オタクが勝たなければならないんだ!
タイトルを少し変えました。
旧タイトル
"大魔王を倒したらどんな願いでも叶えてくれるそうです。僕の願いは殺された彼女を生き返らせる事です。"
サチと言うポニーテールの女の子と、僕はたびたび図書室で会った。会話上手でない二人だった為、挨拶程度の雑談をして、お互い読書を黙々とするような、そんな関係だった。
ある日、僕は彼女に異世界初日の事を思い切って切り出してみた。なぜ、こんな図書室で物静かに読書をするような子が暴力行為に出たのか興味があったからだ。
「サチさんは異世界に来て間もなく、あのチンピラ男をぶん殴りましたよね? あれって何か理由があったんですか? サチさんはスゴく大人しそうな方に見えるので、意外な行動だなって僕は思ったんです。その理由がどうしても聞きたくて……」
サチがジロリと僕の方を見る。いや、その目恐いよ。僕はまた突っ込んだ質問をし過ぎたかなと、かなりビクビクする。
「女の子が助けを求めていたからです……。困っている人は見過ごせません……」
サチは静かに応える。怒っていないように見えるが、少し僕に対して冷めている感じがする。これはいかん。気まずい。僕は彼女を褒めて、話を盛り上げようと試みてみる。
「いや、確かにそうですよね。僕なんか勇気がなくてなかなか出来なかったです。でも女の子助けるなんてスゴくカッコいいですね。まるで、アニメの主人公のようでしたよ。サチさん、ホントスゴいです」
サチの眉がピクリと動く。何か触れてはいけない事を言ったのかと、僕はかなり不安になる。そして、サチはいぶかしげな顔をして、僕に質問をしてくる。
「アニメとか……よく観るんですか?」
「あ、うん。たまに観ますけど……」
僕の返答を聞いた途端、彼女の目の色が変わる。
「え、例えばどんなアニメを観るの? ジャンルは?」
「え、バトルものとか、スポーツものとか色々観ますけど……」
「ホントに? ファンタジーとかロボットものとかは? 恋愛ものとかは、さすがに観ないよね?」
「いや、恋愛ものも、たまには観ますよ。ロボットものはかなり好きですよ。あと、流行りのものとかは一応チェックしますけど……」
「え、マジで? 結構色々観てるんじゃないの? そっか、ロボットものもイケるんだね。分かるわぁ。じゃあさ、自分史上最も最高のアニメって何なの?」
サチのマシンガンのような質問が止まらない。明らかに今までとは違う話の量とテンポだ。僕は少し圧倒され、遠慮気味に応える。
「え、"ドラゴンの聖拳マン"って言う昔の格闘アニメが好きなんですけど、サチさん知ってますか?」
彼女の見る目がもう一段階変わる。僕をかなり凝視している。サチは再び興奮気味に応える。
「知ってるよ。あのアニメは私も最高のアニメだと思っている。ストーリー構成、キャラクター、作画、声優、全て一級のアニメだと評価している。君はどこが一番の評価ポイントなんだい?」
「え、あ、僕は主人公が素手で悪い奴らを倒して行く所がスゴく好きで。やっぱり男の子だったんで、強い男に憧れを持っていて……」
「そうなんだよ! やっぱり正義が悪に勝たなきゃダメなんだよ! アニメでは正義が勝つんだよ。でも、現実世界では悪い奴らが社会的に上の立場に立ってたりする、そんな理不尽な世の中だよ。私はそれが許せない。この異世界においてもだ。だから、一発かましてやったんだ。あのチンピラに」
サチは力説し、席を立つ。もしかして、アニメという言葉でスイッチが入ったのか。僕は彼女の豹変ぶりにたじろぐ。
「君はこの異世界に来ている40人について、どう思う?」
サチは座っている僕を見下ろし、僕の顔をじっと見る。
「え、どう思うというと……」
「私は、この異世界に来た40人は三種類の人間に分類出来ると思うんだ」
はぁと僕は彼女の勢いに押されながら、力のない返事をする。
「まず、一種類目は犯罪者や反社会な人間達だ。ここに来た連中の中には指名手配犯や、大きな犯罪を犯した人間、借金を踏み倒して異世界に逃げて来た人間などがいる」
あぁ、なるほど。僕は相槌を軽く打つ。サイコパスやあのチンピラがこの種類だなと納得する。
「そして、二種類目は一般的な人間だ。この人達は普通に仕事して、生活してた人間だ。ただ、現実世界が嫌で異世界に住みたいとこっちに来たケースだね」
ほぅ、なるほど。僕はウンウンと頷きながらサチの話を聞いている。
「最後に三種類目の人間。それは私達、オタクの人間だ。私達は最初からこの異世界に興味、関心を持ち、こちらの世界に転移して来たんだ。他の二種類の人間とは断じて違う! そう、私達オタクの人間がこのゲームに勝たなければならないんだ! そして、絶対にオタク達が犯罪者達に負ける訳にはいかないんだ!」
おぉ、そうだ、そうだ、犯罪者には負けないの所はスゴく賛成だ。僕は感心して拍手する。ん、ちょっと待て。僕はサチの言葉に、一部引っ掛かる部分がある事に気付く。
「私、たちって、どういうこと?」
「君もオタクだろ? ニオイで分かるよ」
「ち、違いますよ。僕はオタクじゃないですよ」
僕は手を横に振り、全力で否定する。
「え、でも完全にオタクのオーラを持っているよ。大丈夫だよ。君なら十分オタクでやっていける。私が保証する」
いや、そんな保証いりませんよ。僕はそう思ったが、サチが笑顔なので、ま、いいかとそのまま流した。
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