30話 新卒営業が見た新しい才能?
恵茉母登場します。
三途川宅にて
「あらあら~恵茉のお友達ね? 聞いてるわよ? 日葵ちゃんって言うんでしょ? よろしくね?」
桃色の髪を三つ編みにした女性。恵茉の母が迎えてくれる。
「あの、お母さん。電話では言ったと思うけど……時藤さんしばらくうちに泊めてもいい?」
「もちろんよ~。娘が増えたみたいで嬉しいわ。うふふふふ」
何というか、恵茉のお母さんって感じの人だ。どことなく梅子さんの面影もある。口調がゆっくりで温かみが強い。恵茉の性格はこの人譲りなんだろうな。
「お世話になります」
時藤日葵は深々と頭を下げる。こういう所はお嬢様育ちというか礼儀正しいんだな。
「こんにちは、恵茉母。俺はちんちんって言います」
「うふふふ? 聞いてるわよ。恵茉の妖精ちゃんなんでしょ? 恵茉のことよろしくね?あっ、どら焼きあるんだけど食べる?」
「もちろんです。あっ、温かいお茶も下さい」
和菓子と言えば温かい日本茶。これに限る。
「図々しい妖精。呆れて物も言えないわ」
「家出少女が何言ってるんだか」
「何ですって?」
「もう~、ケンカは止めてよ」
何はともあれ、時藤日葵のお泊りは難なく許可された。妖精である俺の存在もあっさり認めてくれたので一安心である。
「それじゃあ私の部屋に案内するね♪」
「嬉しそうだね、恵茉」
「うん、だって昨日は私がお泊りしたでしょ? 今日は日葵ちゃんが来たんだもん。楽しいなって」
お泊りじゃなくて家出だが……恵茉が楽しそうならいいか。
「そういえばいつの間にか名前呼びになってる」
「昨日いろいろおしゃべりしたからね」
「ふーん、どんなこと話したんだい?」
「それは内緒♪」
鼻歌混じりに階段を上る。子供同士のことだしいいっちゃいいが
「♪」
気になると言えば気になる。
「ここが私の部屋だよ」
案内された部屋
「これはまた」
目についたのは圧倒的なヌイグルミの数。
本棚や勉強机、いたるところヌイグルミが置いてある。小学生らしい部屋と言えば小学生らしいが
物凄い数のヌイグルミだ。100? いや200か?
「この子はワンコのポリスで、こっちがニャンコの方がマイゴ。あっちのウサがアリス。この他にもね……」
ヌイグルミ1つ1つを丁寧にしてくれてはいるが全く頭に入らない。というが全部に名前があるのか?
時藤日葵の部屋とはある意味対照的。
「き、聞いてはいたけど……物が多い部屋ね」
呆気に取られている感じだ。
「あっ、待って? 今座るスペース作るから」
2メートルくらいある巨大なクマのヌイグルミ。それを抱きかかえベッドの上に乗せる。どうぞ、と促され座る時藤日葵。
「ごめんね、片付いてなくて。お母さんにはいつも言われるんだけどね。片づけるの苦手で」
あの母親の注意なんてペニス課長の一億分の一くらいだろうな。部屋がこうなるのもある意味納得だ。
「しばらくお世話になるわ、恵茉」
「仕方ないよ、家があんなことになっちゃったんだもん」
「壊したのは当人達だけどね」
「黙りなさい妖精」
あの母親と一緒に住みたくないというのは分からなくもないが……いつまでこんな生活が続くんだか。
「そういえば玉袋さんはいないの?」
「上司に報告があるって言ってたわ。そのうち来ると思う」
おいおい、今日は休日だろ? どんだけ仕事熱心なんだよ、あいつ。
まぁそれは俺も似たようなものか。全部時藤親子のせいだ。迷惑過ぎる。
「にしても時藤母は強かったなー。時藤日葵が手も足も出なかったし」
恵茉もあれくらい強くなればいいけど。
「ちょ、ちょっとちんちんさん。日葵ちゃんが気にしてること言わないでよ」
事実だし仕方ない。時藤日葵が睨んでいるが構わず話を進める。気になることもあるし。
「あの母親の魔法って5大元素の攻撃系なのか? 炎とか雷とか操ってる感じだったし」
「違うわ。手にタクト持ってたでしょ? あのタクトの力よ。時藤に1人いるのよ。道具に魔法を込めることが出来る魔法少女が」
すごいな、そんな魔法もあるのか。直接攻撃を持たない魔法少女もいるだろうし重宝しそうだな。
あれ? でも
「それなら何で時藤日葵はその道具持ってないんだよ。あればもっと楽に戦えるだろうに」
そんな便利な魔法道具があるなら恵茉にも貸して欲しいくらいだ。
「無理よ、1つしか作れないの。壊れたらまた新しいのを作れる、らしいわ。だから当主であるあの人しか持ってない」
なるほどね。魔法は万能ではないとは言え上手くはいかないものだ。
いや、逆か?
もしそんな魔法道具が量産出来たらどうなることか。人間同士の争いに発展することが容易に想像出来る。
「ちなみにあの人の魔法は未来予知。時藤は時間操作魔法を習得することが多いから」
「おいおい、時藤の当主だろ? バラしてもいいのかよ」
「問題ないわ。公にも知られてるしね。それにね、肝心なことは分かってないの。どこまで先の未来が視えて、どこまでの範囲が分かるのか。娘の私にすら教えてくれない。だから嫌いなのよ、あの人のこと」
魔法の秘匿というやつか。さすが財閥のトップともなると徹底っぷりがすごいな。
未来予知。ある意味最強の魔法かもな。攻撃にも防御にも有効な魔法だ。時藤日葵が時間停止を選んだ理由って母親に対抗してなのだろうか。
「ねぇ、難しい話は後にしてゲームやらない?」
「おっ、そうこなくっちゃ。やっぱり小学生の部屋にはゲームがないと」
「難しい話は後って……昨日もお菓子とヌイグルミの話だけだったじゃない」
「待ってて、今ゲーム出すから。えっと……どこだったかな」
大量のヌイグルミ達が置いてあるその一角。奥の方からゲーム機が出てきた。この部屋、ヌイグルミだらけで物を探すのが大変そうだ。
恵茉はしっかりしてるから片付けも出来そうに見えたけど。どうやらそうではないらしい。
何はともあれゲームが出来るのはありがたい。せっかくの休日なのだ。楽しもうではないか。
「まずはこれやってみる? 対戦ゲーム」
「いいねー。銀拳ファイターズか。こう見えても地元だとゲーセン王と呼ばれてるからね。その実よく見せてやるよ!」
………
……
…
「そ、そんなバカな。この俺が100連敗? こ、この俺が?」
「無能のポンコツかと思ってたけど……ゲームも弱いのね」
くっ、何も言い返すことが出来ない。どういうことだ? 相手は恵茉、小学生だ。いくら子供の得意分野とは言え俺はゲーセン王。100連敗するなんてありえない。まさか恵茉にこんな才能が。
「少し貸しなさいよ」
時藤日葵にコントローラーを取られる。
「ゲーム経験あるのか?」
「見て覚えたわ」
ふっ、甘ちゃんだな。対戦ゲームあるあるだ。人のを見てると自分も出来てしまうという錯覚現象。見て覚えらるならプロゲーマなど存在しない。
ギタンギタンにやられるがいいさ。
10分後
「わー、日葵ちゃん強いね。全然勝てないよ」
そんなバカな!!! ありえんだろ。
ゲーセン王である俺より強い恵茉。そんな恵茉より強い人間がいるなんて。これは何かの冗談か?
「時藤日葵、お前まさかプロゲーマーなんじゃ」
「何言ってんだか。言ったでしょ、見て覚えたって」
いやいや、ありえんだろ。
「ゲームなんて所詮は紙芝居。1つ1つの動作を絵にして連続再生してるだけ。それを見切れば問題ないはずよ」
人間技じゃない。たしかに1フレームという単語も存在するし原理的にはそうだろう。だけど無理だ。人の目に見える代物ではない。
魔法少女に変身しなければ身体能力は向上しない。見切れるはずないんだ。
となるとこれは単純に時藤日葵の才能ということになるのか?
「くそっ、ゲームは俺の得意分野のはずなのに。ここは俺が褒め称えられる所だろ? これだから小学生は、小学生は!」
悪夢だ、まるで悪夢を見ているようだ。そもそも恵茉はどうして強いんだ? それより強い時藤日葵は何なんだ?
俺が弱いのか? 実は弱かったのか? いや、うちのゲーセンは廃人達も集まる名門だ。その中でゲーセン王の称号を持つ俺がそう簡単に負けるはずないんだ。
「こ、こうなったら今からゲーセンに行くしかない。家庭用コントローラーだと慣れない部分もあるし何より俺はメダルゲームこそ本領発揮出来るんだ」
「ゲームセンター? 行ったことないわ。恵茉はある?」
「あるよ。クレーンゲーム好きなんだ」
こうして俺達はゲームセンターに行くことになった。
くくく、見てろよ小学生ども。あそこは俺のホームグラウンド。仕事終わりに毎日通ってるんだ。社会霊の恐ろしさをとくと見るが良い。
くくくくく。
………
……
…
だがしかし
おれのマイホームは燃えていた。
ありえるだろうか。1日に火災現場を2度見ることがありえるだろうか。
「おのれ、人類の敵め!」
「ただの火事らしいけどね」
時藤日葵の無情な一言が俺に突き刺さる。明日から俺はどうすればいいんだ。
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