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第46話「Handsome《男前》」


 いかにも『(やま)しい事がありますよ』と言わんばかりに(ども)ったのち、数秒か、十数秒か――数分って事はないと思うが沈黙が続いた。


 た――耐えられん――と、そう()を上げそうになった時、ぷふーっ、と音を立てて凛子ちゃんが吹き出した。


「もう、店長ってば! なんなんすかその()()は!」


 お? 語気は強いが楽しそう、か?


「店長が()()なのは分かってるっすから」


 ……()()、とは?

 この間もそんな事を言ってたが、なにがどう『そう』なんだろう。


()()()()()()()()()()()()()分かってるっすから」


 ……え、それ、分かってるっす……?

 な――なんだと!?

 私の()()()、分かってる、って言うのか?


「だからそんな動揺しなくっても良いんすよ」


 なんというか、聖女の微笑みって言うのかな、そんなあらゆるものを許して受け入れる様な、慈しむ様な微笑みを凛子ちゃんが浮かべてたんだ。


「だからってオレも諦めねえっすけどね! なんとなくまだ()()()そうな気もしなくもねえし」


 ……脈、ありそうかな?

 確かに凛子ちゃんの事は好きだけど、それはやっぱり『人として好き』の域を出ないとは思うんだ。


 でも……それでも、やっぱり私みたいなものがカオルさんや凛子ちゃんと普通に恋愛するのは難しいと思う。

 保留とは言え明日の晩だって()()の依頼が入ってるくらいだから。


 それでも、いま私に言える事は凛子ちゃんにちゃんと伝えておくべきだと思うから。


「凛子ちゃん。私は、その、カオルさんの事が――……」


 ダメだ。やっぱりこんなこと言える立場じゃない。


「店長。諦めずに最後まで言った方が良いと思うっす。オレ……オレちゃんと聞くんで」


 ………………。


「…………私は、カオルさんのことが好き――らしい、んだ。ごめん、凛子ちゃんの想いには応えられない」


 自意識過剰だと思わなくもない。

 けれど、いま一番言わなきゃいけないのはそうだと思うから。


 私の言葉が聞こえた筈の凛子ちゃんは俯き、そして勢いよくワイングラスを呷った。


「ちょ――り、凛子ちゃ――」

「やぁっと言ったっすね!」


 たんっ、とグラスを置いた凛子ちゃんが続けて言う。


「分かってたっすフラれるの! ママさん! ワインおかわり!」


 凛子ちゃんはグラスを掲げてママを呼び、おかわりのワインを再び呷るとともにママの胸に抱きついて声を上げた。


「ママさーん! ()()フラれちまったっす! 慰めて欲しーっす!」


 素の方の凛子ちゃんの様子に狼狽えながらも、ママは凛子ちゃんの背をぽんぽんと叩いている。さすがだ。


「よしよし。辛かったねぇ凛子ちゃん。雁野さんにはわたしからきつーく言っとくからね」


 私に味方はいないのか、けれどそれもしょうがない、と思ったんだが違った。

 逆だ。


 私には味方しかいなかったんだ。


「雁野さん」「店長」

 二人が声を揃えて言う。


「応援してる」「応援してるっす」


 語尾はさすがに揃わなかったが、二人ともが私を応援してくれるとそう言ったんだ。


「けどやったじゃん雁野さん」

「な――なにがです?」


「カオルちゃんとダメでも凛子ちゃんがいるもの」

「そんな不義理なことできませんよ」


「オレは別に良いっすよ。カオル先輩にフラれたらオレんとこ来てくれても」


 ……敵わないなぁ凛子ちゃんには。

 何回も言うけど、凛子ちゃんが一番男前だ。間違いない。


 ちらりと視線を遣れば、グラスを磨くマスターも立てた親指と笑顔を私にくれた。

 うん、マスターも凛子ちゃんの次に男前だ。

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