3話 新卒営業の魔法少女家庭訪問
翌日
俺はペニス課長に呼び出された。まぁだいたいはお説教なのだが。
「俺の言った意味理解した? ねぇした? 昨日言ったよな? 契約はその場で貰えって。だからこんなことになったの? ねぇ、分かる?」
「すみません」
「すみませんじゃねぇんだよ、このボケ。魔法少女になってすぐはさぁ、殉職率が高いのよ。知ってるよな? 初めての実践で力の使い方も分からず殺される。魔法少女あるあるだろ? 過去の反省活かさないでどうすんの?」
「しかしその反省の資料もなければマニュアルもないですし」
「言い訳すんな。資料がなければ先輩に聞くんだよ。もしくは自分で作っとけ。マニュアルがないない言う前にお前はマニュアル作ってんの? ねぇよな? そういうのを甘えだって言ってんの」
「すみません」
「くそがよ」
今日も今日とて説教をされている。梅子さんを死なせてしまったのもある。
が、それ以上に問題があったのだ。
「時藤様のお世話になるなんて。お前何考えてんの?」
「偉いんですか? その人」
「この業界にいて何で時藤様知らねぇんだよ。ボケチンがっ。由緒正しい魔法少女一族の方だぞ」
昨日のことを思い出す。あの青い魔法少女はすごかった。梅毒を一撃で倒すんだから。
「はぁ……仕方ねぇ。ちんちん、一緒に行くぞ」
「へ? どこに?」
「謝りに行くんだよ。時藤様に挨拶もしねえ、謝罪もしねえ。そんなんじゃやっていけねえんだこの業界。覚えとけカス」
こうして
俺とペニス課長は一緒に謝りに行くことになった。
魔法少女に謝りに行く妖精。よく分からない社会だ。
………
……
…
こうしてペニス課長と一緒に外に出るのは初めてだ。
実を言うと
俺はペニス課長が滅茶苦茶嫌いだ。髭も似合わないし短気だし良い所が見つからない。
「くそっ、これだから新卒は」
「あ、あの……謝罪なら俺1人でも行けますよ? いつもペニス課長に謝ってる感じでいけばいいんですよね?」
「アホか、ボケ。あんな適当な謝罪やったらうちの会社潰れるぞ」
「そんなまた大げさな」
魔法少女の機嫌を損ねて潰れる会社があるはずない。
「いいか? お前は“すみませんでした”以外しゃべるな。分かったな?」
「すみませんでした」
「よし、それでいい。行くぞ」
「すみませんでした」
………
……
…
「ここが時藤様のお宅だ」
「これはなんと」
お屋敷という言葉があるがまさにその言葉通り。西洋の洋館を彷彿とさせる立派な家だ。家政婦さんが何人いてもおかしくない。
「俺のアパートの何十倍あるんだろ。ペニス課長、魔法少女って実は儲かるんですか? それとももとから資産家とか?」
「どっちもだよ。ってかそんなことも知らねぇのか」
「だって」
「そもそもお前は魔法少女法だってろくに覚えてねえだろ。そんなんだからいつまでだっても」
あっ、いけない。話が長くなりそうだ。だけどその時
「あれ? 妖精さん?」
桃色の髪が目に入る。
「あっ、君は」
「誰だ? このガキ」
「三途川咲茉です」
「ほら、話したじゃないですか。昨日の梅子さんのお孫さん」
「あぁ、そういえば」
まさかこんな所でこの子と会うとは思わなかった。
「昨日は……大変だったね。それにごめん、あんなことになって」
「妖精さんのせいじゃないよ。敵はどこにでも現れるし、いろんな人が毎日死んでて。魔法少女のことは驚いたけど……」
俯きながらの小さな声。見ていて悲しくなる表情だ。
「梅子さんの葬式決まったら教えてよ。行くから」
「うん」
「でもどうしたんだい? こんなところで」
「あっ、その……お礼言いたくて」
「お礼?」
「時藤さんとは同じクラスで。昨日昨日助けてもらったから」
「友達なんだ」
「あっ、友達とは違うんだ。ただのクラスメイト」
「?」
何だか良く分からないけどお礼のために来たのだろう。昨日あんなことがあったのに。辛いはずなのにお礼を言いに来るなんて。強い子だ。
「おいガキ。お前どういうことだ?」
「え?」
どうしたのだろう。ペニス課長がじろじろ見ている。
「お前に内在してる魔力のことだよ……」
魔力? どういう意味だ?
“どうぞお入り下さい”
インターホンを押してないのに勝手にドアが開いた。
「なんで?」
「カメラだろ。玄関でこんだけ騒いでればアホでも気付く。まぁいい、行くぞ。くれぐれも失礼のないようにな」
「大丈夫ですって。こう見えても営業態度だけは自信あるんですから」
「余計なこと言うなよ」
「任せて下さいよ」
とにもかくにも家に入る。
………
……
…