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デスゲームで生き残る必勝法

他の人となるべく会わないような生活スタイルを、僕はこの異世界で送るように努めた。


 昼間は図書室で、ずっと一人で本を読む事にした。そして、夕方から他の人が居なくなった頃を見計らい、教会で僧侶としての魔法の特訓をする事にした。僕は一人の方が集中しやすい。HSPの僕にとって、環境はとても大事なものなのだ。


 だから、午前中は睡眠時間に当てた。これが僕なりの精一杯の戦略だった。誰とも会わない、それが僕の戦い方だと思っていた。


 しかし、僕と同じような考えの人が現れる……。


 僕はいつも通り、図書室で本を読んでいた。実はこれも僕なりの戦略の一つだ。


 デスゲームにおいて、何が一番生死を分けるのか? それは、情報、知識だ。


 過去にデスゲームを取り扱った小説を読んだ事がある。情報を制する者が勝つ。僕はその事を学んだ。


 本は情報、知識の宝庫だ。黒ローブのスタッフからも確かに知識は得られるが、盲点もある。だから、みんなのように外交をせず、僕は知識で勝負しようと考えたのだ。


 僕がイスに座り本を読んでいると、突然、図書室のドアが開く。図書室がどんな風になっているのかと覗きに来る人は、たまにいた。しかし、みんな本を読むより、スキルを上げる事とパートナーを探す事の方が大事だ。だから少し室内を見て、立ち去る人がほとんどだった。


 でも、その人は違っていた……。


 その人は、本棚から本を物色し、席に座って本を読み始めた。僕と一番離れた席に座ったみたいだった。


 一体誰だ? 僕は気になり、視線を本から外す。そして、その相手をチラリと確認する。


 女の子だ……。ポニーテールのあの女の子だ……。


 僕は急に焦り出す。異世界に来たそうそう、チンピラの男相手に暴力事件を起こした、あの女の子だ。


 暴力をすぐ振るう人、短気な人は僕は大の苦手だ。正直、関わりたくない、どうしよう。僕は図書室を退室するかどうか悩み始める。


 しかし、しばらくしても彼女は全く僕に絡んで来ない。彼女は黙々と本を読んでいるだけだ。


 あれ? 僕は気になり、再び彼女をチラリと見る。ポニーテールの女の子は、集中して本を読み続けている。僕の存在など全く気にしていないみたいだ。


 何もトラブルがないのならここに居よう。僕はそう思うと、また本を読み始める。そして、静かな図書室の時間を二人で過ごす事となる。


 夕方になり、僕は魔法の訓練の為に席を立つ。彼女はまだ、本を読む事に没頭している。僕はまたそんな彼女を見つめてしまう。


 本を読んでいる時の彼女は、暴力事件を起こしたあの時とは全くの別人だった。優等生で知的でミステリアスな感じがする。文学少女のような印象も受ける。


 この二つの顔を持つ彼女の事が気になりながら、僕は教会へと移動した。



   *   *   *   *



 僕はまたお昼まで自室で寝て、図書室へと向かう。図書室のドアを開けると、席には誰もいなかった。


 いつものような時間が持てるなと、僕は本を手に取り、席に着く。すると、昨日と同じように図書室のドアが開き、ポニーテールのあの女の子がやって来る。


 僕も昨日と同じ席に座っていて、彼女も昨日と同じ席に座っている。相変わらず、お互い話し掛けずに、黙々と本を読み続ける。


 人付き合いをあまり積極的にしない僕も、さすがに気まずさを感じる。この子に話し掛けた方が良いのではと少し考え始める。


 冷静に考えたら、異世界に来てから、相方はおろか友達がまだ一人もいないのだ。まともに話したのも、黒ローブのスタッフとサイコパスのアイツだけだ。


 一人が好きな僕も全くの孤独は嫌だ。外交も少しは頑張らないと。僕は意を決して、ポニーテールの女の子に話し掛ける。


「昨日も図書室に来てましたよね? どんな本を読まれているんですか?」


 ポニーテールの女の子は、僕の声に驚いた反応を見せる。そして、僕を不審そうな目で見つめる。


 ヤバい、殴られるかも。僕はそう感じ、恐怖で顔が引きつり身構える。


「……魔法に関する本です……」


 彼女から小さなか弱い声が返って来る。


 あれ? リアクションが予想と違うぞ。僕も恐る恐る彼女をじっと見つめる。


 彼女はドキマギしている。そして、視線を落とし、僕と目を合わそうとしない。


 もしかして、彼女も人とのコミュニケーションが苦手なのでは、僕は彼女の表情からそう読み取る。


「そうなんですね? じゃ、あなたの適性は魔法使いタイプなのですか?」


 僕は彼女の表情を確認しながら、質問する。彼女はかなりの美女だ。色んな男から声を掛けられてるから、警戒心が強いと予想される。


 だから、出来るだけ安心感を与えるように、心掛ける。こちらが変な人ではない事を示さなければならないし、僕もチャラいナンパな男だと思われたくないからだ。


「はい、魔法使いタイプです……」


 彼女は視線を左右させながら、応える。やはり、動揺しているみたいだ。ゆっくり時間を掛けて話して行かなければならないなと、僕は感じ自己紹介をしてみる。


「僕の名前はユウトって言います。適性は僧侶タイプです。もし良かったら、あなたの名前を教えて下さい」


「……サチって言います」


 この彼女との出会いが、僕の異世界での運命を大きく変える事となる……。

 


 


 


 


 

読んで頂き、ありがとうございました。

もし良かったら今後の執筆の励みにしますので、ブックマーク、評価などをよろしくお願いします。

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