36話 新卒営業と我がまま娘達のケンカ
5分後
しーん、と言うべきか。むしろチーン、だろうか。
恵茉が1人でお風呂に行ってしまいお葬式みたいになっている。
怒られた2人は反省中。しかし驚いたな、恵茉が怒るなんて。初めて見た。
「人生ゲーム片づけるわよ。もうご飯だし」
「……」
2人は黙々と片づけている。シュールすぎて何も言えない。
この2人、案の定と言うか何と言うか
微妙だ。
時藤日葵からしてみれば自分を殺そうとしてきた人間。当然と言えば当然か。今一つ信用してないように見える。恵茉が優しすぎるのだ。普通はこうはならない。
というか殺そうとした相手の学校に転校すること事態がおかしいのだが。
美甘舞、この子は本当に何者なんだ?
初めて会った時の敵意は感じられない。髪の毛にこそ執着してるが無理やり切ろうという感じもないし。
あの一件がなければ少し変わった女の子で済むだろう。
ただそれ以上に不可解なこともある。時藤日葵だ。この傲慢でプライドの高い子がこうして美甘舞の存在を許してるのもおかしい。問答言わず攻撃しそうな感じなのに。
どういうことなんだ?
「はぁ、何か考えるのも疲れたな。早くご飯食べたい」
「ポンコツ妖精は悩みがなくていいわね」
「あ?」
愛からずの物言いである。
30分後
「うふふー、今日はカレーよ。たくさんおかわりしてね」
「カレー好き♡」
今日の夕食はカレーライスだ。カレーの具材は古来より様々な論議が交わされてきた。野菜? 豚肉? 牛肉? どれも正解だ。三途川家のカレーはというと
なんと、シーフードが入っている。エビにイカが盛りだくさん。なんて豪華なカレーライス。
良かった。恵茉と契約して本当に良かった。
「何でカレー食べて泣いてるのよ」
時藤日葵の小言などどうでもいい。今はただこのカレーライスを味わおうではないか。
「みんなで食べるご飯っておいしいわよねー」
「カレー好き♡ 恵茉ママも好き♡」
「美甘さん、人のお母さんに抱きつかないの。あとスプーンの持ち方おかしいわ」
「いいのよー、いくらでも抱き着いて」
温かくておいしい食事だな。梅子さんのご飯を思い出す。梅子さんのご飯もすごくおいしかった。
料理はレシピ通りに作れば誰もがおいしく作れる。だけどそれだけじゃない。目に見えない、レシピにはないものがそこにはある。人によっては愛情と言うかもしれないし真心と言うかもしれない。
おいしく食べて欲しいという気持ちの表れ。それが料理なのだ。
「だから何でカレー食べて泣いてるのよ」
俺は3杯おかわりした。
再び恵茉の部屋にて
「ここからが戦いね」
対面する魔法少女が2人。時藤日葵と美甘舞。その2人を心配そうに見る恵茉。
そう、ここからが本当の戦い。女の戦い。寝る部屋問題である。
恵茉の部屋はヌイグルミがたくさんあるためスペースがない。寝れるのはあと1人なのだ。その残り1枠を巡って少女達の戦いの火ぶたが切って落とされる。
「私が恵茉と寝るわ。恵茉には私が必要なの」
「嫌っ、私がピンクパールと寝る。ブルーサファイアは隣の空き部屋に行って。昨日も泊まってたんでしょ? 私に譲って」
「私の方がここでは先輩よ。先輩の方が偉いの。だから私が恵茉と寝るわ」
「嫌っ」
我がまま娘達の言い争い。恵茉が「私が泊まりの部屋に行こうか?」と言うが、それは当然のように却下。どちらも譲る気はさらさらない。そうなれば当然
「ジャン・ケン・ポイ!!!」
実力行使である。結果
………
……
…
「なんで私がこんなポンコツ妖精と」
こうなってしまう。
「俺だって嫌だよ、なんで時藤日葵と同じ部屋で。普通恵茉と寝るのは担当妖精の俺だろ?」
「キモっ」
くっ、このガキ。キモいと言いやがった。その何気ない一言がどれだけ純粋な者を傷つけるか分かっていないのか?
「はぁ、恵茉が心配だわ。隣の部屋とは言え美甘さんと2人きりだなんて」
「別に大丈夫だろ? 恵茉だって強いし。そもそも攻撃してくるような感じには見えないけど」
「これだから新卒ポンコツは。何も分かってないのね」
この小バカにしたような態度。本当に腹立たしい。
「分かってないのは時藤日葵も同じだろ? 偉そうにさ」
「あなたと一緒にしないで。もう情報収集はやってるの」
そう言ってスマホ画面を見せてくる。
「玉袋にね、美甘舞のこと調べてもらってたの。美甘なんて珍しい苗字だし偽名かなと思ったんだけど……本名みたいね」
あの狐型妖精。いないと思ったらそんなことしてたのか。というか妖精にそんなことまでさせてるのか。
妖精使い荒過ぎじゃないか? それともあいつがただの社畜だからか?
「“美甘の家”。あの子ね、児童養護施設にいた子なの」
児童養護施設
身寄りのない子供を預かる施設だ。親と一緒に住めなくなった、そもそも親がいない。いろんな理由の子供が集まる場所。
「別に珍しい話ではないわ。人類の敵によって親が殺された。身元引受人もいない。自然とそうなる子は多い」
お菓子ばっかり食べてる。行儀の悪さ。独特の家庭環境とは思ってはいたけど、そういうことか。
「“美甘の家”と言うのは児童養護施設の名前。そこにいる子の大半は美甘姓らしいわ」
「ん? ちょっと待て。もしかしてこの前襲って来たもう1人の魔法少女って」
オレンジ色の髪、身の丈ほどある斧を持った魔法少女を思い出す。
「美甘の家」
おいおいおい、どういうことだ? 美甘の家から排出されてる魔法少女。どう考えてもいい予感はしない。
「玉袋にはこの美甘の家を調査してもらってるの。間違いなく河童型妖精が絡んでる」
「なるほどな……でもさ、そんなのあの子、美甘舞に直接聞けばいいんじゃないか」
素直に答えてくれそうな気もするが。
「そんなの意味ないわよ。だって……もし敵ならそこから得られる情報何て意味ないでしょ?」
表情を変えず、淡々と言い放つ。
確かに時藤日葵の言う通りだ。美甘舞が敵であれば信用できないし質問する意味すらない。
だけど
「それは違うと思うけどな」
「は?」
「疑ってかかるなよ。人生ゲームしてカレー食べた仲だろ? あの子は変わってるけど悪い子じゃない。少し歪んでるだけだ。俺にだって分かるんだ。時藤日葵だって本当は分かってるんだろ? もっと素直に話せばいいじゃんか。恵茉はそうしてる」
「そ、そんなの……」
はぁ……
この子はこの子で強情と言うか素直じゃないというか。命を狙われたんだ、分からなくもないが。
難しいな。
これが魔法少女でなけれれば、出会いがもっと普通ならこんなにこじれることはなかっただろう。
すごく微妙で危うい関係に感じる。あの子、美甘舞は良くも悪くも純粋だ。純粋が故にどちらにも転びそうな気がする。
正義にも悪にも
敵にも味方にも
ちょっとしたことで
変りそうな気がする。
………
……
…
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