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第60話「Threesome《三人で》」


『本日、臨時休業させて頂きます。誠に申し訳ありません』


 なにかのチラシの裏にそう書いて、ロケットベーカリーの正面入り口に貼り付けた。

 一歩下がってそれを眺めていると、いつもの時間に千地球のママがやって来た。


「あら雁野さん。今日お休みなの? 珍しいわね」

「ちょっと昨夜からバタバタしちゃってて」


 ふむん、と顎に手をやったママが続けた。


「そうなの。でも参ったわね、パンどうしようかしら」

「千地球のパンは焼いてありますよ。さ、中へどうぞ」


 ママを店内へと誘って、いつもの食パンやバゲットを袋に入れて手渡した。


「開いてないロケットベーカリーってこんな感じなのねぇ。なんだか違和感が凄いわね」


 ママの言葉に二人してキョロキョロと店内に視線をやる。

 言われてみると確かにそうだ。定休日の月曜日なんてこんな感じだが、なんだか違和感がある。なんでだろうな。


「カオルちゃんも凛子ちゃんも居ないと変な感じ。そのせいね、きっと」


 なるほど。確かにきっとそうだ。


 ――カンカンカンカン、と裏の外階段を降りる音が聞こえ、裏口からカオルさんが飛び込んだ。


「ごめんなさい()()! あたしすっかり寝ちゃって――!」


 目をまん丸にしたママの視線が私とカオルさん、裏口から二階の私の部屋と忙しく行ったり来たり。


「いや、その、昨晩いろいろありまして……」


 がしりと両手で肩を掴まれて、「やったわね雁野さん!」なんて言われちまった。


「は、ははは……」

「おほほほ。あとは若いお二人にってヤツねここは」


 苦笑いの私と、こてんと首を傾げたカオルさんにママがさらにそう言った。そして片手で口を覆ってにやにやした目で私たちをたっぷり睨め付けて帰って行った。

 間違いなくなにか勘違いしているが、正直言って悪い気のしない勘違いだからしばらく訂正せずにいてみよう。面白いから。



「急いで準備しますね!」

「平気ですよ。今日は臨時休業、お休みにしましたから」


 驚いた顔から、一気にしょんぼりしちまった。勝手に決めたのマズかったか?


「昨日のこと……やっぱり夢、じゃないんですね」

「え、あ、ああ、そう、ですね。私もよく分かってないんですけど……」


 しまった。そこらへん喜多と打ち合わせておけば良かった。そのまま伝える訳には当然いかないが……


 しょうがない、『そっちは任せる』に含まれるって事にしよう。


「き、喜多が、今度説明するって言ってましたから、とりあえず一旦忘れておきましょう。うん、それが良い」


 すまん喜多。昨夜の『吐くなよ!』みたいになんか良い感じのカバーストーリーでっち上げてくれ。頼む。


「そう、ですか。じゃそうしましょっか」


 なんとなくすっきりした顔のカオルさんが『にへら』で言った。可愛い。好きだ。

 バタバタと降りてきた野々花さんも合流した。


「でも、ごめんなさい、あたしのせいでお休みなんですよね」

「え――? ち、違いますよ、その、そう、あれです。そう、新作パン――新作パンのイメージが出来上がったんでどうしても作ってみたくてお休みにしたんです!」


 どうだ? 喜多みたいにはいかないがなかなか上手いでっち上げじゃないか?


「もちろん店側の都合のお休みですから、二階でのんびりして頂いても、帰って頂いても時給は発生しますから」


 私の言葉に杭全(くまた)母子は顔を寄せ合い「うーん」と唸って悩む素振り。


 熊一(ゆういち)熊二(ゆうじ)ももう居ない。

 喜多の調べじゃさらに弟がいて、熊三、熊四……熊七熊八がいる、なんて事もないらしい。

 二人で街に出て羽を伸ばして貰ったって平気なんだから。


「じゃあさ! わたしとママも新作パンのお手伝いしよ!」

「ナイス野々花! それだわ! 店長そうしましょ! とりあえずスーパーに鮭買いに! 三人で!」


 い、良いのかな。こんな岩みたいなおっさんが一緒に行って――


()()()()()()! 早く! 戸締まりして行きましょ!」


 ――最高だ。行こう。

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