天才の覚醒
空を旋回していたワイバーンがサチに炎を吐く。吐かれた炎のつぶては五つだ。サチは冷静にそれを見極め、いとも簡単に交わす。
「お出で、ピッコドラゴンちゃん!」
サチの声と共に、小さなドラゴンが出現する。ピッコドラゴンは地上を俊敏に駆け回っている。ワイバーンはサチから視線を反らし、次のターゲットをピッコドラゴンに定めたようだ。
サチは視線をガクヤに合わせながら、全速力でヤツの周りを移動する。
「何をしても無駄だ。お前は俺には勝てない」
ガクヤが叫んだ瞬間、サチの手から炎の槍の魔法が飛び出す。ガクヤはその魔法を間一髪で交わす。
次の瞬間、光がピカッと光ったかと思うと凄まじい轟音が辺りを包み込む。ピッコドラゴンが炎のレーザーを放ったのだ。標的はワイバーンだ。炎のレーザーがワイバーンを貫く。ワイバーンは消え去り、魔界へとそのまま帰る。
ガクヤは一瞬、そちらに目を奪われる。サチはその隙を見逃さず、炎の連弾の魔法を放つ。ガクヤはその連弾を避け切れず、何発も身体に受け、その場に倒れ込む。
ス、スゴい。サチのヤツ、一人で、あの二人を圧倒しているぞ。やっぱり雰囲気が変わった時、何かが彼女の中で変化したんだ。
能力が著しく上昇した相棒を僕は期待の眼差しで見てしまう。
ガクヤとマコトが傷付いた身体をゆっくりと起こし、立ち上がる。そして、彼等は怒りに満ちた顔でサチをじっと睨む。
「ランキング三位は伊達じゃないな。今まで、力を隠していたのか?」
マコトがそう呟き、剣を構え直す。ヤツのその言葉で僕の心の中に疑問が生じる。
ホントにそうなのか? サチは力を隠していたのか? いや、サチは本気で戦っていたはずだ。では、今のあの力は何なんだ? 相棒の僕ですら見た事がないぞ。まさか、ここに来て才能が開花したのか?
僕は再び、サチをじっと見つめる。彼女から、ただならぬオーラのような物を感じる。サチは重いトーンで敵の二人に言葉を放つ。
「私の事をバカにするのは構わない。確かにあんた達の言う通り、私は選択ミスが多かったかもしれない。でも、ユウトをバカにする事は断じて許さない。許さないんだ」
え、僕をバカにされた事で怒ってるの? それで、新たな力が覚醒した? まさか……。
こんな状況だが、僕は少し頬を緩めてしまう。彼女の気持ちがスゴく嬉しかったからだ。そんな僕の気持ちとは対照的に敵の二人はかなり頭に来ているようだった。
「マコト、俺に付与魔法を。俺も本気で奴等を倒しに行く。上級召喚獣を使う」
ガクヤが相棒のマコトに指示を出している。マコトはすぐさま呪文を詠唱し、ガクヤに付与魔法を掛ける。ガクヤの身体が光に包まれる。ガクヤはもう一度サチを睨み付けると、手を前に出す。
「出でよ! シルフィード! 目の前の敵を切り裂け!」
ガクヤの前に緑色のロングヘアーの少女が現れる。少女には羽根が生えていて、スゴく可愛らしい妖精のように見える。その少女の召喚獣はパタパタと羽根をはばたかせ、ガクヤの周りを飛び回る。
「上級召喚獣、風の精霊シルフィードね。ユウト、気を付けて。魔法の盾で絶対に防御してね」
サチは召喚獣をじっと見て、ポツリと僕に告げる。そして、彼女は呪文を詠唱し始める。
上級召喚獣だって? しかも風の精霊? 付与魔法でステータスを上げてからの召喚。ちょっとマズいんじゃないですか、サチさん?
僕は恐怖を感じながら、サチに言われた通り魔法の盾を身構える。すると、クルクルと飛び回っていた風の精霊はピタリと空中に止まり、両手を前に出す。
「ユウト、来るよ!」
サチは叫ぶと、またもや前方に走り出す。
「サチ、ダメだ! 危険過ぎる!」
僕はサチを止めようと手を伸ばす。その瞬間、召喚獣シルフィードの手から透明な刃が次々と放たれる。その刃はサチと僕を切り刻もうとドンドン襲い掛かって来る。
「ユウト! その風に触れたら身体が真っ二つになるよ! 防いで!」
サチの言葉に反応し、僕は慌てて呪文を詠唱する。この小さな盾では防げない。身体全体を覆うような大きな魔法の盾を僕は目の前に展開する。その瞬間、盾に召喚獣の攻撃が直撃する。
ドドドという激しく物がぶつかる音が絶え間なく続く。僕は盾の後ろで小さくなっている。召喚獣の攻撃を僕は終わるまでじっと耐え続け、様子をうかがう。
サチは? サチは大丈夫なのか?
サチの方を急いで確認する。彼女はまるで優雅にダンスを踊るように、風の精霊の怒涛の攻撃を交わしている。
「な、何だと? あのシルフィードの雪崩のような攻撃を全て交わしただと……」
魂が抜けたような表情のガクヤが呟く。サチはガクヤを一瞥すると手を伸ばし、炎の大きな玉を風の精霊に向かって放つ。
召喚獣シルフィードは炎の魔法をまともに受け、フラフラと地面に落ちる。
「バ、バカな。上級召喚獣なんだぞ」
ガクヤの顔が青ざめている。そんなガクヤに対し、サチは召喚獣ピッコドラゴンを呼び出す。ピッコドラゴンは溜め時間無しで炎のレーザーを放つ。
炎のレーザーはガクヤの手前の地面に炸裂する。地面の岩がまるで刃のように辺りに飛び散る。その岩の欠片がガクヤの身体を襲う。何発もの岩の欠片が敵の召喚士を襲う。ガクヤは地面に仰向けに倒れ、そのまま意識を失う。
「勝負アリだね、ロジックの召喚士さん」
クールな表情のサチは敵に言葉を送った。
読んで頂き、ありがとうございました。
もし良かったら今後の執筆の励みにしますので、ブックマーク、評価などをよろしくお願いします。




