12話 エリート妖精と病院
エリート妖精玉袋と時藤日葵の物語。
日葵の代わりに毒に侵されてしまった紬。入院した紬のお見舞いに行くのだが……
3日後、時藤訓練場にて
「準備はいいですか? 日葵様」
「ええ」
「行きますよ。3,2,1スタート」
オイラの合図と共に水風船が発射される。今回は上空に向けてではない。日葵様に向かってだ。
シュシュシュシュシュ
1秒間に5個の発射。それが際限なく日葵様に向かっている。
「ふぅ」
小さく息を吸う。そして
「クロックダウン」
青白い魔法陣が展開。
「アクティブ連鎖」
数百あった水風船が全部停止した。
「す、すごい。まさか本当に成功してしまうなんて」
この仕事について早3年。多くの魔法少女を見てきた。ここまで呑み込みが早い人間は初めてだ。
時藤家は才能溢れる人間が多いけれど……日葵様はその中でも特別かもしれない。しかもこれは今まで練習してきた空間停止魔法ではない。
精密停止魔法。1つ1つの風船に狙いを定めて停止魔法を使っている。針の穴を通す難易度。それを同時に100個にやっているのだ。
「こ、これどうやってるんですか?」
「原理は簡単よ。1つの風船に停止魔法を使用。停止した風船が近くにある風船を感知し連鎖するように停止させる。あとはその繰り返し。対象認識を応用しているだけ。時藤の資料にあったの」
これが天才というやつなのだろう。誰に教わるでもない。ただ資料を読み込んだだけで出来てしまう。
感覚肌の天才ではない。計算された応用力の才能。それが時藤日葵様の本質的な力。
この成長速度ならいずれはあの毛ジラミだって……
………
……
…
「お疲れ様です、日葵様」
オイラはスポーツ飲料を渡す。日葵様はありがとうと言い一口飲む。あれだけの魔法を成功させたのに顔色1つ変えていない。凄すぎるのさ。
「すごいですね。成功率も100パーセントですし文句なしです。これなら実践でも十分通用しますよ」
「まだよ。これじゃあ敵に勝てない。せいぜい足止めがいいところ」
「で、ですけど停止魔法はもともと守備主体ですし」
日葵様は手のひらをかざしながら魔法陣を展開させる。小さな青白い魔法陣が上空に展開。
「人類の敵って心臓とかあるのかな……もし停止させられれば」
日葵様の目の色が変る。人の眼球は白と黒色。それが青く変色。魔法陣と同じ色になる。
その目はオイラの知っている日葵様の目ではなかった。
「ふぅ」
展開させた魔法陣が消える。
「ひ、日葵様……なんか怖いです。いつもは冷静な感じなのに瞳の奥から恐怖を感じるというか」
「同じことを繰り返したくないから。止まってられないの」
日葵様は小さくそう呟いた。
停止魔法を習得した日葵様が誰よりも進むことを望む。皮肉なことだと思う。
人間の女の子。日葵様くらいの年頃の子は心も体も大きく成長する時期だ。多感であり良くも悪くもいろんな影響を受ける。魔法少女になった人間は通常の人間とは大きく異なる生き方を求められる。
日葵様もまた同じように。
この変化が今後どのようなものになるのか
それはオイラはもちろん日葵様にだって分からない。
訓練を終えた後日葵様は病院に向かう。紬様が入院してから毎日だ。
日葵様の変化はやはりこれなのだろう。今日はどうか
“何も起きないで欲しい”
………
……
…
病室に入ると
「ああああああああああああああああああああああ。うで、が痛い。重い、熱い!!! ぐっ、あああああああああああああああああああああああああ」
「お姉ちゃん、大丈夫? お姉ちゃん?」
紬様の叫ぶ声とそれを心配する繭様
「今先生を呼びから待ってて。妹さんも危ないから離れて」
「お姉ちゃん。お姉ちゃん」
目も当てられない光景がそこにはあった。苦しみ悶える紬様。泣き続ける繭様。
そんな2人を見てただ立ち尽くす日葵様。
オイラ達はこの光景を
“昨日も見た”
………
……
…
30分後
「すぅ、すぅ……」
紬様は鎮静剤を打たれ眠っている。聞くと痛み止めが利かなくなってきているとか。梅毒の症状は初期、中期、後期の3つのステージがある。紬様の今の状態は中期状態。全身に赤い湿疹が現れて毒による発熱と痛みに襲われる。
これが進行すれば次は後期ステージ。全身がゴム腫になり死に至る。
梅毒の進行具合は個人によって違う。初期ステージから症状が進行しない場合もあれば逆に
「お姉ちゃん……」
紬様のように数日で進行するケースも。
「ねぇ玉袋、お姉ちゃんの魔力は回復してるんだよね?」
「はい。魔力は体力、精神力に関わらず回復するものなので。ですので紬様が梅毒で死ぬことはありません」
「だったら何で梅毒が治らないの? お姉ちゃんが苦しんでるの見たよね?」
「そ、それは……そういう契約だからです。紬様の契約はあくまで不死。肉体再現は出来ません」
「そんなのインチキじゃん!!!!」
繭様が大声で叫ぶ。
もちろん紬様はそのことを承知で魔法少女契約した。肉体再現を取り入れる魔法習得も出来た。だけどそれをすれば“不老不死”という魔法になる。
紬様はそれを拒んだ。永遠に戦い続けることが嫌だったのか、繭様と一緒に歳を重ねたかったからなのかは分からない。
ただそう選択したのだと……玉筋部長との引継ぎで聞いていた。
泣き叫ぶ繭様にオイラは何も言うことは出来ない。日葵様も同様だ。日に日に弱る紬様をただ見ることしか出来ない。
「玉袋、紬を助ける方法はある?」
「ありますが、やはりそれは魔法の力になります。“治癒”を習得した魔法少女を探すことです。大抵の治癒使いは人類の敵の攻撃を想定していますので」
「治癒魔法。それを使える魔法少女はいるの?」
「いるとは思います、がうちの会社や時藤家にはいません。なので1から探すしか」
うちの会社が契約している魔法少女は9人。もちろん全員の能力は把握している。だけどそれはあくまでうちの会社に限ってのこと。
他の会社との契約に関しては知るすべはない。テレビやインターネットを通じて情報を得ることは出来るがあくまでその程度。ここ最近はコンプライアンスやプライバシーなど厳しい。
契約内容を漏らすことはやってはいけないご法度の1つなのさ。
「何が治癒魔法を探すよ、適当なこと言って」
「繭様?」
繭様が睨みながら日葵様に詰め寄る。
「お姉ちゃんが死なないからってのんびり? 余裕ね。お姉ちゃんね、起きるたびに痛がってるんだよ? 痛い、熱いって。身体見た? 湿疹だらけ。顔だってそう。夜中ね? お姉ちゃん鏡見て泣いてるの。当たり前だよね? 顔中真っ赤なんだよ? 外にも出れないし誰にも見せられない。ねぇ、なんでお姉ちゃんがこんな目に合わないといけないの? 人類の敵と戦ってたんだよね? 誰かのために命を掛けてたんだよね? 何百、何千の人を助けたのにさ、お姉ちゃんが入院しても誰もお見舞いに来やしない。こんなのあんまりだよ」
「繭、それは違う。紬は見返りを求めて魔法少女になったわけじゃない」
「うるさい日葵!!!!!!!!!」
病院中に響くくらいの大きな声。繭様の怒りと悲しみは収まらない。
「そもそも日葵、あんたはここで何してるの? 人類の敵を殺すでも治癒魔法を探すでもない。ただそこでぼうっと突っ立ってさ。バカにしてるの?」
「ま、繭様それは言い過ぎでは」
「うるさい! オプション契約だってそうじゃん。お姉ちゃんにだけ負担させてさ。自分は安全な所から魔法使ってるだけ。いいよね、本家に期待されてるの子はさ。盾になるのはいつだって私達分家なんだから」
「……」
紬様は何も言わない。言い返さない。言い返せば繭様がもっと逆上するのを理解しているから。繭様の苦しみを理解しているからこそだ。だけどその反応は繭様にとって逆効果で。
「あんたはいつもそうだよね。都合が悪くなるとそうやって黙ってさ。そうすればいいと思ってるの? もういいよっ、私が何とかする。玉袋。魔法少女契約!」
「え?」
「魔法少女契約するって言ってるの。私が治癒魔法覚えてお姉ちゃんを助ける」
「そ、それは無理ですよ。繭様はまだ9歳。魔法少女法でそれは出来ないのです」
「そんなの無視すればいいじゃん。昔は子供だって魔法少女になれたんだよね? 出来ないんじゃなくてやらないだけでしょ?」
「繭、落ち着いて。玉袋が困ってる。それにここは病院」
「うるさい! こういう時だけ正論ぶってさ。役立たず!!!! もういい、出て行って」
オイラ達は追い出されるように病室を出ていくしかなかった。
………
……
…
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