19話 新卒営業と包茎
どこにでも悪意は存在する。
それが妖精歴である限り。
そこで見たのは……
友達と普通に下校するあの子だった。
「あっ、妖精だ。私初めて見たかも」
「嘘? 私結構見るよ? でも話しちゃダメだってお母さんに言われてる」
小学生達に指をさされる。知ってはいたがここまで嫌われてるなんて。今の学校教育は恐ろしい。
「ちんちんさん? どうしたの?」
俺に気付いてこっちに向かってくる。良かった。魔法少女契約はしていないようだ。ぽこちん先輩も驚かさないで欲しい。
「恵茉、知ってるの?」
「あまり関わらない方がいいんじゃない? 魔法少女になってもいいことないし」
小学生は思ったことを口にする生き物。その言葉は時にダメージとなる。魔法少女界隈の現状が分かってしまう。
「この妖精さんは良い妖精さんだから大丈夫だよ。この前もお葬式来てくれたし。ね?」
ね、と言われても。オイラの気持ちとはよそに信頼を厚くしてしまったらしい。
「少しだけ話してもいいかい? すぐに終わるから」
「うん、いいよ。あっ、私妖精さんとお話しするから。また明日ね」
そういって俺達は近くの公園に向かう。
………
……
…
「お葬式来てくれてありがとう。お婆ちゃんも喜んでると思う。でもまた会えて嬉しいな。お葬式ではほとんど話せなかったし。その後も全然来てくれなかったから」
「いろいろ仕事が忙しくてね」
ペニス課長に残業を押し付けられたり、資格勉強させられたりと散々だった。だけどそれだけじゃない。もうこの子とは会うつもりはなかったから。
「今日は釘を刺しに来たんだ。どうやら君は魔法少女の適性があるらしいからね。時藤家に行った時に言われただろ? 魔力があるって」
「私に魔法少女の適性……本当なのかな。運動だってろくに出来ないのに」
「運動能力は関係ないよ。全ては才能の世界。後は知識も大事だって言われてるかな。何にせよ子供には危険な世界だからさ。殉職者がたくさん出てるのは知ってるだろ? そのことを言いに来たんだ」
この子だってバカじゃない。梅子さんだって目の前で死んだんだ。これだけ注意すれば魔法少女になりたいだなんて思わないだろう。
「ありがとう。ちんちんさんは私のこと心配してくれてるんだよね。嬉しい」
ああ、やっぱりこの子は優しいんだな。こんなにも綺麗に笑えるのだから。人間は成長すればするだけ計算高くなる。こういう純粋な時期が1番可愛らしく思える。だからこそ、そんな時期に命懸けのことなんてさせられない。
だってそうだろ? ○○
俺はいつでもお前のことを……
「あれ? 疲れてるのかな。今何か変なことを思っていたような」
知らない記憶? 過去?
一瞬何かがフラッシュバックしたような。
「どうかしたの?」
「い、いや。何でもない。さぁ、そろそろ帰る時間だろ? お母さんとお父さんも心配するしね」
「そうだね。お母さんに買い物頼まれてるから早く帰らないと。でもお父さんって?」
「え? お父さんはお父さん……」
あれ? また俺変なこと言ったか?
「うけけけけけ。帰る前にうちとも話してもらえるかな?」
夕日が沈み始め、影が大きくなる公園で不気味な笑い声が聞こえた。その主が人間でないことはすぐに分かった。
「どうもおおきに。うちは河童社の営業、包茎言います。あんた三途川恵茉で合ってる?」
河童型、それに関西弁の妖精。初めて見る妖精だ。
「そうだよ。私が恵茉だけど」
「桃色の髪で目立って助かるわ。それ以上に魔力が目立つんやけどな」
何だろう、この異様な感じ。狸型と狐型とは違う、怪しい妖力を感じる。
「そっちの狸はあんたを魔法少女にさせたくないみたいやけど……うちは逆でな。あんたを魔法少女にしたいねん。ほんまはもっと早く営業掛けたかったんやけどな。うちもいろいろ忙しくて。ようやく来れたんや。少しくらいは話聞いてくれてもええんちゃう?」
ペラペラしゃべる妖精だな。それに馴れ馴れしい。
「止めた方がいい。あの河童からは嫌な感じがする」
「おいおいそれはあかんて。おたく契約する気ないんやろ? だったらうちが契約してもええやん」
うけけけけ、と気味の悪い笑い声が公園に響く。
「人類の敵は減らへんし魔法少女も足りてへん。猫の手も借りたいくらいなんや。あんたレベルの人間が魔法少女になればどれだけの人間を救えるか。もしかしたら人類の敵を全滅させられるかも!! なんてな。うけけけけ」
バカにしたような笑い。人類の敵を絶滅? 何を言ってるんだこいつ、本気か?
「それに知ってるで? あんた身内が人類の敵にやられたんやろ? そりゃあ不幸な事故やな。救いがたい事故。だけどな? そんな事故も魔法少女がいれば防げるっちゅう話や。悔しいやろ? 悲しいやろ? 同じ思いを他の人にさせたくないやろ? 魔法少女になれば解決するんや。ええ話やないか。それにあんたにとってメリットはもっとある。魔法を使えることや。人類の夢、子供の夢、それが魔法少女。悪しき敵を撃ち滅ぼす勇者の力。望めばなんでも出来る魔法の力が手に入るんや。こんな優良物件他にはないと思うで」
延々と魔法少女の良さを語りだす河童型妖精。誰かの営業ってほとんど見たことないけど……こんな言い方もあるのか。
って違う。何を呆けているんだ、俺は。
「あの、包茎さん。私ね、魔法少女になるつもりはないんだ。少し興味はあるけどね」
「ああ、ああ、ええでええで。考える時間はいくらあってもええ。うちは無理強いはせえへんから。あっ、でも何かあったら呼んでな? 相談はいくらでも乗るで。契約についても事細かに教えたる」
あっ、これ誰でも出来る初めての営業マニュアル3ページに書いてあった。
押すだけでなく引くべし
営業とは顧客とのコミュニケーション。ニーズを把握し、押し引きの心理戦を制しなければならない、と。
まさにこういうことか。
この河童型妖精胡散臭いけどトーク力は俺よりもずっと上手い。俺なんてうっ、あっ、しか言えないし。
「あの、ね。私……魔法少女契約したい妖精さんは決まってるんだ」
「……へ?」
「ここにいるちんちんさん。ごめんね、魔法少女になるって決めてもないのにこんなこと言って」
この子……
「だからごめんなさい。包茎さんとは契約出来ないの」
「うちよりもそこのアホ面狸がいいと?」
「ちんちんさんはね、すごく良い妖精さんなんだよ。お婆ちゃんのお葬式にも来てくれたし私のこといろいろ心配してくれてるから。それにお婆ちゃんが契約した妖精さんだもん。きっと大丈夫かなって」
「はぁ、なんだかなー」
河童型妖精は頭をぽりぽりとかく。
「契約考えてへん言う割に契約する気満々か……嫌になるわ。強大すぎる魔力は味方にするに限るんやけど」
あーあ、と言い天を仰ぐ。なんだろう、すごく嫌な感じだ。
空気が変る。夕焼けで出来た影が河童型妖精を黒く染める。そこから見える赤い目だけが不気味に光る。
一瞬、ほんの一瞬
河童型妖精の視線が上を向いた。
!!
殺気?
「危ない!」
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