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第32話「First baking《初パン焼き》」

※ここから何話かパン焼いてばっかです。


「じゃあ今日からは手捏ねチャレンジだね」

「はい! お願いします!」


 いつもより早くに来て焼成と成形を進めておいた。成形を済ませたパンは温度調整してゆっくりめの二次発酵中だ。


「と言っても野々花さんが焼いたパンは売り物には出来ないからね、一日で一回、三つ四つのパンを焼く程度にしましょう」


 成形済みのパンに溶き卵(ドリュール)を塗る作業、簡単なパンの成形、そんなものを私と共に進めている間に昼ピークだ。


「カオルさん、忙しいとは思いますがカウンターおひとりでお願いします」

「まっかせて下さい! あ、違った、かしこまりーん♪」


「いや、それウチの決め台詞とかじゃないですからね」


 こほん、とひとつわざとらしい空咳を挟み――


「さぁ、捏ねてみよっか」

「はい!」


 縦型ミキサー(コロちゃん)の腹ん所のボウルじゃない、普通のボウルをデジタルスケールに乗せる。


「粉を二〇〇グラム入れてみよう」

「振るったりはしないんですか?」

「このままで平気だよ」


 そして私の指示通りに、強力粉、砂糖、塩、水を入れて混ぜ、ある程度混ざったら全卵、さらに水に溶かしておいた生イーストを加えて混ぜる。

 ゴムベラから手に変え、ボウルから台に変え、台に擦りつけるように捏ねる。


「バンバン叩きつけるのアニメで見たんですけど、しないんですか?」

「後でするけど、その擦り付ける作業が同じ効果なんだ」


「あれって、なんのためにするんですか?」

「グルテンを強くする――って言っても分かんないかな?」


「なんとなく……聞いたことあります」


 粉っぽさがなくなったら油脂を加える。今回は無塩バターだ。スケッパーを使って切りながら混ぜていく。


「よし、お待ちかね、叩きつけるよ」


 『いらっしゃいませこんにちはー!』


 カオルさんの声が来客を知らせる。順調に昼ピーだ。売れ行きも耳で確認し、野々花さんを構いながらも時折り追加でパンを焼く。


 バンっ、バンっ、という厨房からの物音にお客も興味津々だ。『あれってホントにやるんだね』なんて呟きが聞こえてくる。

 普段の私もやっているんだが、オッサンがする分には特に話題にもならないということか。


 そして発酵器(ホイロ)に入れ一次発酵――


 まぁ、パンを焼く細かい様子は割愛し、ガス抜きを経てベンチタイムを取って生地を休ませ、成形し二次発酵――


「お疲れ様でしたカオルさん」

「野々のパン、どうですか?」


「ええ、もう焼き上がりますよ」 


 天板二枚挿し三段オーブン、自慢の彼が焼き上がりを知らせる。

 当然すでに店内は焼き立てパンの香りが充満しているのだが、オーブンを開くとさらに香った焼き立てパンの香りに野々花さんの顔が綻ぶ。


 分かる。

 私も手伝ったとは言え、初めて焼いたパンは特別だよな。


「さぁ、野々花さん初の手捏ねパン、ロールパンの出来上がりだよ」


「ふ――ふわぁぁぁぁあ!」


 それも分かる。

 目を見開いて頬を桃色に染め、そして語彙を失う。


 見るからに美味そうなパンが初めて焼けた時はそうなるよな。

 ただし、私が初めて焼いたパンはゴミのような目も当てられないパンだったが……


「小さめにしたから八つ焼けました。二人のお昼にどうで――」

「はい! ぜひぜひ!」

「ちょ――ちょっとママ慌てすぎ!」


 野々花さんよりカオルさんが()()()()に手を挙げたのを、野々花さんが真っ当に嗜めた。


「だって野々花の初めてのパン食べたいんだもーん!」

「わたしだって食べたいけど……でも、美味しいか分かんないから……」


 素人パン焼き名人のより絶対に美味しいのは間違いない。私のレシピ、私の監修、さらにパン屋の機材に材料。


 しかも、それを食べるのがカオルさん(母親)なら尚のことだ。間違いない。

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