37話 新卒営業と時藤本家からの呼び出し
翌日
夜は何も起きることなく平和なものだった。
「え? 日葵ちゃん学校休むの?」
「ええ、家の用事でね」
時藤日葵が学校を休むと言い出た。魔法少女だ、別に珍しいことではない。時藤家ならなおさらなのだろう。
「家出少女も今日で終わりか。良かったじゃないか」
「まだ家に戻ると決まったわけじゃない。本家に呼ばれただけよ」
素直に家に戻ればいいのに。
「本家ってどういう所なの?」
「心配しないで、恵茉。本家と言っても広いから。お母さん以外はみんなまともよ」
「そ、そうなんだ……」
「恵茉、俺も朝ご飯食べたら会社に行くから。何かあったらテレパシーで頼む」
「分かった」
「朝ご飯はちゃんと食べていくのね」
「自分だって食べていくくせに」
恵茉母のご飯は絶品なんだ。夜勤明けなんだし当たり前の権利だ。
「うふふ、ご飯用意出来たわよ~。舞ちゃんも手伝ってくれたのよね」
「うん。恵茉ママのお手伝い♡」
べったりと寄り添う美甘舞。馴染むというか、懐きすぎじゃないか?
そんなこんなでおいしく朝食を頂いた。
………
……
…
「ブルーサファイアは休みだからピンクパールと2人きり。嬉しいな」
「いちお言っておくけど……玉袋には見張ってもらうから。何かあればすぐに学校に戻るから」
「大丈夫、人類の敵が出ても私がいるし」
「違う。人類の敵じゃなくて“あなたが”心配なの」
ポンッ、と狐型妖精が姿を現す。
「玉袋、よろしくね」
「もちろんです」
時藤日葵にあごで使われてるんだな、こいつ。これが社畜の鏡というやつか?
俺には真似出来ん。
「ブルーサファイアは心配性なんだね。私がいるから大丈夫なのに。ピンクパール
、手繋いで学校行こうよ」
「え? あっ、うん」
有無を言わさず恵茉の手を握る。だけどすかさず
「だから待ちなさい。恵茉の手を握るなんて許してない」
時藤日葵が手を引き離す。
「だから何でブルーサファイアの許可が必要なの?」
「もうー、2人とも止めてよー」
やれやれ。先が思いやられそうだ。時刻は8時。後は狐型妖精に任せ俺は出社する。
………
……
…
「よう、ちんちん」
このイケメンボイスは
「ぽこちん先輩」
「聞いたぞ、いろいろ面倒なことになってるんだってな。客先常駐ってやつか?」
客先常駐
自分が所属する会社ではなく、クライアントの会社や現場に出向いて作業する働き方。もともIT業界に多い働き方でブラック案件が多いとも言われてる。クライアント先での粗雑な扱い、無茶ぶり、その他もろもろ言い出したらキリがないからだ。
魔法少女契約業界もひと昔前はこの働き方がほとんどだった。魔法少女と言えば妖精。いつも隣にいるサポーター件マスコット的存在。聞こえはいいだろう。だけどその実休日やプライベートは一切なく常に女の子と行動を共にしなければならない。まさに24時間働けますか状態。
働き方改革もあり現在は出来るだけそのような勤務形態は避ける風潮になってきた。魔法少女とのテレパシー制度もその1つ。
営業職が働きやすい会社作り。営業職が辞めない法設備。時代とともに変化を続けてきた。
だけどそれはあくまで一部のホワイト企業ではだ。いくら理想を掲げようとも現実はそうは上手く行かない。大手と言われるレッドフォックス社がいい例だ。玉袋とか言う狐型妖精は24時間勤務で働かされている。
大手でそれなんだ。うちみたいな弱小ブラック企業なんてひどいもんだ。夜勤手当や深夜就業手当なんて出ないのだから。
な・の・で
今の状況をどうにかしなければならない。
まず1つ
時藤日葵の家出問題だ。というかこれが全ての元凶と言える。あの傲慢生意気娘が家に帰りさえすればいいのだ。時藤家にビビりまくってるペニス課長もそこさえクリアできれば何も言うまい。
だけれども
どうやったらあの傲慢生意気娘を自宅に帰すことが出来る? 俺が言った所で聞く耳持たないのは分かりきっている。
恵茉や恵茉母が帰るように言ってくれれば……
いや、無理だ。あの親子は困ってる子がいればどんなに性格が捻くれた子供でも受け入れてしまうだろう。時藤日葵がいい例だ。
だとすれば時藤家に何とかしてもらって。そういえば今日は本家に行くとか言ってたし。
「お前さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」
いけない、心の声が漏れていたようだ。
「いやー、いろいろ悩みが多いんですよ。恵茉母のご飯はありがたいしアパート契約終了も考えはしたんですけど……24時間常駐だとゲーセンにも行けないし」
ああ、何で俺がこんなこと考えなければいけないのか。全てはあの家出少女とパワハラ上司のせいだ。全部あいつらが悪い。
「何でもいいけどさ、ペニス課長がお前のこと探してたぞ」
「うげっ」
朝一から呼び出しなんて最悪でしかない。何だ? 何かしたか? この前昼休みを5時間取ったこと? それともJK学校行くと嘘ついてゲーセン行ってたことがバレた?
何にしても最悪だ。ああ、なんで俺ばっかりこんな目に。
「ぽこちん先輩。上司に怒られない方法って何かあります?」
「まじめに働いて営業結果残せ。これだけだ」
はい、ごもっともで。
さっさと謝って早めに切り上げてしまおう。
………
……
…
ペニス課長。俺の直属の上司だ。髭が特徴的な狸型妖精。昔は別の企業で働いてて営業ばりばりのやり手だったらしい。現在は中間管理職として現場を管轄している存在。
だが
中途半端に活躍してしまったからか自分のやり方が絶対だと思ってる。“営業は数だ、体力だ”と言わんばかりの体育会系そのもの。頭脳派の俺とは根本的にやり方が合わない。
それに加えすぐ怒る、怒鳴る、暴言を吐く。こんなのが上司として成立しているのがブラック企業たる所以である。
だけど
心では不満不平は言えるのに本人を目の前にすると何も言えない。あの目で睨まれると謝るしか選択肢がないのだ。
「はぁ……」
どうしたものか。憂鬱で仕方がない。
「あの~、ペニス課長俺に何か用ですか?」
「お、おおおおおおお、お前、お前……」
何だろう。珍しいな、ペニス課長がプルプルと震えている。うんこでも漏らしたか?
「時藤様に失礼は働くなって、あれほど言ったよな? 言った「よな?」
「大丈夫ですよ。礼節を重んじる妖精ですから、自分」
「な、ななななな、なら何で時藤様からお呼びが掛かるんだ? しかも本家からだ。あ、ありえないだろ」
時藤本家から呼び出し? 全く身に覚えがない。呼び出しくらったのは時藤日葵の方だろ。
「案件くれるとかじゃないですか? 自分で言うのもなんですどここ最近活躍しましたからね」
「アホか! ちょっと梅毒1匹倒したくらいでいい気になりやがって。時藤本家だぞ? 本家。本家様が俺とお前に来いと言ってるんだ。お、お前、な、何をしやがった?」
俺とペニス課長を? どういうことだろう。意味分からん。
「てかなんでうちらが行くんですか? 用があるなら向こうが来ればいいのに」
「ボケチンが! お前のそんな態度が先方を怒らせるって分からないのか?」
バンッ、と机を大きく叩く。
「いいか、今から時藤本家に行く。今からだ! 分かったな!!」
「え~、面倒くさい」
ペニス課長とまだ出かけるのも嫌だ。だけどそれでも行かなければならない。社会霊の辛いところである。
「そういえば時藤本家ってどこにあるんですか? 出来れば近くがいいんだけどな」
「ボケがっ、お前はこの業界にいてそんなことも知らねぇのか。新宿に決まってんだろ。常識だぞ常識」
常識と言われても。時藤母の実家みたいなものだろ? 正直興味がない。
そんなこんなで俺とペニス課長は時藤本家に向かった。
………
……
…
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