34話 新卒営業が見た恵茉の初陣
人類の敵はいつでもどこにでも現れる。寝ている時も、勉強している時も、給食の時も、こうした時も。
駄菓子屋でお菓子を選ぶ時間。そんな当たり前の平和さえ壊してしまう。それが人類の敵だ。
そして人類の敵が現れれば当然
「魔法少女、誰か魔法少女を呼んで。このままだとうちの店が潰れちゃう。家には足腰の悪い母がいるの。誰か、魔法少女を呼んで~~」
人間とは身勝手な生き物だ。助けを求める前に自分で戦えばいいのに。今のご時世魔法少女契約なんて数秒で終わる。
自分で魔法を習得して人類の敵を倒せばいい。
だけど
「逃げろ、早く逃げろ。毒に侵されたら大変だ」
「お母さん、お母さんどこ~」
逃げることは戦うことよりも簡単だ。走っていればいいのだから。戦うとなれば当然傷つくし怪我もする。殉職だってある。
だけど逃げていればその可能性は圧倒的に下がる。
生きたい。死にたくない。その思いが勝り魔法少女契約という選択を削除する。
恐怖心。知性を持つ生物にはそれが必ず存在する。死にたくない、生き残りたい。生物として当然の本能。だけどそれは時として大きな足かせとなる。戦うことへの拒否だ。
恐怖心がない状態。平常時であればどうだろうか。落ち着いた状態であれば魔法少女契約するだろうか。答えは否である。
大多数の大人が魔法少女契約を拒む。その理由は
“戦い続けなくてはいけないことにある”
魔法少女契約をすれば当然世間に知れ渡る。強者であれば勇者、英雄として崇められる存在になるだろう。誰もが崇拝し、称える存在に。
だけど決して憧れや羨む存在にはなりえない。
なぜかって? だってそうだろ?
隣に魔法少女が住んでいたらどうする? 人類の敵が現れたらどうする? 当然助けを求める。だって戦えるのだから。自分の身の安全が保障されるのだから。
人類の敵と唯一戦える存在。そんな存在が逆に逃げたり、戦いを拒否すればどうなるだろうか。
非難の嵐である。
なぜ戦わないのか、なぜ見捨てるのか。そんな罵詈雑言を浴びせられる。
そう、人間は身勝手生き物なのだ。自分の安全は確保して欲しい、だけど自分は戦いたくない。
知能が発達し大人になればなるだけ打算や計算で生きるようになる。
魔法少女に小学生、中学生が多いのはそういった理由も大きい。
“若さは力なり”
“若い時ほどなぜか魔力が高い傾向になる。だけどさ、それだけじゃないんだよ。魔法少女界隈ってさ、すごく知れば知るだけ嫌になるぜ”
ぽこちん先輩に言われたことを思い出す。
人間は身勝手な生き物だ。だけど意味なく死んでいい生物だとも思わない。事実妖精を守ってくれ、戦っているのも人間。そんな偉そうなこと言える立場にもない。
だから俺は
「恵茉、人類の敵だ。気を付けてくれ。無茶はしないでくれよ」
声を掛け、無事に帰ってくることを祈り続ける。
“魔法少女契約完了”
“魔法少女契約完了”
“三途川恵茉変身モードに移行”
“三途川恵茉変身モードに移行”
シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
駄菓子屋や八百屋が並ぶ商店街。一面に川が流れ対岸には彼岸花が咲き乱れる。
「また川……ピンクパールは独特の変身をするんだね」
既に変身を終えた2人は人類の敵を視認し警戒している。
3人の魔法少女が揃った。相手は梅毒1体。
恵茉が人類の敵と戦うのはこれが初めて。味方がいるのはありがたい。
「美甘さん、私はあなたのこと信用していない。背後から攻撃したら許さないから」
「髪くれるなら攻撃はしないよ」
だ、大丈夫だろうかこの2人。学校でも駄菓子屋でもあまりしゃべってなかったし。
「恵茉はサポートをお願い。攻撃を受けそうになったら瞬間移動で対応を……って、恵茉?」
右手を空に向かってあげる恵茉。
「えっと、こうかな? エンチャント・雷」
振り下ろす。
ドゴン!! バリバリバリ!
突如として現れた稲妻が梅毒を襲う。
ジュ―――――
梅毒は消し飛んでしまった。
というか
「すごいじゃないか、恵茉。まさか雷の魔法を扱うなんて」
「う、うん。時藤さんのお母さんの真似っこだけどね」
梅毒を一瞬で消し去る威力。十分すぎる力だ。もしかしたら恵茉は……最強の魔法少女になれるかもしれない。
「エンチャント・雷って」
「ピンクパール……」
さすがの2人も驚いた様子だ。当然だ、俺だって驚いているのだから。
初実践にして余裕の大勝利。幸先が良い。2人も喜んでくれるに違いない。
だけど……
なぜだろう、2人の表情は全然嬉しそうじゃない。
「どうしたんだよ、梅毒を倒したんだぞ? もっと喜べばいいのに」
「邪魔。ちょっとどいて」
何だよ、その態度。恵茉が倒したのが気に入らないのか?
「恵茉、あなたのその魔法」
「あっ、ご、ごめんね。いきなり攻撃しちゃって。事前に話しておかないとダメだよね」
「そうじゃない!」
時藤日葵の声が大きくなる。突然のことに委縮する恵茉。
「何だよ、怒ることないだろ? 恵茉の魔法の何が問題なんだよ。勝ったからいいじゃないか」
「何が問題? 問題だらけよ。魔法はね、万能じゃないの。攻撃魔法だと決めたら攻撃魔法だし時間操作と決めたら時間魔法しか使えない。見ただけで魔法を使えるなんて限度を超えてるわ」
「ピンクパールの魔法って時間操作魔法だと思ってたけど……人の真似する魔法?」
「ち、違うよ。私の魔法は……」
(恵茉! それを言っちゃダメだ!!)
(ご、ごめんちんちんさん)
「魔力量が多いだけならまだしもこんなことが出来るなんて。玉袋、出てきなさい」
「はいさ」
狐型妖精が姿を現す。さっきまでいなかったのに。隠れてたのか?
「しばらくの間広範囲で警戒。恵茉の周囲も見ておいて」
「時藤本家に報告しなくていいんですか?」
「必要ないわ。恵茉は私が守るもの」
「すぐに知られると思いますけどね」
何なんだよ一体。梅毒に勝ったんだ。もっと盛大にパーティーでもすればいいのに。
「あ、あの日葵ちゃん。私の魔法、そんなに問題ある? 弱いの?」
「逆よ。強すぎるのよ。強すぎる魔法はね……利用されやすいの。悪い大人にね。だからあなたは私が守る。命を掛けてね」
言葉には重みがある。重さ、言いかえれば想いの力。
時藤日葵のその言葉には、嘘偽りのない想いを感じた。
「ごめんなさい、せっかく恵茉が倒してくれたのに変なこと言って」
「ううん、日葵ちゃんが私のこと心配してくれてるのは分かるから」
「帰りましょう。もう日も暮れる」
「え? もう帰っちゃうの? ピンクパール……」
「また明日も学校で会えるでしょ。じゃあね。行くわよ、恵茉」
「えっ、あっ、うん。ま、またね美甘さん」
何はともあれ無傷で帰れるんだ。良しとしよう。
………
……
…
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