23話 新卒営業の想いの果てに
目の前の誰かを救いたい。それは誰もが思う当然の気持ち。
それは恵茉なのか、日葵なのか
それとも……
数分前
「ちんちんさん、お願いがあるの」
「ダメだ」
この状況で、目の前で時藤日葵が襲われピンチになっている。この子が何を言うかなんて想像がつく。
「どうして?」
「魔法少女は命の危険が伴う。人類の敵が現れれば戦わなければいけないし殉職も多い。君はまだ小学生だ。子供がやる職業じゃない」
「で、でも時藤さんだって小学生で、それに私を庇ってこんなことに」
「それでもダメだ。君はどう見ても戦うタイプじゃない。それに相手は人類の敵だけじゃない。魔法少女だって敵になる。梅子さんの孫をみすみす殺すような真似は出来ない」
「ううっ」
俯き、唇を噛み締めている。
俺は子供が大好きだ。純粋で明るくて何者にも染まってなくて。そこには無限の可能性があって夢も希望もある。それが子供だ。
だけど子供はいろいろ発達途中で、正しい判断が出来ないことも多い。危なっかしい存在でもあるんだ。
「一時期の感情で魔法少女になるなんて止めた方がいい」
「で、でも……このままじゃ時藤さんが死んじゃう。それに、その後はきっと私だって狙われる」
「そ、そうかもしれないけど……」
だけど、それでも
「お願い、ちんちんさん。私を魔法少女にして? 私、もうね……目の前で誰かが死んじゃうのは嫌だよ。お婆ちゃんみたいな人をもう出したくないの」
肉親が死んで魔法少女になる。そんな子は多い。だけどそういう子は大抵現実を知って絶望してしまう。
魔法少女あるあるだ。
この子にその道を辿らせてしまうのか? いや、そんなの絶対ダメだ。
だけどどうすればいい? 時藤日葵が髪を切られた。呪いの藁人形がある。今にも飛び掛かってきそうな斧を構える魔法少女。薄気味悪い河童型妖精。
最悪だ。最悪すぎてどうすればいいのか全然分からない。逃げる? 無理だ。この状況で逃げれるはずがない。
なら戦わせるのか? この子を。梅子さんの孫を。10歳の子供を。
俺は、俺は……
「大丈夫だよ」
何かに
優しく包まれた。
暖かくて、気持ちが良くて、甘い香りもして
すごく落ち着く温かさ。この感じ、昔どこかで……
「大丈夫。私は大丈夫。ちんちんさんが思ってるような未来にはさせないから。ありがとう、ちんちんさん。ずっと心配してくれて。でもね、私は大丈夫だから」
人間って、こんなにも温かいんだ。毎日出社して、怒られて、契約に追われて、ゲーセン行って、寝て、また出社して
楽しいことなんて何もなかった。営業職は俺には向いてなくて、早く辞めたいって毎日思ってた。だけど辞めることが出来なくて、嫌々ながらに仕事して、さぼって、手抜きして。そんな毎日だった。
誰かに抱きしめられたり、温かい言葉を掛けられるなんてなかった。
「……」
いや、違うな。あった、温かい言葉。それにご飯。梅子さんだ。梅子さんはとても優しくて、ご飯もおいしくて。とても良い人間だった。
妖精は感情が欠けている生物だと言われる。
梅子さんが死んだのは悲しいことだけど、それは仕方ないことだって、それが今の妖精歴なんだって、自分に言い聞かせた。
魔法少女の営業は悪魔の営業とも言われる。
契約即ち死者のへ門。事実梅子さんは魔法少女になった瞬間死んでしまった。
この子は梅子さんの大切な肉親。
俺は、俺は……
「恵茉……君はどんな魔法少女になりたい? どんな魔法を使いたい?」
「初めてだね、名前呼んでくれたの。あのね、私は……」
………
……
…
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