異世界でやるべき二つの事
良かったら読んでいって下さい。
黒ローブのスタッフから、僕は自室の部屋へと案内された。入ってみると、ベッドと机しかない簡素な狭い部屋だった。
他のみんなも同じ部屋なのかなと思いながら、僕は辺りを見回す。部屋には窓はない。逃げ出されない為にかと、僕はふと思った。
そして、ベッドの上に寝転がり、今後の戦略を僕は考えていた。
この戦いで勝ち抜くには、どうすればいいのだろうかと……。
すると、この異世界でやるべき二つの事が見えて来る。
一つは、僕自身が強くなる事。この条件を満たさなければ、お話にならない。基本ステータスを上げる事と戦いの為のスキルを磨かなければと僕は考える。
そしてもう一つは、強い相棒を見つける事だ。この戦いはタッグマッチだ。一人では勝ち抜けない。極めて重要な案件だ。
やはり、話に出ていたチートスキルを持った人間を探すのが、一番の近道だろうなと考える。
そして、僕はそのまま眠りにつく。明日以降の戦いに備えて……。
* * * *
そして翌朝、僕は自分のタイプと適性を聞く為に、再び大広間へと移動する。やはり、大勢の人が自分の適性を聞きに訪れている。僕も適性を教えてもらう為に黒ローブのスタッフの一人に話し掛ける。
「あの、スミマセン。僕の適性を聞きに来たんですが……」
「あぁ、いいッスよ。教えるッスよ。あれ? あなたは確か最後に受けに来ていた……」
「あぁ、はい。山川優人と言います。青野ビルにいたスタッフさんですか? よろしくお願いします」
「そうッス。あの時はどうもッス。こちらこそよろしくッス。やっぱりお客さん、受かったんッスね。センスありそうだなと思ってたんで、良かったッス。あ、ちなみにここではフルネーム言わなくって大丈夫ッス。登録ネームってあるんで、それ決めてもらったら大丈夫ッス」
「登録ネーム?」
僕は少し考える。しかし、面倒臭いので、普通に登録ネームをユウトにした。
「じゃ、ユウトさんで登録するッス。それじゃ、適性をお伝えするッス」
黒ローブのスタッフはタブレットのような物を出して来て、僕に説明をし始める。
「ユウトさんの適性は……僧侶タイプッスね。回復魔法と補助魔法が得意ッス。武器の特性はどれも低いッスね。直接攻撃、間接攻撃には向いてないみたいッス。攻撃魔法の特性は……。これもないッスね。そんなとこッスかね?」
僕はその言葉に愕然とする。攻撃の適性がない。直接攻撃も間接攻撃も、そして魔法攻撃も。どういう事なのだ。僕は気になり、質問を繰り返す。
「他の方もこうなんですか? 例えば、僧侶タイプの人は全員攻撃適性がないんですか?」
「いえ、僧侶タイプの方でも、剣術特性のある方は聖騎士、いわゆるパラディンになれたりするッス。攻撃魔法特性のある人は、いわゆる攻防の魔法を使いこなす賢者と言われる人になれるッス」
僕はひざから崩れ落ち、うなだれる。自分は回復と補助魔法を使うだけの人で、地味な適性なのかと。
「まぁ、回復と補助魔法は確かに地味ッスけど、かなり重要ッスよ。命に関わるスキルなんで。相方に攻撃力のある人がいれば、その辺の問題はなくなると思うッスよ」
「なるほど、確かに。二人で一組ですもんね? ありがとうございます。また、相談させてもらいます」
僕は黒ローブのスタッフにお辞儀をすると、大広間の人達を眺める。みんな自分の適性を考慮して、相方探しを始めている。色んな人達に声を掛けて、交流を広めている。
僕は正直、初対面の人と話すのは苦手だ。そして、大勢の人達の中で話したりするのは、もっと苦手だ。
HSPの特性のおかげで、僕は色んな人の細かい部分が見えてしまう。その為に大勢の人達といると、その情報量の多さゆえに処理仕切れなくなり、かなり疲れが出てしまうのだ。
だから、人とコミュニケーションを取る事につらく感じてしまう事が多くなる。ゆえに一人で静かな所でいる事が好きになってしまうのだ。
僕は大広間を抜け、城内の他の施設を見る事にした。
まず、剣や槍などを扱う戦士タイプの集まる闘技場へと足を運ぶ。筋肉質な人、スレンダーでスピードの早そうな人達が何人かいる。一生懸命、剣や槍などを振っている。
場違いだな。僕はそう思い、すぐにこの場を立ち去る。
次は魔法修練所だ。攻撃魔法の適性がある人達が集まっている。みんな頭の良さそうな人達ばかりだ。魔導書を読んだり、メンタルトレーニングを行っている人達がいる。
ここも僕は居心地が悪かったので、すぐに移動する。
そして、僧侶適性の人達が集まる教会のような所へと僕はたどり着く。ここも聖書のような物を読んだり、お祈りをしている人達が何人かいる。ここの人達も当然のように交流をしている。
本来なら僕もここで、僧侶としての能力を上げなければならないのだが、なかなか他の人達に交じって行動する事が出来ない。他の人の視線が気になるのだ。
みんな必死でトレーニングを積んでいる。外交的に人脈を広げている。でも、僕はみんなと同じようにするのが苦手だ。一人で黙々とする方が自分に合っているのだ。
僕は教会も抜け出す。この行動により、僕はみんなより出遅れるかもしれない。でも無理なのだ。僕は一人で静かにいたいのだ。
そして、僕は図書室のような本のたくさんある書庫にたどり着く。中を覗いてみると、誰もいない。たくさんの本が敷き詰められている本棚と、机とイスだけが存在している部屋だ。
僕は一冊の本を手に取り、イスに座り本を読み始める。この部屋には僕しかいない。
静かな自分だけの空間と時間を僕はこうして手に入れた……。
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