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殉職率の高い魔法少女が壊れる理由  作者: 虹猫
2章 エリート妖精玉袋
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10話 エリート妖精と難しい判断

時藤日葵の過去の物語。魔法少女になって1週間後・・・それは地獄の始まりだった。

日葵様は動けないでいる。いや、正確には思考が止まっている状態か。日葵様は魔法少女になってまだ日が浅い。避難誘導だって初めて。


普段の冷静な日葵様だったらこんな案件すぐに解決出来るだろう。しかしそれが出来ないでいる。紬様も言っていた。日葵様はこういった危機に弱いと。


これまでは楽に敵を倒すことが出来た。ある意味練習通りにやれた完璧な内容だった。だけど今は違う。練習とは真逆のイレギュラー尽くし。こういう時こそ経験が役に立つのだけど……日葵様にはそれがない。


どうするべきか。


オイラは時間を確認する。毛ジラミが現れて10分が経過。


“消失するまで残り20分”


オイラの役目は魔法少女の契約を取ること。それプラス魔法少女を死なせないこと。このまま日葵様を放っておくのは得策ではない。日葵様だけでなく紬様の命も危なくなる。


紬様のオプション契約。残り秒数は98秒。


本当は口出し無用なんだけど……仕方ない。臨機応変に勤めるのもエリート営業妖精の務めさ。


「日葵様。撤退を進言します」

「えっ? ……撤退?」

「そうです。勝ち目がないなら逃げるのも必要かと。毛ジラミは破壊力こそありますが動きは遅い。逃げ切るのは容易いです」

「こ、この人は? 他の逃げ遅れた人は?」

「諦めましょう。ここで数十人の人間が死ぬより2人の魔法少女が生き残ることの方が大切です」


そう、これは単純な話。魔法少女1人には1万人を救う力があると言われている。ならば数字的に見ても今後のことを考えても魔法少女2人を活かす方が将来的にも良いのだ。


逃げるが勝ち。


長い歴史を持ち大手企業と言われるうちの会社にあるマニュアルの1つ。


勝てない敵が現れたら逃げるべし。魔法少女には無限の可能性と成長がある。今は無理でも数年後には勝てるようになるかもしれない。


日葵様と紬様の連携はまだまだ未熟。これは将来の勝ちに繋がる戦略的撤退なのさ。日葵様はとても頭のいい方。この提案を受け入れてくれれば。


「……にを言ってるの? 何を言ってるの? たくさんの人を見捨てて逃げる? そんなの出来るはずないじゃない。どうして? どうしてそんなこと言えるの? 玉袋」

「……はぁ」


ため息が出てしまう。やはりか、そう思ってしまった。妖精と人間は会話も出来て意思疎通も出来る。ある意味似たような存在だと言える。


だけど理解出来ないことも多い。こういったことがそうだ。自分の命は助かるのに。死ぬのは家族でもなければ他人なのに。ましてや役立たずなんてひどいことを言われた相手なのに。


人はそれを切り捨てることが出来ない。目の前の数十人を見殺しにすれば将来数十万人を助ける力を得れるかもしれないのに。人類にとってはそれが有益なはずなのに。


人間というのは感情で動いてしまう。憐れみ? 同情? 使命感? 責任感? オイラに分からないものさ。


「うーん、どうしたものか」

そうこうしているうちに70秒が経過。紬様のオプション契約が終わってしまう。取り合えず伝えておかないと。


「日葵様、紬様のオプションがそろそろ終わります。残り20秒です」

「じ、時間がない。や、やっぱり毛ジラミを倒すべきなのよ」

「あっ、ちょっと。避難誘導も撤退もしないんですか?」


オイラの言葉も聞かず飛び出してしまう。ここまで危機に対して脆いなんて思わなかった。正直想定外さ。


「日葵様もまだまだ小学生ってことなのかな。っと、オイラもサポートしないと。時藤家の人間を見殺しにしたら始末書じゃ済まない。待って下さいよ日葵様~」


本当にどうしたものか。会社に連絡? いや、したところで助けが来るわけないし。むしろオイラの査定に響いてしまう。取り合えず生き残ることを優先させないと。


日葵様を追いかけると


屋根の上に跳んでいた。屋根伝いに走り移動し毛ジラミの方に向かっている。


バンッバンッ


バンッ


同時に銃声の音も響いてる。紬様が戦っているんだ。だけどオプションが切れるまで残り数秒。そうなれば銃は消え攻撃手段をなくしてしまう。


「紬、下がって……私が止め切って見せる」

「え? 日葵?」


「クロックダウン!!!」

青白い魔法陣が毛ジラミを包みこむ。


グシュシュシュ


毛ジラミの本体が停止する。しかし触手の動きは止まらない。


バンッ バコッ ドカンッ!!


腹いせのように周囲の建物を壊し続ける。


「くっ、この」

敵とは言うが起きている現象は災害そのもの。触手に触れたあらゆるものが倒壊する。これで生き物に寄生虫を植え付けるというのだから手に負えない。


「日葵、なんで戻ってきたの? 非難誘導は?」

「ここで私が停止させる。それでいいはずだよね?」

「何を言って……」


「紬もここを離れて。オプションが終わったら魔法も終わる。そうなれば紬だって危なくなる」

「避難誘導も終わってないのに逃げろって言うの? 日葵あなたっ!」

「大丈夫。ここは私が停止させるから。そうすれば被害も止まる。だよね?」


2人の言い争いは止まらない。それもそうさ。作戦は破綻してるし毛ジラミの活動時間も大分ある。状況は悪くなる一方。


このままだと本当に2人とも死にかねない。新規の魔法少女の殉職率は高い。まさに痛感しているところだ。



「日葵、どうして私の言うことを聞けないの? 何のための連携や練習だったの? こんなことじゃ私達……」

「だから私が止めるって」

そうこうしているうちに


「あっ」

“魔法少女契約オプションが終了しました”


“魔法少女契約オプションが終了しました”


紬様のオプション契約が終わってしまった。


「っ」

それと同時に魔法少女の服装も解除。普段の私服に戻ってしまう。


「紬様。不死の魔法が完全に切れる前に徹底しましょう。このままだと本当に死んでしまいます」


「倒せるなんて思ってない。足止めするしかないって分かってた。なのに何で上手くいかないの? 魔法少女は人類のための力よね? せめて被害は最小限にって思ってやってきたのに。これじゃあ、これじゃあ」


「仕方ないですよ。相手は梅毒じゃない。毛ジラミなんですから」

「っ」


紬様は苦渋に顔を歪める。分かってる。日葵様も紬様も殲滅特化の魔法を習得していない。もしそうだったなら多くの敵を倒すことは出来るだろう。だけど守備が疎かな分長生きは出来ない。


魔法習得とはそれだけ難しい選択なのさ。


「紬様が避難したら日葵様も逃げるんですからね? いつまでも停止は出来ないですよね?」

「それは……」

「あぁ、もう!! 少しはオイラの意見も聞いて下さいよ」

状況は混乱を極める。


暴れる毛ジラミ。触手の攻撃で周囲の家々がどんどん壊される。近くからは悲鳴やサイレンも聞こえる。


滅茶苦茶だ。このままだと2人の殉職だけでなくオイラの命だって


“人類の敵出現”


“人類の敵出現”


「え?」

「な、なに?」


タブレット端末から自動音声が流れる。


まさか


これは


シュシュシュシュ


梅毒が出現した。


「こんな時に? どうして?」

日葵様が背後を振り向く。その先には梅毒。


文字通り


最悪である。


梅毒の粘着液が日葵様を襲う。毒液だ。これを食らえば死に至る。


「日葵、危ない!!」

紬様が


日葵様を突き飛ばした。


「いやあああああああああああああああああああ」


…………


………



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