38話 新卒営業と業務提携
新宿。旧暦時代は日本の首都と呼ばれていたが現在その面影はほとんどない。人類の敵によって建物類はほとんど壊されてしまったからだ。50階以上の建物が立ち並ぶ街。敵に襲われれば大事故だ。その大事故が多発してから高層ビルというのはほとんど消えた。
現在の新宿は広大な敷地と緑溢れる綺麗な街になっている。
「へー、ここか時藤本家か」
皇居をモチーフにしているのかな。数多くの宮殿風の建物。それを外苑が取り囲んでいる。
金持ちのやることは理解出来ないというか何というか。
「いいか、ちんちん。お前はもう口を開くな。ずっと土下座してろ。地面を向いてるんだ。質問にも答えなくていい。ただ土下座していろ。いいな? 分かったな?」
先日行った時藤家の数百倍ビビっている。こんなペニス課長初めて見た。この人はあれだな、長い物には巻かれよ妖精だ。
何にしてもペニス課長が全部やってくれるのはありがたい。俺はカカシになっていればいいのだから。
にしても何の用で呼び出して来たんだ? ほんと親子揃って迷惑である。
………
……
…
「業務提携をしたいの」
大きな門を通り長い道のりの先。ひと際大きな宮殿に通される。その主である時藤本家の当主。彼女から出た一言は意外なものであった。
「ぎょ、業務提携、ですか?」
土下座体制に入ろうとしていたペニス課長が驚きの声をあげる。俺だってそうだ。もう地面に頭を付けていたのに。まさか業務提携とは。
(ほら、俺の言った通り案件だったじゃないですか)
(バカっ、話し掛けんな)
時藤司。通称時藤母。今日は紺色のスーツ姿でビシッと決まっている。まさにキャリアウーマンという感じ。前回持っていた魔法のタクトはさすがに今はない。
偉い人だし護衛みたいなのがずらっといるかと思えばそうでもない。1人だ。ここまでに使用人みたいな人は何人かいたが魔法少女らしき人物とは会わなかった。
不用心では? とも思ったがこの人の能力を思い出す。
未来予知。
どこまで先のことが分かるのかは不明だがその能力があれば危機には対処しやすいのだろう。
しかしだが
改めて見るとすごい魔力だ。
俺は魔力探知は苦手だ。だけど強い魔力ともなれば見ることが出来る。
恵茉の溢れるような膨大な魔力と違う。研ぎ澄まされたような、刺すような魔力を感じる。
研鑽を重ねた魔力。それが正しい表現なのかもしれない。
「うちは代々レッドフォックス社と契約しているわ。何かとサポートも手厚いしね。それとは別に優秀な魔法少女がいれば情報も集めている。魔法の知識は多いに越したことはないから」
「ははー、おっしゃる通りでございます」
「玉袋に聞いたのだけれど……何でも時間操作と攻撃魔法を習得した魔法少女がいるとか。どういうことかしら? グリーンラクーンドッグではそんな契約をしているの? それともその子が優秀なのかしら?」
「そ、それは、そのあの……」
しどろもどろになるペニス課長。そういえば恵茉の能力はちゃんと説明してなかったかも。
「悪いけど恵茉の能力については言えませんね。企業秘密というやつです、はい」
恵茉の能力は強いが弱点も多い。知能のある人間には特に知られない方がいい。これは嫌がらせとかじゃない。恵茉を守るためだ。
これは恵茉との約束でもあるし亡き梅子さんの償いでもある。
恵茉のことは何が何でも守り切る。それが担当妖精である俺の役目だ。
「あなた……見た所新人ね。あなたにそこまでの力があるとは思えないけど。となるとやはりその子の才能、もしくは何かしらのトリックがあるのかしら。まぁいいわ、業務提携の話を続けましょう。時藤はここ最近新規契約者の育成に力を入れていてね。それは外部だって例外じゃないの。魔法少女契約直後の子は上手く魔法を扱えない。扱いを覚える前に死んでしまう。そのような事例を少しでも減らしたくてね。レッドフォックス社ならともかく他社であればそれなりの話をするのが筋でしょ?」
「はは~~~~~~~~~~、あ、ありがたいご提案でございます」
ん? どういうことだ? 恵茉を強くしてくれるって話か? それならそれでありがたい話なのだが
「先に恵茉に話せばいいのでは?」
「バカっ、お前はもう黙ってろ」
そうは言われても。
恵茉にとってはいい話だとは思う。なんだけれど……どうもこの人は信用しきれない。何か引っかかると言うか。態度が偉そうだからか?
「魔法少女の殉職率を下げたいって話ですよね? それなら直接恵茉に話せばいいのでは? あっ、もしかしてうちの会社の魔法少女全員を見てくれるとか? それならありがたいな」
魔法少女全体が強くなれば生存率も上がる。業界としてはありがたいことだ。
「はぁ……」
小さなため息。
嫌なため息だ。呆れとバカにされてる感じがすごいする。
「あまり低レベルな質問には答えたくないのだけれど……仕方ないわ。特別に答えてあげる」
くっ、何だこの言い方。時藤日葵にそっくりだな。
「まず1つ。現代において魔法少女は子供がなるケースが多い。うちの娘もそうだけど子供は情緒が激しくて感情でものを考える。いきなり接触しても断られる可能性がある。ならば事前に担当妖精に話をしておく方が効率が良いの」
まぁ分からなくもないか。
「2つめ。時藤家が支援するのは“優秀な魔法少女のみ”。言ったはずよ? これは業務提携。こちら側からの一方的な支援ではメリットがないからね。当然見返りは必要」
「恵茉の情報を知りたいというわけですか。さらに恵茉が強くなれば時藤家の力も増大する」
「お前! 言葉遣いに気を付けろ。時藤司様だっていうの分かってるのか?」
今はっきり分かった。この人は恵茉の力を利用したいだけなんだ。魔法少女界隈のこととか恵茉自身のことは気にしていない。時藤家が有利になればそれでいい。そういう考えなんだ。
俺個人としては断りたい。時藤母のことは好きになれないからだ。だけどこれは恵茉が決めることでもある。結果はどうあれ恵茉にとって悪い話ではない。
ペニス課長は、というかうちの会社としては万々歳だろう。時藤家と繋がれるんだ。願ってもないことだろうな。
「はーあ」
何だかなー、いろんな策略が錯綜してて面倒くさくなってきた。
「ペニス課長、俺少し散歩してきてもいいですか? ここにいてもあまり意味なさそうだし」
「お前何勝手なこと! いや、これ以上余計なこと言われるくらいならそれもありか。あ、あの、時藤司様……」
「構わないわ。業務提携内容を詰めるならあなただけでも十分」
「それはありがたい」
俺は気分転換に散歩する。後は偉い人たちが話し合ってくれればいい。
「あーあ、もう少しシンプルにならないのかな」
人類の敵を倒せばいいだけなのに。時藤家とか会社の利益とか。どうして人間は打算で行動するのだろう。
さてと
業務提携とやらを恵茉が承諾するかは追々のこととしてどこに行こうか。
見渡す限りの宮殿。膨大な敷地。遊園地くらいの大きさはあるんじゃないのか? 食堂でもあればのんびりお茶でも出来るのだが……
「ん? 何だあれ?」
数ある宮殿の1つ。赤い屋根の宮殿から魔力のようなものが溢れてる。魔法少女でもいるのだろうか。
少し覗いて見ようかな。
………
……
…
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