26話 新卒営業の入れ知恵
恵茉の髪は薄桃色でセミロング。普段から毛先が少し外に跳ねている。
椅子に座る恵茉。その後ろからくしで髪をとかす時藤日葵。微妙な面持ちでその光景を見るクラスメイト。
クラスの微妙な空気感が俺にも伝わってくる。
「い、委員長と恵茉って仲良かったっけ。ど、どうしたの? 急に。恵茉が魔法少女になったことと関係あるの?」
「そうね、関係あるわ。でもあなた達には関係ないわよね」
「ないわよねって、私達が先に恵茉と話してたんだよ? それなのに急に髪とかしはじめてさ。最近の委員長少しおかしくない? 話し掛けないでって急に言ってきたりさ。魔法少女が大変なのは分かるけど……」
「私のことでケンカは止めて? ね?」
「でも……」
これが俗に言う女の戦いと言うやつだろうか。なんか会話に入りずらい。
「あっ、ちんちんさん」
良かった。恵茉が俺に気付いてくれた。だけど
「うげっ、妖精だ。私苦手」
「そう? 私は平気だけど。でも何でいるの?」
「恵茉が魔法少女になったからじゃない? 時藤さんもいるしね。ねぇ、向こう行こ? 私魔法少女にさせられたくないもん」
「ちょっとそういう言い方止めなよ。って、うっ」
時藤日葵が睨んでいるのに気づき
10人近くいたクラスメイトは離れて行ってしまった。
「お、俺のせい?」
「気にしなくていいわ。むしろ丁度良かった。うじゃうじゃと邪魔くさかったし」
「ダメだよ、時藤さん。そんな言い方……」
教室の端の方。さっきの子たちがひそひそ話をしている。空気を読めない俺でも分かる。
これはあれだ。良くないやつだ。
「ごめんね、ちんちんさん。妖精って学校だとほとんど見ないから。みんな緊張してるんだと思う」
「時藤日葵の妖精は普段はいないんだね」
「玉袋には消えてもらってるか屋上に行ってもらってるの。あなたも目障りだから消えなさい」
「おいおい何だよその言い方。相変わらず傲慢だな」
相変わらずの高飛車な態度と言葉遣い。時藤家の人間はみんなこんな性格なのか? 恵茉とは大違いだ。
「三途川さん、屋上までちょっといい? 話したいことがあるの」
「う、うん」
微妙な空気のまま俺達は屋上に向かう。
………
……
…
JS小学校、屋上
学校によっては屋上が出入り禁止だったりそもそも屋上がない学校もある。ここは高いフェンスこそあるけど自由に出入り出来るとか。
「うーん、風も通って気持ちいいな」
教室の空気が悪かったからか清々しさを感じる。ここなら気持ちの良い会話が出来そうだ。
「三途川さん、私のことどう思ってる?」
「え? どうって?」
前言撤回。場所は関係ないらしい。空気が張り詰めている。
「私が昨日言ったこと覚えてる? あなたのことが好きになったって」
「そ、それって冗談だよね?」
「冗談は嫌いなの、私」
えっと、これはどういう状況だ? ああ、そうだ思い出した。恵茉は昨日この子に告白されたんだ。
好きになったと。そうだそうだ、そういう話だ。
ん? あれ? 結局どういう状況なんだ?
「えっと、その、あの……時藤さんの気持ちは嬉しいんだけど。あの、でも、私達子供だし、そういうのは私もよく分からなくて」
いきなりの状況にしどろもどろになっている。俺もどういうことなのか理解出来ん。
「すぐに返事が欲しいとは言わないわ。これはね、私の気持ちを伝えたいだけなの」
「え? あっ、その、あっ、う、うん……」
好きと言ってる割には照れてる感じもしないし恥ずかしがってる感じもしない。本当にどういうつもりなのだろう。
「あっ、そ、そうだ。昨日はありがとね、時藤さん。公園で助けてくれて。時藤さんがいなかったら私どうなってたか分からないもん」
「むしろ助かったのは私のほうだけどね」
表情を変えず淡々と話す。だけど
「それで?」
「え?」
「あなたの魔法……どういう魔法なの? それが聞きたくて」
なるほど、そういうことか。
「なんか失礼な感じだな。恵茉に好きとか適当なこと言ってさ。本当は能力知りたいだけじゃん」
「そんなことないわ。本当に好きよ」
「へー、どのくらい?」
「そうね……自分の命を捨ててもいいくらいには」
「へー、なるほどなるほど。自分の命以上に大切ってことね。それくらいの気持ちじゃ……って、え?」
何? なになになになに?
自分の命以上に大切? 何言ってるんだ? この子は。
恵茉とこの子の関係性は聞いたことがある。友人ではなくただのクラスメイトだと。そう恵茉が言っていた。
恵茉が言うくらいだ。本当にそれくらいの関係性なのだろう。事実時藤家でのやり取りはひどいものだったし。
それがここに来て自分の命以上に大切な存在? いくらなんでもありえないだろ。胡散臭すぎる。
恵茉を懐柔させて情報を引き出そうとしてるのか?
うーん、この子の気持ちが今一つ分かりにくい。これが思春期の女の子というやつか?
「昨日の戦闘時、一瞬で移動したわよね? それだけならまだいいの。でもあれは何?」
「あれ?」
「とぼけないで。魔法少女を解いた魔法よ。あれも時間操作魔法?」
1歩ずつ恵茉に歩みよる。逆に恵茉は1歩ずつ後退。視線もそうだし表情が怖い。これで好意があると言われてもにわかに信じがたい。
「ご、ごめんなさい。魔法については教えられないの。ちんちんさんに言われてね、相手は人類の敵だけじゃないでしょ? 軽はずみに言わない方がいいって」
「私よりその妖精の言うこと聞くの? はぁ……まぁいいけど」
俺を少し睨んだ後小さくため息を吐く。
そう、恵茉には魔法のことは言わない方が良いと伝えた。恵茉の魔法は確かに強い。だけどそれ以上に弱点も多いからだ。昨日の魔法少女達に看破されればあっと言う間に殺されてしまうだろう。
それに……
恵茉の魔法にはまだ検証しなければいけないことも多い。1つは人類の敵に通用するか否か。昨日の戦いでは人間や妖精に通用することは分かった。だけどそれでは意味がない。
魔法少女はあくまで人類の敵と戦うためにある。人類の敵相手にどこまで戦えるのか。
もう1つは魔力の消費量だ。魔法は無制限に使えるという代物ではない。限度がある。使えば使うだけ魔力は消費される。枯渇すれば魔法は使えない。
俺もそうだけど恵茉も魔法の扱いに関しては初心者。赤ん坊も同然なのだ。
「なぁ、時藤日葵。魔法に対する魔力の消費量ってどういう原理なんだ? そこらへん分かんなくてさ。教えてくれよ」
「あなた妖精なのにそんなことも分からないの? これだから新人は」
くっ、生意気な子供だ。
いや落ち着けちんちん。相手はまだ子供、小学生なのだ。ここは俺が大人の対応を見せて。
「無能ね」
プチン
堪忍袋の緒が切れる音がした。
「何だと~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。下手になってればいい気になりやがって」
「その態度で下手? よく言うわね。下手の意味くらい勉強しなさい」
「このガキ~~~~~~~~~~~~~~」
俺の渾身のキックをおみまいしてやる。
「ちょっ、ちょっと止めてよ。ケンカしないで? ね?」
恵茉に止められてしまう。
「ご、ごめんね時藤さん。私が魔法少女のこと分かってないから悪いのに。昨日もね、無我夢中だったからよく分からなかったんだ。ちんちんさんはそのことを気にしてくれたの。だから……」
「別に教えるのは構わないわ。ただ……そこの妖精の言うことを聞くのが癪だったから」
「むき~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「だからもう止めてって」
その後しばらく
あーだこーだ言い争いをした。
………
……
…
数分後
「いいことを思いついたわ。三途川さん、あなた今日私の家に来なさい。そこでいろいろ教えてあげる。学校だとどこで誰が聞いてるかも分からないし。問題ある?」
「な、ないけど」
時藤日葵の家? 怪しさしか感じないのだが。
「何? その目は?」
「別に」
視線で思考を探るのは止めて欲しい。ペニス課長じゃあるまいし。
「明日は休みだし泊りに来なさい。問題ある?」
「な、ないけど」
いきなりお泊り? 急だな、おい。
恵茉は押しに弱いのだろうか。安易に返事をしてしまった。何だかんだで彼女のペースになっている。
こうして
時藤家でのお泊り会が決まった。
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