プロローグ
「貴様を王家から除名する!」
この日、ポロロン王国第4王子、エドワード・スパム・ポロロンは王家からの除名を通達される。
「そんな!父上!どうかお考え直しを!!」
エドワード・スパム・ポロロンは超がつく問題児だった。
王族や貴族なら当たり前の様に授かる神のギフト(特殊スキル)を持ち合わせない無能に加え、ひねた性格による素行不良が目立ち、周囲からは陰で出来損ないと蔑まれる始末。
とは言え、流石にその程度の理由で王家から除名される様な事は無い。
では何故か?
簡単な事だ。
彼は起こしてしまったのである。
追い出されるにたる大きな問題を。
「黙れ!このバカ息子が!自分が何をしたのか分かっているのか!!」
エドワードの起こした問題。
それは兄である王太子の婚約者にして、隣国バロネッサの第一王女に大怪我を負わせてしまった事だ。
「あれは……ちょっと体が当たってしまって」
「そのような言い訳が通じるか!大勢の者が、お前が王女に体当たりしたのを目撃しているのだぞ!!」
「う……恋は当たって砕けろと、本に書いてあったものでして。ちょっとそれを実践してみたのです。決して悪意は――」
エドワードは、第一王子の婚約者に一目ぼれしていた。
普通は諦める物だが、何を思ったか彼は――
王家の所蔵にある恋愛本。
そこに書いてあった『恋は当たって砕けろ』を実践してしまったのだ。
それも物理的に。
因みに彼は身長180センチで、体重は120キロを超えている。
よく言えば巨漢。
悪く言えばデブだ。
そんな男に全力疾走で体当たりを喰らえば、華奢で小柄な姫様がどうなるかは考えるまでもないだろう。
え?
護衛の騎士達は何をやっていたのかだって?
彼らもまさか、第4王子が王女にぶつかって来るとは夢にも思わなかったのだ。
絶対に手前で止まるだろうと思っていた彼らに、デブの体当たりを止める術などなかったと言う訳である。
「何が恋だ!王女はケイレスの婚約者だぞ!それを……ああ、もういい!お前と話をしていると頭が痛くなってくる!さっさとつまみ出せ!」
「父上!どうかお許しを!!」
衛兵達の手により、国王の執務室からエドワードが摘まみだされる。
その様子を冷ややかな目で見ていた王太子のケイレスが、彼がその場から消えてから口を開いた。
「ボロンゴに領主として送るなどと面倒な真似はせず、いっそ国外追放で良かったのでは?」
その言葉に、国王クロウスは小さく溜息をついた。
先程までの激昂は消え去り、その顔は心底疲れ切った様にやつれている。
今回の一件によるバロネッサ王国との関係の悪化。
それの対処に忙殺されていたのだから、疲れ切っているのは当然である。
「除名したとはいえ、エドワードが王家の血筋である事には変わりない。それを利用する輩が出て来んとも限らんからな。煩わしい事だ」
王家の血を引く以上、自由にさせる訳にはいかなかった。
他所で子を成せば、王家に仇なす種となりかねない。
だからエドワード王子に悪条件の僻地を与え、爵位で縛ったのだ。
「成程、納得しました」
「あれがボロンゴの環境に耐えられず、早々に自害でもしてくれれば話は早くていいのだがな」
「あの地方は猛暑で、今年は殆ど収穫も見込めないと聞いています。まあ時間の問題ではないかと」
「そうだとよいのだが……」
出来損ないの第4王子であるエドワード。
自業自得とは言え、血の繋がった親兄弟にまで死を望まれるのは哀れなことこの上ない。
――だが、王子には力があった。
――本人すらも気づいていない力が。
そしてその力は、やがてこの世界に大きなうねりを生み出す事になる。
その事を知る者はまだいない。