の負けだ。まさかあの土壇場であんな作戦立てるなんて」
「立てたのは私じゃない。この妖精よ。転ばせるタイミングの指示もね」
「あははっ、あはははははははっ。妖精って護られる存在だって思ってたけど……まさかこんなことになるなんて。驚いたよ。でもすごいね、私の動きを見切れるなんて。日葵の魔法精度も計算してたよね?」
「遠くで見てることでしか分からないことってあるんだよ。君らの戦いは何度も見たからね」
妖精に出来ることは少ない。戦うことも出来ない弱い生き物だ。だけど学ぶことは出来る。情報を与えることは出来る。
戦っていないからこそ冷静に分析することが出来るんだ。
俺は何度も見てきた。時藤日葵の停止魔法を。使える距離、発動時間、精度。何度となく見てきた。
どのタイミングでどの程度の魔法を使えばいいのか。追い詰められてる本人よりも理解していることはある。
時藤澪についてもそうだ。彼女の魔法は強力が故に単調になりやすい。知能のない人類の敵との実戦経験。それが多すぎたっていうのが弱点にもなっている。
一撃必殺があるからこそ次の一手を考えない。持久戦の想定が甘い。
今回それに助けられたって言うのもある。
まぁ何にしても
「疲れたな」
「ほんとね」
俺達は地面に座り込んだ。
「ははっ、いいコンビじゃん2人とも」
時藤澪は笑っていた。




