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Ai  作者: トラ
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ハーフヒューマノイド

2862年

人工知能いわゆるAIの危険性についての会議が世界各国で行われた。


そして2865年

「これ以上は危険だ、まだ分からないのか、人間の仕事を奪い失業率が年々上がっているんだぞ。」

「AIにも限界はあります。全ての仕事を奪う訳じゃない、効率的に作業が進められるようにサポートしているんです。」

「暴走したらどうするんだ、国家機密が漏れるだろう、これ以上の研究は止めるべきだ。」

「しかし、AIが無くなれば我々の生活はどんなるんですか、」

「生活はなんて言っている場合では無い、年々スマホやゲームの影響で運動不足や視力の低下が進んでいる我々人間は本当にダメになってしまうぞ。」


会議室の横を1人歩く少女がいた。今はAIについての会議中だそうだ。彼女も1人の参考人として呼ばれたが役目は終わり仕事場へ向かった。専用の車を呼び、何も言わずに乗り込む、いつもと同じで運転手も何も思わなかった。10分ほど車に揺られある駐車場に止まった、車から降りて仕事場の建物の前に来た。そこは公安警察の建物の前、中へ入ると彼女は一気に注目を浴びたそして受付を通り過ぎるとエレベーターの1階のボタンを3回押した。するとエレベーターは地下へ行き普通の人は誰も知らない地下の部屋に着いた。エレベーターから降りると廊下へ出て3個ある部屋のうち1番手前の部屋の前に来た。その部屋のドアには【JOKER】と書かれたプレートがはられていた。ドアを開けるとデスクは3つしかなく、他の課よりも圧倒的に小さかった。彼女は自分のデスクに行き椅子に座ると小さな溜息をついた。

彼女、小鳥遊(たかなし)愛唯(あい)は普通の人間ではなかった。10歳以前の記憶がなく、理由は脳がAIでてきているからだった。詳しくは本人も知らないが、何らかの理由があり、生きるためには脳をAIにするしかなかった。しかし、2855年に起こった愛唯と同じようなAI人間通称ハーフヒューマノイドが大規模なテロを世界各地で起こし、それからハーフヒューマノイドは人々の恐怖の対象となり、法律でこれ以上ハーフヒューマノイドを増やすことは禁止された。愛唯はその最後のハーフヒューマノイドの人間だった。脳がAIで出来ているため、脳内でネットにもアクセス出来る。しかし愛唯の場合後遺症で喜怒哀楽の感情の表現が著しく低下した。ハーフヒューマノイドが普通の人と同じ生活を送ることは難しく、愛唯の場合感情を読み取ることが苦手であり、ハーフヒューマノイドへの恐怖心もあだとなり齢18歳にして養護施設にも入れず、親もいないため公安で保護してもらっている。そして現在は公安直属の【JOKER】という、探偵の様なことから、猫探しまでなんでもやる万事屋のような事を1人でしている。JOKERで得た仕事をして、お給料をもらい、一人暮らしをして生活している。

「小鳥遊、入るぞ」

突然そういいドアを開けたのは記憶のない愛唯をここで引き取る事を快く賛成してくれた滝川(たきがわ)

(あつし)だった。彼はハーフヒューマノイドの愛唯を怖がりもせずよく可愛がってくれた。滝川の後ろには背の高い青年がいた。

「小鳥遊、今日からお前とバディを組んでJOKERをやってくれる飛鷹(ひだか)星七(せな)だ、今年で19歳、良い奴だから仲良くしてやってくれ。」

滝川は星七を紹介すると星七は

「よろしく、小鳥遊さん」

といい微笑んだ、愛唯は

(あぁ、言ってたやつか、ほんとに来るとは)

と思い、滝川を見ると星七を見て

「よろしく」

といった。しばらく沈黙が続き滝川が

「じゃあ、飛鷹、お前はこのデスクを使うか」

といい星七の荷物を愛唯の向かい側のデスクに置いた。そして仕事の説明が一通り終わり滝川が戻っていくと沈黙が続き、星七にとっては気まずい時間が流れた。それを何とかすべく星七は愛唯に話しかけた。

「た、小鳥遊さんは何歳なの?」

愛唯は動じもせず

「17今年で18歳」

といいパソコンを打っていた。また沈黙が続き星七は何とか会話を続けようと考えていた。

「俺の方が1歳歳上なんだ、、、俺の事は呼び捨てでいいよ、」

星七がそういうと愛唯は星七と目も合わせず

「じゃあ私も呼び捨てでいいよ、呼び方にこだわりはないからなんでも。」

と愛唯が言うと星七は会話をしたい感を出して愛唯を、じーっと見ていた。でも愛唯は気にもとめずただパソコンを打つばかりで星七はこんなんでやって行けるのか、と不安になり始めた。そのまま30分ほどたち星七はガッカリしているとそれを見た愛唯は理由が、分からず少し考えてでも深く考えるわけでもなく結局考えるのが面倒くさくなりいきなり立つと星七に

「コーヒー、飲む?」

と言った。星七はずっとなんて事ない顔をしていた愛唯が話しかけてくれたことに感動して、いつもより声が大きくなってしまった。でも愛唯は気にも止めず、コーヒーを注ぐと星七に「こっち来て」といい、部屋の中に隣接した休憩室に入った。休憩室はソファが向かい合って2つ置いてありテレビもあった。新聞も置いてあったが日付を見てみると2ヶ月も前の新聞で愛唯が新聞を読まないことがわかった。

「はい、これ、」

と愛唯はいい、星七にコーヒーを渡すと自分のコーヒーにミルクと砂糖を入れた。

「ブラック飲めないの?」

星七が聞くと愛唯は自分のコーヒーをスプーンで混ぜながら

「うん、苦いのと辛いのは苦手。」

と言った。すると愛唯は熱いのも苦手なのかフーフーとコーヒーに息を吹きかけていた。クールそうに見えて意外と子供っぽいところもあるなと思い星七が見ていると愛唯は星七に見られているのを確認して

「なに?」

と言った。星七はコーヒーを1口飲むと

「いや、クールだと思ってたけど意外と年相応だなって。」

と面白そうに笑いながら言った。愛唯は特に何も思わない様子で

「うん、でも星七も熱ければフーフーするでしょ?」

当たり前の様に言った。

「そうだね」

星七は小さい子供を見る様に愛唯に言った。すると愛唯は少し星七を伺う様子で言った。

「私の事怖くないの?そもそもなんでよりにもよってこんな誰も来たがらない所来たの?」

「んー、俺は別にハーフヒューマノイドの事は気にしないし、ハーフヒューマノイドだから何か変わるなんて思ってないから、愛唯も俺の目にはハーフヒューマノイドなんかじゃなくて、ただのひとりの女の子に見えるよ。君は危険なんかじゃない、愛唯、ペンと紙貸して、計算対決をしよう。」

と星七は愛唯に提案すると愛唯は素直に承諾した。ペンと紙を用意すると星七はスマホで計算問題を調べた。

「愛唯はAIでアプリを使ってもいいし、頭の中で電卓を使ってもいいから。」

と星七がいい愛唯は「うん」と返事をした。愛唯は一見とてもクールで大人に見えるが、話してみれば子供っぽい所がよくある話してみると意外と面白いなと思いながらスマホで計算問題を出した。数はとても大きく7桁あり、それも全部違う数字で、違う問題が10問並んでいた。

「じゃあ、スタート」

と星七が言うと星七も愛唯もスラスラ問題を解いていき、すぐに終わってしまった。結果は数秒の差で星七の勝ちで、愛唯は自分と計算で負ける人を初めて見たのに驚きで目をパチパチさせていると、星七はクスッと笑った。

「ハーフヒューマノイドにも俺は計算で勝てる、てことは俺はハーフヒューマノイドを、超える存在ということだ。愛唯が怖がられる対象で危険なら俺はもっと危険だ。なのになんで愛唯も俺を怖がらない?」

「、、、、危険な気がしないから、、大丈夫な気がする。」

愛唯が言うと星七は微笑んで

「うん、俺も、愛唯といても危険な気がしないし、大丈夫だって思えるから、愛唯は普通だよ君だけが特別でもないし、俺だって特別じゃない、みんなの普通の基準が分からないけど俺の基準じゃ君は普通だ。」

そういった。

「でも、私が居るとみんな怖がって逃げて行っちゃうから、こうやって人とまともに話すのもなかなか出来なくて、最近話してるのは滝川さんだけだし、だから私人と話すのが苦手で、」

愛は伏し目がちに言った。でもその言葉に悲しみや感情はあまり感じられずよく分からなかった。

「愛唯は、感情を表現するのが苦手なんじゃなくて、表現の仕方とか、どういうものが嬉しいとか悲しいとかなのが分からないだけだと思うよ?」

星七が言うと、愛唯は空を眺めて

「私、嬉しいとか、悲しいとかはわかるよ」

と言った。星七は愛唯の答えに、「ははは」と笑ってしまった。愛唯は星七が急に笑いだしたことの理由が分からず首を傾げた。

「なんで笑うの。」

と少し拗ねたように言った。愛唯は星七を見てから目線を下げると星七はすかさず

「いや、違くてこれは、えっと、愛唯があまりにも純粋で、俺が汚いだけだよ。」

とカバーした。でも愛唯はさっきと違う方向に首を傾げると

「星七は、綺麗だよ。」

と言った。多分服とか見た目の話をしているのだ。掴めないなと思いながらも微笑ましくもなり親になった気分だ。

「そうだ、仕事溜まってるから早く片付けないと。」

愛唯はそういうと星七を連れてデスクに戻ってパソコンを開くと星七に今来ている仕事を見せた。

「このファイルはやってもやらなくてもいい仕事内容が転送されてくるからやりたい仕事だけする。こっちのファイルは絶対にやらないといけない仕事。今期限が迫ってるのは、探偵活動の結果報告か、今日の夜にまで結果をまとめて、明後日依頼人と会って結果を報告する。」

と愛唯は手際よくいい、星七と一緒に結果をまとめることになった。

「なんの探偵活動だったの?浮気とか猫探しとか?」

星七が言うと愛唯は自分の調べた毎日の記録を見せた。

「依頼人は笠原(かさはら)智貴(ともき)さん、婚約者との連絡があまりつかなくなって1年前から会えなくなってるから、尾行とその理由を調査して欲しいってターゲットは笠原さんの婚約者、伊藤(いとう)(はな)さん、結果は、浮気ではなかった。その旨の文章だけでいいと思う。」

「でも依頼人にその理由もって言われてるならそれも伝えた方がいいんじゃないかな?」

「いいや、いい。これは私達が伝えるべき事じゃないから、無闇に踏み込みすぎたり、伝えない方がいいことを伝えてもかえって相手を怒らせるだけだし私はとりあえず浮気ではないって伝えるだけ。」

「ふーん、でもなんで理由を言わないのか具体的に教えて。」

星七が喧嘩にならないように細心の注意を払って言った。すると愛唯は星七を見て、

「じゃあ、きて。」

といい星七の袖を掴んで部屋を出ると公安の建物を出た。そして車をお願いすると車がすぐに来て愛唯は「あの病院まで」と言うと車が出た。

「もうお昼か、ごめん、いつも食べるの忘れちゃってお腹すいてたらコンビニとかで適当に買ってきていいよ。」

愛唯は頬杖をつきながら言うと星七は愛唯がしようとしていることが分からず少し戸惑って

「あ、うん」

と微妙な返事をした。目的地に着くと大きな病院で愛唯は病気なのではないかと思い少し心配していると受付を通り過ぎて入院中の人たちがいる階へ行きある部屋の前へ行った。そしてノックをしてから部屋に入ると1人の女の人がいた。その人が振り向くと愛唯を見て優しく微笑み「いらっしゃい」と言った。愛唯は「こんにちは」といいその人のベッドの傍まで行くと女の人は星七を見て

「こんにちは」

と柔らかい物腰で言った。愛唯はベッドの傍の椅子に座り星七も座らせると

「この方が、伊藤花さん。」

と言った。突然の事に一瞬間が空いたがよく見れば花さんは凄く優しそうに見えるけどやせ細っていてとても健康と言えるようには見えなかった。

「花さん、この人は私のバディの飛鷹星七です。笠原さんの件、私じゃ説明不足みたいで、直接見た方が早いと思って連れてきました。」

愛唯はそういうと花さんは「そう」と穏やかに言って星七を見た。星七は何となく状況が分かり始めると花さんが囁くように言った。

「私はね末期癌なの。もう生きれる時間も少ない。2年前に癌が見つかってね、その時にはもう遅かった。智貴にも言わないととは思ってたけど、タイミングを逃しちゃって、1年前癌がどんどん進行して入院することになってでも婚約したから、せめて結婚までには元気でいられると思ったんだけど上手くいかないものね。それで、癌の事を隠してたからずっと会えなくて。こんな私を見たらきっと失望するでしょ。迷惑かけちゃったし、愛唯さんに手伝ってもらってその後の事とか色々、やってもらってるの。」

星七はそれを聞いて愛唯がなぜ言わないと、いう選択肢を選んだかがわかった。

「だから、、星七、やっぱり本当のことは伝えられない。少なくとも私たちから言えるような事じゃない。それに花さんが言いたくないなら私は言えない。」

愛唯の言葉に星七は「そうだね」と呟く事しか出来なかった。考えただけでもとても悲しい話だった。

「ごめん、察するべきだった。無闇に踏み込んだ、反省してる。」

星七は反省してそういうと、愛唯も頷いてわかってるというような顔をした。すると花はニコッと笑って愛唯を見ると

「良かったね、いいバディさんがついてくれたみたいで。」

と言った。愛唯は「はい」と言うと花は

「私、愛唯さんが気がかりだったの、ハーフヒューマノイドだってこと私も知った時は少し怖くて、距離を取ってたけど本当は凄くいい子なんだって知って、、でも愛唯さんがどれだけいい人でも勘違いされることが多いだろうから、私が死んだ後大丈夫なのかって、、、でも、これなら大丈夫ね。」

と安心した顔で言った。本当に優しい人なんだなと星七が思い、愛唯の周り、一応ターゲットではあるけど理解者がいてくれてよかったと安心した。すると花が愛唯に「少しいい?」といい愛唯は星七を見ると星七は空気を読んで「俺、外しますね」といい、病室を出た。

「実はね、、ずっと言ってなかったんだけど、余命の話。、、、私、明日生きてるかも分からないの。あと数日、先生から、昨日そう言われた。早くて明日、遅くても2週間後にはもう、ダメみたい。ごめんね、ずっと怖くて余命のこと話せなかったの。でも愛唯さんは本当に信用してたし、私の理解者だった。ありがとう」

その瞬間、愛唯は目を見開いて指の先まで動かせなくなった。こんなに優しい人があと数日後、生きてるか分からないなんて、と考えるだけで心が締め付けられた。愛唯は俯いて、自分の手を見てから、花さんをまっすぐ見ると

「多分、私を理解してくれるのはこの世界に10人いるか分からない。けど、間違いなくその1人が花さんでした。何も知らない私に、色々な事を教えてくれたこと、本当に、感謝してます。何があっても私を理解して、支えてくれたから、、、今の私があります。本当にありがとうございます。」

と言った。言葉は途切れ途切れだったけど、愛唯の感謝や感情が少しだけ言葉に乗っていたような気がした。そして、愛唯は部屋を出ると星七とは言葉を交わすこともなく、車に乗って公安に向かった。愛唯の顔は星七からは見えずずっと外をながめていた。公安についてJOKERの部屋に着くと愛唯はデスクに行き、座ると下を向いて、

「星七は、、もう帰っていいよ、あとは私だけで大丈夫、、、、だから、1人にして、、」

といい、腕をデスクにおいて、感情を感じられない声で言った。

「愛唯、、、花さんの事、花さんと愛唯はどういう関係なの?ただのターゲットじゃないでしょ?」

星七が言っても、愛唯は黙っていた。星七は愛唯の様子を見て「コーヒー、飲もっか」といい愛唯を休憩室に連れていった。星七は2人分のコーヒーを入れて愛唯の方にはミルクと砂糖を入れると愛唯に出した。愛唯はそれを一口飲むと口を開いた。

「花さんは元警察官だった。私が12歳の時にここの近くの交番に赴任してきて、学校帰りにそこを通ってて、花さんは事情を知ってたから仲良くしてくれた。」

星七はそれを聞いてそういう事か、と納得した。

「色んなことを教えてもらった。挨拶をすること、人としてのマナー、勉強からファッションまで。多分私の記憶がある中で1番信頼してた。でも癌ってわかってからどんどん病状が悪くなって、、警察官を辞めざるを得なかった。」

星七にとっては、もし自分がそうなったらそう考えるだけで苦しい話だった。

「優しくて、強くて、よくみんなから私を守ってくれた。警察官の鏡見たいな人でみんなに頼られてた。、、、本当に悔しかった。どんどん痩せていく花さんをただ見る事しか出来ないのが。まだ警察官をやってた時、交番に学校帰りに寄り道してたの、私と花さんだけで、そしたら発作で花さんが倒れたの、私は動けなくなって何も出来なかった、もっと何か出来ることがあったんじゃないかって、今でも思う。その発作の治療が遅くなったせいで花さんは病状が一気に悪くなって警察官、できなくなった。私のせいでもっと私ができていれば、」

その時愛唯はその時の花さんを思い出した。



「花さん、ごめんなさい、、、私、何も出来なくて、、もっと何か、できたはずなのに、、ごめんなさい、私があの時、もっと早く、何か出来れば花さんはまだ、、、警察官やってたかもしれないのに。私のせいで、ごめんなさい。」

「愛唯ちゃんのせいじゃないよ、いいの、元々いつかはこうなるって言われてたの、治療を選ばなかった私も悪いから、怖い思いさせてごめんね。」

花は愛唯の頭を撫でた。愛唯は心では泣いているはずなのに涙は出なかった。ただ、体が小刻みに揺れるだけで、汗すら出てこなかった。でも、そんな愛唯を見て花さんは愛唯を抱きしめると嬉しくも悲しくもある微笑みで頷いた。




「どうにかして花さんを助けられないかずっと考えてた。ずっとずっと、考えてたのになんの方法もなかった。ただ、ずっとやせ細っていく花さんを見ることしかできなかった。挙句の果てにターゲットとして最期は接しないといけない結果になった。」

愛唯は歯を噛み締めた。それぐらい、どうしようもなくて、悔しいんだろう、星七はただ、愛唯を話を聞いて、俯く事しかできなかった。この世界に10人いるか分からない愛唯の理解者はもうすぐ居なくなる。世界で1番愛唯を気にかけ、信頼していた、愛唯というAIの脳を持ったハーフヒューマノイドを1人の人間として、友として、接してくれた人が、、。


次の日は朝から忙しかった。前日の夜花さんは亡くなったそうだ。誰も居ない真っ暗な病室で、たった一人で、、。次の日笠原さんに花さんが亡くなったと連絡され、葬式に行くことになった。愛唯と星七も行くことになった。葬儀場は泣き声や花さんとの思い出を泣きながら語る人達が多くいた。その中に笠原さんがいた。笠原さんは2人を見るなり怒りが爆発したのだろう、愛唯につかみかかってきた。

「おい!なんで、なんで言わなかったんだよ!言ってくれればなにか手を貸せたかもしれないのに!なんで!」

怒鳴り声が響き、あたりは静まり返ったが愛唯は笠原さんが掴んできた腕を握りしめると涙を流した。

「私だって、本当は言いたかった。でも花さんそれを嫌がったんです!こうすれば私を嫌いになってくれるって、嫌いになればまた違う人と幸せになってくれるって!好きだから、花さんはあなたのことが好きだからどうしようもなく嘘をついてたんです。私だって悔しいんですよ!どうしようもないってわかってるのに悔しい、でもこれが本当に悔しいか分からない。悔しいから泣いてるのか、悲しいから泣いてるのか、分からないんです!教えてくださいよ、、」

愛唯は泣き叫んだ。星七は止めようとして1歩前に足が出たが涙が溢れた。

「愛唯、、、もう、やめよう、、笠原さん、愛唯を離して、ください。」

星七は2人を引き離すと笠原さんはさらに怒りが湧いたのか

「お前、ハーフヒューマノイドだからって、特別扱いされてるからって、ふざけるな!知ってるぞ!機械だから感情がないんだろ!その涙だって、全部偽物なんだろ!この!AIのバケモノがっ!」

愛唯は床に膝を着いて絞るような声で言った。

「初めてだったんです、全部が。誰も私に近づいたりしなかった、誰も私を見なかった。でも初めて言われたんです。〝うん、普通だね〟って。、、、私には、ハーフヒューマノイドにとっては普通って言う言葉が、特別なんです。とても羨ましいんです、周りを見て、普通を羨む事しか出来なかった私が普通に見えるって、その言葉がどれだけ素晴らしいか、分かりますか?特別扱いされて、国に保護されてるんだからとか、機械でできてるから頭がいいとか、そんな特別なんて要らなかった。普通に生きたい、生きたかったのに、せっかく私を普通の人として接してくれていた、認めてくれた人が。、、、あなただけじゃない、ここにいる人全員悲しいんです、特別とか、関係なく、言葉にするのが難しいぐらい、、、この気持ちの名前が分からないぐらい、、、」

愛唯の目からこぼれる涙をただただ眺めることしかできなかったのはきっと星七だけじゃなかった。全員、動けなかった。自分では分からないハーフヒューマノイドの思いが今本人の口から叫ばれた。喉の奥につっかえてた言葉が、痛みが全部愛唯から消えた。笠原さんだけじゃなくて、この場にいる人のほとんど、星七も含めてハーフヒューマノイドという未知の生き物に少しは偏見を持っていた。感情が、分からない、泣かない、怒らない、悔しがらない、何も思わない、感じない、考えない、でもそうじゃない悔しい、悲しい、普通になりたい、特別なんていらない、ただの半機械(ハーフヒューマノイド)が感情を持っていた。その事実は愛唯の話を聞いていた者たちの偏見を少しだけでも変えた。

「愛唯、もう帰ろう、これ以上は、、、、花さんが望まないでしょ。」

星七も涙を抑えたのに勝手に目から出てきて、止められなかった。愛唯を抱えて立たせようとすると愛唯は自分で立って、

「花さんに伝えないと行けないことがあるから、」

といい、前に行ったそして棺桶を辛そうに触り、声を絞り出した。

「花さん、私まだ言ってないことあったんです。だから少しだけ聞いててください。初めてあった日からずっと花さんが居てくれたから今の私がいます。機械だからって訳では無い理由で壊れそうになってた私を人間に戻してくれたのはあなたでした。きっとあのままなら、本当に機械として生きていた、今の私は死んでいた、救ってくれてありがとうございました。一昨日、も、言ったけど、私の唯一の理解者でした。私を人としてみてくれてありがとうございました。私に色々な事を教えてくれてありがとうございました。最後まで優しくしてくれてありがとうございました、私を本当の妹のように接してくれてありがとうございました。、、、愛唯、っていう名前に意味をくれた事、愛唯という名前私が嫌いだって言ったら、あなたはすごく悲しい顔をした。『あい』は英語にすればAIだったから、私はこの名前がハーフヒューマノイドとして生きる為の名前だと言ったけど、あなたは『あい』という名前を好きと言ってくれた、『あい』は生きる上でとても大切なもので人間だけでなく、それは生き物が証明すると言ってくれた。唯一の愛、私の名前の意味を教えてくれた。孤児だった私に記憶のない私に笑顔で教えてくれた。私の名前は世界で私しか持ってない、愛を持っているって。感情を知らないハーフヒューマノイドには似ても似つかない名前だったのに、今ならこの意味が理解出来ます。みんなの気持ちはまだ分からないけど、これから私なりに理解して、私だけの、、ハーフヒューマノイドとして生きる私の『愛唯』を、誇りにしていきます。だから、これまでもこれからもあなたは本来は無いはずの私の心の支えです。私は花さんと出会えて幸せでした。闘病生活、、お疲れ様でした。また会いに行きます。その時はきっと私はハーフヒューマノイドじゃなくて、心を持った人として会いにいけるから、待っててください、何年先になっても私は花さんを忘れることはありません。だから、私をどんな形でもいいから見守っていてください。」

そういうと愛唯は立ち上がり星七の方へ歩き出した、すると走馬灯のように花さんとの記憶が流れてきた。


「ねぇ、愛唯ちゃん、私の事お姉ちゃんって呼んでみてよ!私妹がずっと欲しかったの!」

「恥ずかしいのでまた今度、」

「えー、ケチーほら言ってみて!お!ね!え!ちゃ!ん!」

「花さん」

「あー違う違う!お姉ちゃんだよ!」

「花さんです。」

「まぁ、いいや、じゃあ愛唯ちゃんが呼びたいって思った時呼んでよ!」

「わかりました。」


何年前のことか忘れたけど結局、一回も言ってないことに気づいた。その瞬間愛唯は振り返り、また棺桶の所まで走っていくと、顔を見て

「、、、遅くなってごめんなさい、、ずっと言いたかったけど、今更だけど許してください。お姉ちゃん、大好きだった。大好きだよ、ありがとう。」

とまた涙を流して言った。突然愛唯が花さんをお姉ちゃんなんて言うからあたりは訳が分からずシーンと音が消えた。愛唯は星七を連れて早々に葬儀場から出ると、タクシーに乗って公安に戻った。愛唯はずっと涙を流していて、星七は横で黙って涙を堪えていた。その日は結局、帰りの「お疲れ様」しか話さず次の日は休みで会うことはなかった。


2ヶ月後、愛唯は思い出してたまに涙を流す。まだ心の傷は健在でたまに花さんがいる訳でもないのに無意識にあの病院に行ってしまうのを星七は知っていた。そして、その病院の看護師さん達は愛唯を避けていたが、今愛唯が無意識に行ってしまい、誰も居ないところで泣いているのを知っているから避けるのをやめた。むしろ協力的になって、星七からのお願いで、愛唯が来たら病室にだけ行かせて欲しいといえばその通り、病室まで連れていき、誰も居ないベッドの横で愛唯が静かに涙を流すのを何度も見守った。

「愛唯、今日は顔色がいいね、目も昨日より腫れてない。」

そう言ってコーヒーを出す、砂糖とミルク入りの。

「昨日、迷子の猫を見つけたけどずっと逃げられて鬼ごっこ状態が一日中続いて泣く暇がなかった。でもちゃんと猫返せて良かった。」

あれから愛唯の命への向き合い方が変わったのは言わずともわかる。

「ねぇ愛唯、俺の友達に面白いのがいてさ、幼なじみで、名前は、天野(あまの)叶奏(かなで)って言ってすんごい弱気なのにすごい、優しい男、もう1人が花厳(かざり)(ひな)って言って、こっちはすごい自信家、あと天然。この2人付き合ってて、真反対すぎて逆に相性いい。それでさ、俺以外の友達、愛唯に作って欲しいなって思ってる。会ってみない?あの二人は愛唯の事理解してくれると思うし、大丈夫だよ。気分転換にもなるし、嫌なら会わなくてもいい、愛唯の好きなようにしていいよ。」

星七が言うと愛唯は少し間を置いてからまっすぐ星七を見て

「会ってみたい、花さんに心配かけないためにも私も前に進む。」

そういった。愛唯なりに成長しようとしている、過去を置いていく訳では無い。むしろそれがもっと大切になるように、そしてかけがえのないものであるから、一緒に行きたいと思うから、花さんと共に進もうとしてる。

「わかった。次の休み空けておいて、じゃあ今日は2人の面白エピソード話そうかな、それか俺の事。」

「星七の話がいい。」

「珍しいね、OK、じゃあ俺の兄さんの話、俺の名前星七でしょ?星に七。これ兄さんの名前と繋がってて、兄さんの名前北斗なんだ。合わせて北斗七星。それでさその由来が兄さんが生まれた日、父さん山にいたんだって。父さん登山家でさ。兄さんが生まれるってなった時、父さん慌てて山を降りようとしたから迷子になったらしい。でも空を見たら北斗七星があったんだって。それを目印に下山できたんだ。だから俺と兄さんには誰かが困ってる時その人を導けるようにっていう願いでこの名前つけた。」

最近愛唯は星七を知ろうとしている、いや、星七だけでなく人を知ろうししている。些細なことでもなんでもよく聞いてくる。嬉しそうな人がいれば愛唯も本当に少しだけど口角が上がる、逆に悲しそうな人がいると愛唯は俯く。もう完全な半機械(ハーフヒューマノイド)では無くなった。1人の人間少しでもそういえる根拠が彼女にはある、人間であり、AIであり、ハーフヒューマノイドの彼女をどれにするのかは人それぞれだけど、今の星七から見た彼女はただ普通の女の子だ。

「星七はお兄さんと似てるの?」

「はは、全然似てないよ、俺はどちらかと言うと中途半端なおちゃらけ人間だけど兄さんは完璧な頑固人間だからさ、見た目はまぁまぁ似てるかな」

「小さい頃喧嘩した?」

「あんまりしてないかも、好き嫌いもほとんど逆だったし、あとそれなりに仲も良かったよ」

「反対すぎて相性がいい、ってやつ?」

「そうだね、そういえば愛唯と俺も反対だよね、苗字」

「あぁ、そういえば」

「俺は飛鷹で鷹が飛ぶけど、愛唯の小鳥遊は鷹がいなければ小鳥が遊ぶってことだから。」

「詳しいね」

「前の仕事の時愛唯の苗字書けなくて調べた。」

「小学生の間に習うはずだけど、」

「たかなしって簡単なたかなしと愛唯の難しいたかなしあるじゃん」

「どっちも小学生レベルだよ」

「ややこしいし」

「まぁいいや、それよりさ、つぎは星七の家の事教えてよ。」

愛唯への偏見のある世界でもたくましく生きようと思う。愛唯へ初めて歩み寄った優しい人ですら神様は無慈悲に命を奪う。AIとして生きるのは本当に辛いことだらけだけど、だからこそその中の幸せの重みを知れる。みんなの当たり前が当たり前じゃないように、愛唯にとっては全然違うことだけど、その中で強く生きる。先に行ってしまった恩人の分まで、愛唯なりの人生を送る。今は長い人生の旅の途中なのかもしれない。



次の話を出すまでかなりの時間がかかるかもしれません。(この話は5ヶ月話を練りました。)ご了承ください。

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