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第49話 三か月もあれば十分

子爵家からの遣いを待たせていた、屋敷の横に拡張して建てた別館へ俺は向かう。


因みに別館は、急ごしらえで適当に立てた、石と廃材で建てた屋敷っぽい物をランクアップさせて出来ている――タニヤンの案。

原理は全くわからんが、やりたい放題できるあたり流石神のスキルと言わざるえない。


「待たせたようだな」


「これはこれは。お初にお目にかかります、スパム男爵。わたくしめはアイバス子爵の命をうけ参ったチョビンと申します」


別館の応接室に入ると、使者だと思われるちょび髭に細長い顔をした、派手な服を着た人物が待機していた。

そいつはソファから立ち上がり、丁寧に挨拶してくる。


流石に、貴族家所属の人間はマナーを弁えているな。

カンカンとは大違いだ。


まあ見た目は果てしなく胡散臭いが……


「本日、アイバス騎士団の死者の森での訓練の許可を男爵様より頂きたく参りました」


「話は執事のジャガリックから聞いている」


俺はソファに腰掛ける。

元は木組みのボロイ椅子だった訳だが、ランクアップで座り心地抜群に生まれ変わっていた。

たった10ポイントとは思えない仕上がりである。


「悪いが、それには許可を出せない」


俺の返答に、チョビンが驚いた様な顔をする。

どうやら二つ返事でオッケーを貰えると思っていた様だ。


まあ彼らからすれば、こちらには何のデメリットもないと思ってる訳だからな――始まったばかりの街の建設は流石に把握していないだろう。

そう思っていてもおかしくはない。


「失礼ながら……理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」


「私の方からご説明いたしましょう。男爵様、宜しいでしょうか?」


「ああ」


横に立つジャガリックが、男爵である俺が態々答えるまでもないと言わんばかりに、チョビンの質問に対して口を開いた。


「お願いいたします」


「まず初めに……このスパム男爵領では、新しい町の建設に取り掛かっている事をお伝えしなければなりません」


「おお、さようですか。おめでたい話ですな。このチョビンめ、男爵様にお祝い申し上げます」


街の建設は、基本、領にとってプラスになる。

経済発展な訳だからな。

なのでその事を踏まえ、チョビンが祝いの言葉を口にする。


まあ心は一切こもってない社交辞令だろうが。

そら何の面識もない男爵領の発展なんて、こいつには果てしなくどうでもいい事な訳だからな。


「その町の建設は、オルブス商会からの全面的な協力で行われている訳ですが……」


「ほうほう。あの名高きオルブス商会が。さすがは男爵様でございますな。就任したばかりで既に大商会を動かしてしまうその手腕。このチョビンめ、頭の下がる思いでございます」


なんというか、よいしょが凄い。

此方のご機嫌を少しでも取って、なんとか要望を通せないかという熱意が無駄に伝わって来る。

まあおだてに弱い貴族ならともかく、俺には全く通用しないけど。


「話を続けさせて貰っても宜しいですかな?」


「おっと、これは失礼いたしました。私とした事がつい興奮してしまいまして……どうぞお続けください」


「では……男爵様は、そこを冒険者達の町にしようとお考えなのです」


「冒険者達の町……ですか?」


冒険者の為の町。

そう聞かされ、チョビンの眉がピクリと動いた。

たぶん、何故駄目なのかという点に気づいたのだろう。


「ええ。冒険者は魔物を狩る事を生計としている者達の総称。彼らにとって、死の森に蔓延る大量の魔物は宝の山となります。男爵様はその点を考慮し、許可を出せぬと判断されたのです」


折角町を作っても、魔物というパイが減っていたら人の集まりが渋くなりかねない。

いずれ回復するにしても、一度『たいして魔物がいない』というマイナスイメージが着けば、確実に割を食う事になる。


旧知の相手ならともかく、特に面識もない子爵の為に損してやる謂れなどないのだ。


「むむむ……なるほど。男爵様には深いお考えあってのお答えだった訳ですな」


「そうなります」


「僭越ながら男爵様、わたくしめの意見を申し上げさして貰っても宜しいでしょうかな?」


俺は黙って首を軽く縦に振る。

さっきから偉そうな感じで対応しているのは、軽く見られない様にするためだ。

貴族のやり取りで、相手に軽んじられていい事は何もないからな。


……それでなくとも、こっち僻地に追いやられた元王族の出来損ないという残念な肩書を持つ身だし。


「町の建設は一大事業と存じ上げております。当然、その立ち上げには相当な時間がかかるかと。たとえそれが大商会の手であっても。此度のアイバス騎士団の訓練はそれほど影響は出ないかと、わたくしは愚考致しております」


「そうですな。普通ならば、一年以上はかかる物でしょう」


「ええ、ええ。ですのでわたくしめは思うのです。一年もあれば、魔物の数も元に戻っているのではないかと」


アイバス子爵の要する騎士団の規模や練度は知らないが、危険な死の森に出向いてまで訓練を行うぐらいだ。

相当な規模である事は疑い様がない。

そしてそんな騎士団が訓練の名の元に乱獲すれば、魔物の数は著しく減少する事になる。


だがそれでも、増殖ペースが他の生物よりずっと早いと言われている魔物なら、チョビンの言う通り1年もあれば概ね回復する事だろう。

なにせ、国から許可を貰ってこれまで毎年狩ってた訳だからな。


なので、チョビンの発言はド正論だ。


「何より、死の森は広大でございます。いかに精強を誇るアイバス騎士団とは言え、森の魔物の生態系を大きく崩すほど狩る事は不可能かと」


更に駄目押しの発言。

チョビンが手もみしながら、満面の笑顔を見せる。


貴族の送った使者だけあって、なかなかどうしてって感じだ。

まあそりゃ、どうしようもない馬鹿には任せないか。


「なるほど、言いたい事は分かった。だが、一つ大きな勘違いをしている」


「勘違いと申されますと?」


俺が視線を送り、ジャガリックが続きを引き受ける。


「町の建設には、1年も必要ないという事です」


「は?」


「三か月もあれば十分でしょう」


「さ、三か月ですと!?」


ジャガリックの言葉に、チョビンが唖然とした表情になる。


確かに、町の建設は年単位でかかる物だ。

死の森に隣接している以上、魔物対策の大きな外壁を築くだけでもは数か月は必要になってくる


……魔物のひしめく森のすぐ横で暮らすのに、頑丈な外壁なしとかありえないしな。


死の森から魔物が出てくる事は、この前のバラックボアの一件を除けば記録にない事だった。


だがそれは王家のデータであって、一般市民はその事を知らない――資料は引き継いでいる。

なので外壁なしの町なんて作ろうものなら、たとえ魔物狩りで生計を立てている冒険者だって住みみたがらないはず。

なので、しっかりした外壁は必要不可欠だ。


「い、いくら何でも三か月というのは無理があるのでは……」


「問題ございません。外壁は既に完成しておりますので」


「なんですと!?」


領主に就任してまだ1月もたっていない。

にもかかわらず、数か月はかかるであろう外壁が既に完成しているのには訳がある。


それは――


「いったいどうやって……」


精霊達、いや、特大精霊三人のお陰だ。


大地の特大精霊であるジャガリックが巨大な外壁を作り――その際、外壁の周囲が陥没して堀の様になっている。

その外観を風の特大精霊であるタニヤンが整え。

更に外壁を作る際にできた町を囲む堀には、特大精霊のカッパーが水を流し込んだ。


そしてそれらを俺のランクアップで仕上げる事で、外観に関してはもうほぼ完成状態だ――仕上げだけなので案外低ポイントで済んでいる。


これ以外にも、三人の精霊の力を使って領内外に繋がる簡易的な道を作ったり、水源となる川を作ったりと、結構やりたい放題やってたりする。

大精霊まじはんぱねぇ。


「工法は、残念ながらお教えする事は出来かねます」


まあ精霊の力と、ランクアップで数日で終わらせたとか言われても、きっと信じないだろうしな。

直接目にしでもしない限り。


「まあですので、早ければ三か月程で町としてスタートを切る事になるかと」


三か月というのは、基礎部分をジャガリックが手伝う前提だ。

精霊の力丸出しになってしまうが、徹底して隠さないならどうせそのうちバレる事になるだろうし、その辺りは気にしない方向でやって行く。


人の姿をしてるし、まあ凄い魔法使いとでも思ってくれる事だろう。


「な、なるほど……流石は王――あ、いえ。男爵様でございますな。素晴らしいとしか言い様がございません」


想定外の事態にショックを受けたせいか、失言をしかけ、慌ててチョビンが言い直した。


元王族という事実の指摘は、俺にとって侮辱以外の何物でもないからな。

なにせ、俺は追放されてる訳だし。


「しかし……先ほども申し上げた通り、死の森は広大でございます。建造中の町から離れた場所でしたら、問題ないのではないかと」


「大規模な討伐は、魔物の移動を促します。そうなれば予想外の事が起こりやすくなる物。此方としてはそういった事が無い様、できる限り安定した状態で町の運用を行いたいのです」


場所変えてもダメ。

そうジャガリックに告げられ、チョビンの顔が目に見えて渋くなる。


「そういう訳ですので、残念ですがアイバス子爵様の希望をお聞き入れする事は出来かねます」


「むう、そうですか」


「まあどうしてもと言うのなら、許可を出しても構わない。ただ、こちらが不安要素を抱えてまで出す許可だ。そちらにも、それ相応の誠意で答えてもらう必要はあるが」


折れてやってもいいけど、貸しは大きいよと俺は伝える。

これなら、相手も軽く見て判断することはないだろう。


「ありがとうございます。わたくしめでは決めかねますので、一旦子爵家に戻らせていただきたいと思います」


結局、男爵如きにやり込められて予定を変えるのが嫌だったのかどうかは知らないが、アイバス子爵は借りは必ず返すと約束して許可を俺から取り付け、騎士団の訓練を実行する。


もし、この時断念していたなら……


アイバス子爵は知らない。

そう、知らなかったのだ。

死の森に潜む邪悪な神が、彼らがテリトリーに入ってくる事を舌なめずりして待ち構えている事に。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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最強執事の恩返し~転生先の異世界で魔王を倒し。さらに魔界で大魔王を倒して100年ぶりに異世界に戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。お世話になった家なので復興させたいと思います~
大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきた勇者が、没落した侯爵家を執事として再興させるお話になります
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
『現代ファンタジー』ユニークスキル【幸運】を覚醒したダンジョン探索者が、幸運頼りに頂上へと昇りつめる物語
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